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2007年12月 5日 (水)

ニューヨーク商業取引所の原油価格決定に異議あり

原油高が深刻である。高騰を続けるのはニューヨーク商業(マーカンタイル)取引所の原油先物相場が引っ張っているからだ。
NYマーカンタイルで指標となっているのはアメリカ産標準油種のWTI(West Texas Intermediate)。アメリカ国内でも数%、世界レベルでは1%を占めるかどうかの西テキサス産出(一部別)の超軽質原油の値段で世界中が揺れ動くのだ。

NYマーカンタイルの先物相場が「信用できる」とされているのは①WTIがきわめて良質である②アメリカの経済力は世界一である③WTIの実質量をはるかに上回る買い手が参入するので(約100倍ともいわれる)実勢に近い価格決定がなされる、などだ。本当だろうか
一番疑わしいのは③だ。この論理はより多くの参加者がいる模擬試験の偏差値は信用できるというのとさして変わらない。ただし模試と違うのは先物とはいえリアルな物質を売買している点だ。スーパーマーケットで陳列商品(物質)をはるかに上回る客を想定するなぞ考えられない。一方でNYマーカンタイルの売買方は商品(原油)を買ってバケツに入れて持ち帰ろうとか持ってこようとは思っていない。
あえて比較すれば商品があっと言う間に売り切れるスーパーの棚をめがけて必要量の何倍もの買い物をしたい客が群がるとの日常生活ではイメージしにくい構図となる。実際には大半が予約権の売買にすぎない。この部分だけとらえれば原油をダシにした壮大なマネーゲームの結果として原油価格は実勢とは遠くかけ離れているといえる。
でもダシとはいえ主役は原油である。市場参加者は多いほど客観性の高い数字になる。参加者が少ないと1人の大金持ちの気まぐれ売買で価格が乱高下してしまうからだ。世界の供給量をも上回る金額を示す参加者がいたらそうはならない。②で述べたようにアメリカならばそれが望める。ゆえにWTIは「指標」「標準」になりえる。
しかしそれは取りも直さずNYマーカンタイルが鉄火場だといっているのと同様だ……と話は堂々巡りになる。

②の「アメリカの経済力は世界一」を「標準」の根拠とするのも反論できなくはない。それは取りも直さずアメリカ国内問題を原油価格に反映しているのと同義で、ストック市場が冷え込めばファンドの資金がNYマーカンタイルに流入して需給と関係ない相場が形成される。現に今の価格はその面が強い。

アメリカの政策がドル高であるのは明白である。国内の製造業向けに違うアナウンスをするのは一種のガス抜きである。ドル高だからこそ世界の物資がアメリカ市場になだれ込め、赤字をたれ流しながら繁栄の形が作れる。そうでなくなったらアメリカの消費が落ち込むだけでなく基軸通貨としての存在感が衰える。アメリカがアメリカであり得るのは自在に印刷した紙切れ(ドル札)を世界が信用してくれてこそだ。

こうなると甲論乙駁あるもののNYマーカンタイルの価格を世界標準とするのに疑義を差しはさむ余地は十分にあるといえる。①の「WTIがきわめて良質である」も、その事実が他の市場でもうけようとしている人々のアリバイとなっている可能性だってある。
日本の中東での原油依存度は06年2月発表の経済産業省の調査によると9割を超える。WTIなぞ拝めはしない。中東は世界の供給量の約4割を占める。WTIよりよほど影響力があるはずなのだ。
ただ中東産原油は一般にWTIよりは精製に手間がかかる油質(=WTIより劣る商品)である。その価格は石油専門情報会社のプラッツ社がアラブ首長国連邦(UAE)産ドバイ原油とオマーン原油の価格を石油関係者などから取材して毎日発表する価格に大きく影響される。ではプラッツの情報源は何を参考にしているか推測するに、やはりWTIの動向だろう。売りたい商品の値が高くなればプレーヤーはうれしい。したがって便乗するのにためらいはないはずだ。三大市場の残り一つである欧州原油市場(ロンドン市場)が扱う
北海ブレント原油はWTIに似た品質だから連動しやすい。
というわけでWTIはどうしたって原油価格の国際指標になってしまう。正しくはWTIのマネーゲームに他の市場が便乗しているのだ。

なぜNYマーカンタイルがこれほどの力を持ってしまったかというと1970年代の石油危機に対する対抗軸との側面が歴史上浮かび上がる。OPEC(石油輸出国機構)の石油戦略に苦しめられた輸入国の多くは80年代に入ると省エネやOPEC外での石油調達および開発に務め、一転して石油余りの状態となり、70年代に開発が進んだ北海ブレントなど北海油田が欧州をうるおし始めるとOPECは守勢に立たされ、83年には初の価格引き下げに踏み込んだ。そして肝心の価格決定権も同年に始まったNYマーカンタイルの先物市場に次第に移っていくのだ。
80年からのイラン・イラク戦争、90年のイラクのクウェート侵攻に端を発した翌年の湾岸戦争および2003年のイラク戦争、親米産油国と反米産油国、石油に頼り切りの国と工業化を進める国などOPEC内にある亀裂は時々に噴き出して相対的な力を落としてきた。そこを踏まえると中東や湾岸諸国の「地政学的リスク」はむしろNYマーカンタイルをオーソライズしているといえる。
地政学的リスクは少なくとも結果としてアメリカが何らかの関与をしている。これは果たして結果論だろうか。日本はインド洋上の無料ガソリンスタンドを再開するかどうかですったもんだしているが、私が知る限りアメリカの視線はアフガンにはなく、泥沼化するイラク情勢とイランのウラン濃縮に対する米軍攻撃の可能性に向いている。OPEC加盟国のイラクは戦争や国内の混乱で生産枠の協議に加われない。イランはいうまでもなくOPEC加盟国だ。「地政学的リスク」を自作自演してNYマーカンタイルの覇権を守っているといったら陰謀史観とそしられようか。
もっともOPECもOPECで加盟国は歴史的に総会での決めごとを整然と守らない場合も多い。反米感情を抱えながら、また南米のOPEC加盟国であるベネズエラのチャベス大統領が反米を煽りながら、もうけるところはもうけている。原油消費国の側面も持つアメリカは、原油高によって赤字がさらにふくらんで産油国の黒字とのバランスが崩れてドル暴落=世界市場の大混乱を心配もするからややこしい。ハッキリしているのは皆が皆いいとこ取りをしたいとの思惑がうずまいて煽ったり冷水を掛けたりしているなか日本だけ拱手傍観しているの図である。(編集長)

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