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2007年12月17日 (月)

トヨタ生産方式で英語が上達するって!?

 トヨタ自動車が日本一の企業といわれるようになってから、けっこうな時間がたつ。そこからずっとトヨタ礼賛が続いている。もちろん「流行」に敏感な出版界もブームにのった。インターネット上の書店「アマゾン」で「トヨタ」を検索すると、なんと4043件もの書籍が引っかかった。そのうち159冊が今年出版されたものだというからスゴイ。

 その本の内容といえば、トヨタ生産方式の説明あるいはトヨタ生産方式を活用した自己啓発本だ。下請けや労働者をギリギリまでこき使い、「乾いたゾウキンを絞る」とも評されるコスト削減を押し付けるトヨタ生産方式を自分に課すなど理解に苦しむ。マゾヒスト御用達の本かとも思ったが、これがけっこう売れているらしい。

 しかし、それでもまだ自分の成長のためにトヨタ生産方式を使うのなら、何となく理屈は通るような気がする。「人間力」が大事と唱えるトヨタイズムは自己啓発と肌合いが似ているようにも感じるからだ(下請けが自殺するまでコスト削減を叫ぶ企業の「人間力」などつけたくもないが)。

 でも、英会話とトヨタ生産方式ってどうなんだ???

 少なくとも普通なら両者に何の関連性も見出せない。その意味で『トヨタ流英語上達術』(スティーブ・モリヤマ著 ソフトバンクパブリッシング)には驚かされた。書名を見る限り、現場に張り付き、ムダを無理やり見つけては「カイゼン」し、採算性向上とコスト削減に力を発揮する生産方式を使って英語を上達させると思わせるからだ。
 
 で、結論からいえば、両者は見事に結びついていた!

 この本は現役の「トヨタマン」6人へのインタビューで構成されている。そして、彼らのほとんどは英語ができないまま海外に派遣されたのである。
 例えば、本書に登場する野中靖氏などは「外国人との接点はほとんどない部署にいましたので、まったくしゃべれませんでした」という英語レベルで、40時間だけグループレッスンを受け、着任早々、欧州投資銀行の借り入れプロジェクトに加わったという。おかげ現地の外国人担当者と毎日のように電話で1時間も会話しなければならなかったというから、現場主義もここに極まれりである。なんといっても中野氏本人が英語が上達した最大の理由を「やっぱり危機感でしょうね。一番の要因は」と分析している。

 語学ではなく、仕事ができるかどうかという基準によって選ばれ、いきなり海外に派遣される。それが「トヨタイズム」らしい。しかも「現場に送り込まれれば、トヨタマンなら英語ぐらい何とかする」と会社から「信頼?」を寄せられているらしい。

 おかげで本書で説かれる英語上達術に目新しいものはない。
 最終的にはワシントンでロビイスト相手に活躍した小西工己氏ですら、「わからん単語を(辞書で)片っ端からひくというローテク」で英語をマスターしたのだから。ただし極限まで溜まったストレスによって、顔に帯状疱疹ができたそうだが。この本の読者が、そこまでして英語を話せるようになりたいかは、かなり疑問だ。

 こうした責任重大な仕事を押し付けて現地に飛ばすという「英語上達法」と同時に本書が説くのが、英語は道具でしかないという「哲学」である。そのため英語上達法の本なのに、コミュニケーションで大切なのは英語よりも人間としての魅力だと力説する。

 ある意味スゴイ!

 この内容で『トヨタ流英語上達術』と書名を付けたことには、かなり感動した。

 ただし、本書に意外な使い道があることを読んでいて発見した!

 なんと現役「トヨタマン」が、トヨタイズムにどれほど洗脳されているのかを知ることができるのである。
 例えば、トヨタ内だけで通用する「トヨタ語」を英語に翻訳するのが非常に大変だったという思い出を語るシーンで、あるトヨタマンは「やっぱりかなり特殊な世界で生きている気はしますね。英訳できないということは、彼らはそういうコンサーンを持って仕事していないわけです。言葉がないんですから……」と語っている。

「初めに言葉ありき」ではないが、言葉がなければその世界を構成できない。だからオウムのようなカルト教団では、その教団内だけでしか通じない特殊用語が大量にはびこる。このトヨタマンは海外で初めてトヨタの特殊性に気づいたようだが、系列会社を除けば国内でもトヨタが異質な会社であることに気づくべきだろう。

 というわけで『トヨタ流英語上達術』は、トヨタウォッチャーにはお勧めである。そんな人がどれだけいるのかわからないが。(大畑)

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