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2007年12月22日 (土)

『吉原 泡の園』 第47回/ボーイにも左遷はある

 夏も終わりを告げようとする頃、いよいよ本格的に内装全面改装が本格化し始めていた。
 名前を変えるかどうかは、まだ保留のまま、様々な業者がR店に来ては会長や店長と打ち合せを行なうようになっていった。
 第2待合室に会長が来る。店内はガチガチのピリピリムードになる。そして、この時ばかりはマネジャーも怒鳴るのをやめる。やめるのだが、さすがにボーイの動きが気に食わなく、顔だけは怒っているのだった。
 会長がトイレに立つ。すぐにおしぼり保温器からおしぼりを取り出し、ビニールからおしぼりを出し、熱々なのでちょうどいい熱さにさますのも、大事な作業なのである。
 会長がトイレからでると同時に、
「おしぼりでございます」
 と言って両手で丁寧にお渡しする。
「あ、ああッ」
 と何気なくおしぼりをとるのだが、どこかまんざらでもない様子。つまり、もともと20万やそこらで、○代目○口組若頭射殺事件で破門になった組にいたため、逃げるように吉原に来た会長が、今や社員数百の暴力会社の会長に成り上がったのだ。まんざらでないはずはない。
 もちろん、会長は入れ墨はもとより、指詰の経験もある。大変な苦労人でもある。人の心を読む力もあるので、僕はそう思っても思っていないように努めるのだった。おしぼりでササッと拭くと、ポイと僕におしぼりを投げ返す。その仕草が完全にボーイは屑。とその動作が表しているのだった。
 悔しかったら上になれ、無言でそう言っているようでもある。
 もともとR店の店舗の基礎、骨格は古いらしい。また、この場所は以前は花魁の寮があったそうだ。江戸時代、遊郭と呼ばれていた頃には、この場所で花魁が生活していた。それだけ多くの花魁が寝起きする歴史の中で、自殺を含め多くの死があったそうだ。この場所で。いわくつきの土地だったのだ。
 そのためか、R店の102号室は夏でも涼しく、あそこは出る。ともっぱらの噂だった。もっとも、幽霊よりもマネジャーの方が怖かったのだが。新しい店舗に向け、何もかもリニューアルしよう、そう考えるマネジャーが、女の娘も新鮮で頑張るコをそろえようと躍起になってもいた。まず、Rグループの姉妹店で、北九州にある店から東京にひき抜くコがいるという話しが出た。
 わざわざ北九州からくるのか、と大変だなと思ってみたが、ボーイも東京から北九州に行くケースがある。ようするに左遷である。そして、それを脅しに、店の幹部はボーイをこき使うケースもあった。
「九州、いくか?」
 それだけで普通のボーイは真っ青である。僕も冗談交じりで聞かれたことがある。姉妹店のDの社長に。R店の店長の前でだ。
「あ、い、あ」
 と戸惑っていると、店長が助け舟のつもりで、
「もちろん、よろこんで行くよな、ハハハ」
 と僕に言ってきた。Dの社長も人の心に感心があるのか、あるいはボーイをあまり信用しない人なのか、用心深く、僕のそんな態度を見て冷たく微笑んでいた。もう、僕には笑って冗談の言える余裕はなかった。
 このD店社長Aさんは、マネジャーが師匠と呼ぶお方だった。以前、マネジャーもR店繁盛のため、D店に武者修業にいっていたそうだ。そこでA社長に弟のようにかわいがってもらい、ソープランド経営のノウハウ、あるいはスタッフの束ね方などを教えてもらったそうで、A社長の前ではまるで別人で、A社長もそんなマネジャーを気にいり、マネジャーのことを「専務」などといっておだてていた。
 何が専務だよ、あの怒鳴りっぱなしの人のせいで、客が怖がってサービス前に帰る人が続出する始末なんだ。あんたらの師弟愛などみたくもないんだよ。
 みんなそう思っていただろう。A社長には店長も頭があがらない。RグループでいえばA社長などまだまだひよっ子なのだろうが、R店はRグループ本店にもかかわらず、売上でいえば常にビリかもしくはブービー賞がいいところなので、頭があがらないのだ。
 もし、Rグループで、売上が1,2を争えるくらいになれば、マネジャーもふんぞり返るだろう。僕も給料は50万以上になり、あるいは昇格するかもしれない。まあ、R店に限っては、夢のまた夢である。
 給料に関していえば、大入りという制度がある。水商売全般にいえることだが、その日の売上が、このラインを超えると、その日の帰りに大入りと称して5000円や10000円が貰えるのだ。R店もそれはきちんとやっていた。
 あと10000円で大入りだから、頑張ってあと1人客をひけ、などというとき、僕が外で客ひきをやっているとプレッシャーになる。
 自分の給料にも関わってくるが、ほかのボーイにも関わるからだ。
 もし、僕が客をひき、その客が10000円分店に落とすと、大入りになる場合、その日の夜食が豪勢になるか、あるいはコンビニで済ませることになるかが決まるのだ。そんなプレッシャーのある時は、マネジャーに見えない位置に移動して、タバコで気を落ち着かせるのだった。(イッセイ遊児)

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コメント

結構楽しく読ませていただいておりましたが

読み物としておもしろく、わかりやすくするためか脚色が多々見受けられます。

笑って見過ごせることとそうでないことがやはりございますのでコメントしようと思い立ちました。

まず一番ゆゆしきことはグループ会長が現役の暴力団員であり、グループが日本有数の広域指定暴力団の直営かのように表現されている点です。

ソースは一体なんなのでしょうか?誰なのでしょうか?

K井元マネージャーですか?その他同僚であったボーイさんですか?

しっかりとした裏付けをもとに文章をお作りになられているのですか?


わたくしはじつは毎回楽しみにしていました。なにせ連載がはじまってすぐあのマルちゃんだとわかりましたから。(一緒のお店で働く機会は無かったですが)

ただこの連載は吉原にそれなりに来られる方でしたら完全にグループ・店舗等が特定できますよね?

1日どれくらいのPVがあるかは当方、把握できませんが、営業妨害といっても大袈裟ではないのでは。

稚拙なコメントを長々といたしましたが、なにか見返りを期待したものでは当然ありません。

今後の文章構成を御一考いただければ幸いです

投稿: yk | 2007年12月24日 (月) 20時58分

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