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2007年11月16日 (金)

レストラン・ロオジエの新たな一歩

 日本でもフランス料理店でも最高峰とも賞されるロオジエの料理長が、ジャック・ボリーからブルーノ・メナールに変わったのは2005年のことだった。それから2年、ロオジエの料理はさらに大きく変わろうとしているようだ。

 クラシック料理の王道を行くジャック・ボリーの料理は、M.O.F(フランス最高職人賞)を受賞したにふさわしい完璧なできばえだった。例えば牛のほほ肉の赤ワイン煮など、ある意味古めかしい料理であっても、これまで食べたことのないほどおいしい料理として提供される。伝統的な料理に何が足された、何かの変化を加えたというわけではない。むしろ、その伝統的な料理のバランスを究極まで整えたものだった。

 この料理人の後を継ぐシェフはつらい。伝統的な料理のできばえでボリーを上回るのは容易ではない。しかも同じような料理を作ったとしても、「新しいシェフなのに皿に変化がない」と批評家やお客が批判を始めるだろう。
 といっても斬新すぎる料理は好き嫌いが激しい。中ぐらいコースとワインを選んでも2人で10万近くかかってしまう料理店である。メニューによって当たり外れがあるなど、よほどの金持ちでなければ笑っていられないはずだ。

 もちろん東京のフランス料理店には、“冒険好き”のシェフがいる店もある。駒場東大前にあるフレンチなど、とにかく斬新な料理を作ろうと日々闘っている。例えばハモを焼きたいとなれば、身がバラバラになってしまう背切りを封印し、朝届いたハモを毛抜きで1本1本骨を取ってしまう。
 そうした情熱は一流の料理人のものだし、もちろん腕も一級品だ。ただし7~8皿に1つぐらいは、「アレ?」と思う料理が出てくる。料理人の冒険心に、客である自分の舌がついて行けなかった証拠だ。それでも1人1万ちょっとなら十分に納得できる。むしろ、そこまで斬新な皿に挑戦したことに拍手を送りたくなる。

 しかしロオジエとなれば値段も客層も“冒険”など望んでいない。だからこそ2005年にボリーからの推薦で選ばれたのは、伝統的な料理を基本として変化を加えていく「ネオ・クラシック」という料理スタイルを特徴とする料理人だった。実際、メナールはロオジエ就任当初にささやかれた不安を一層する働きをみせた。ソースが軽くなっても味を落とさず、組み合わせは意外でもクラシックな料理の基本までは崩さない。ボリーの料理が大好きで、少しでも気にくわなければ許さないと思っていた客の口を、料理の出来で封印したといってもいい。

 しかし先日、久しぶりに食べたロオジエの料理は、過去のメナールの料理より、もう一歩「斬新さ」に踏み出していた。
 例えば前菜で出てきたフォアグラのパテは、昨年の夏はシンプルだが極限にまで雑味をなくした代物だった。しかし今回は赤ワインと混ぜてまろやかにする一方で、フォアグラの雑味は以前より残してあった。またフォアグラに合わせる果実としてカリンを選択したことにも驚かされた。
 変化は料理だけではない。メインのナイフについても、スケルトンのプラスチックが付いたモダンなものに変わっていた。

 国民性というべきか、もともとフランス料理は「革命」が大好きだ。これまでにも世界各地の料理をたくみに取り込み、どんどん姿を変えてきている。1970年代に流行した「ヌーベルキュイジーヌ」では日本料理も取り入れられているし、最近では太平洋のどこかの諸島の料理を取り入れるのがブームになったとも聞いた。
 その意味ではメナールの踏み出した一歩はフランス料理人として当然の一歩なのかもしれない。しかし私はついていけなかった。そのチャレンジ精神に期待して通うほどの金もない。もしかしたら舌が守りに入っているのかもしれない。これも歳か……。(大畑)

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