続・亀田一家をほめたたえる
やはり何といっても亀田である。この一週間「亀田のことだけを考えて仕事をしろ」と編集部一同にきつく言い渡しておいたのにブログの記事を見る限り言うことを聞いていない。と嘆いている私自身の読みさえも大きく越えた信じられないほどみごとな亀田興毅選手の「パフォーマンス」が飛び出した。
前回の記事(http://gekkankiroku.cocolog-nifty.com/edit/2007/10/post_ee0b.html)で私は史郎氏は決して反則を認めず凶暴親子路線を選んだ。三兄弟は「ですます」レベルの丁寧語さえ決して使わない。これでは協栄ジムとの契約も切られてしまう。どん詰まりの亀田家は元世界王者の興毅選手が引退して「亀田ジム」を興して弟を引き取る。その際に興毅会長は一転して丁寧語の紳士として登場して世間をアッといわせ、イメージを好転させる……との読みだった。
かなり自信があったのに現実ははるかにそれを越えていた。
どんな劇作家でも書けないシナリオだった。シェークスピア劇でいうならばタモラの二人のバカ息子たるディミートリアスとカイロンの性根が実はリアの娘コーディリアのように美しかった、と『タイタス・アンドロニカス』と『リア王』を混ぜ合わせたありえない展開である。史上最高の劇作家の想定を超えている。
恐らく私の読みの甘さには史郎氏の「諸芸の原点」として梶原一騎を挙げたにもかかわらず「笑いをかみしめなければ見られない」などとあなどったところにある。
史郎氏は考えた。あの自分の会見では逆風は止まない。反則→梶原一騎→反則→梶原一騎→反則→梶原一騎→反則→梶原一騎……。2つの言葉をグルグルと巡らした時にファンファーレのごとく響くフレーズがあった。「トラだ。トラだ。亀田はトラになるんだ」。
なぜ気づかなかったのだろうか。「タイガーマスク」が梶原一騎の作品だったことを。育てた「虎の穴」のいうなりに反則レスラーとして名を馳せた「タイガーマスク」が一転して裏切り、いっさい反則をしない正義の味方となって世の喝さいをあびる。亀田家の練習風景に私はマス大山や「巨人の星」は見出した。でもあれ全部が「虎の穴」だったのだ。そういえば本家「虎の穴」の訓練も激しいようでメチャクチャだった。
興毅選手の記者会見をメディアは「父からの自立」とほめた。「自立」は「虎の穴を裏切る」のオマージュである。史郎氏は決して切れないと世間(と私)が疑わなかった父子のきずなを絶つという演出を用意した。そして「タイガーマスク」で「虎の穴」の首領が出てこなかったように(アニメでは出てきた)史郎氏は姿を消すとの選択をした。「興毅1人」の会見に史郎氏が出られなかったのではない。出てこない方が首領らしいのだ。
反則一家から一転して「亀田 敬語を使う」を切り札に抜け出した興毅選手。正直いってこの札をあの会見の時点で持っているとは思いもよらなかった。興毅選手のポテンシャルは高い。「興毅 長髪決意」がニュースになるなどの予測はまったく問題外だった。内藤大助戦の様子を改めて確認するとセコンドの興毅選手にはモヒカン風の髪の毛が生えている(ように見える)。興毅=丸刈りというのは私の拙い想像力がはじきだした先入観だったわけだ。そうか。あのような会見で「丸刈り」に意味を持たせるための伏線として生やしていたのか。芸の細かさには脱帽である。
「タイガーマスク」の主人公である伊達直人は自らが育った児童養護施設の子ども達と疑似家族関係にある。そのためもあって「虎の穴」から離れた。興毅選手も同じで二人の弟のためにという大義名分がある。というかこの名分があれば正義の味方への転身=反則屋の汚名返上が可能となる。この役割は三兄弟の長男である興毅選手しかできない。だから大毅選手は黙っていた。なんてみごとな展開であろうか。
なぜ興毅選手でないとダメなのか。これは日本の家制度と深いかかわりがある。家長である父=史郎氏との決別を正統化するには長男の家督相続が不可欠なのだ。私も三人きょうだいの一番上(下は妹弟)だからわかる。妹弟は私より普段は明らかに親孝行をしているにもかかわらず一旦火急の際には私が前面に出なければならない。これは自負ではなく妹からも「いざとなったら長男が出てこないと収まらない」といわれた経験がある。
「興毅1人」には兄弟愛の含みもあろう。世間で薄れている親の愛の象徴として「史郎と三人の息子」の物語があった。それが通じないとなると親の愛よりもっと薄れている兄弟愛を打ち出せば効果絶大だ。何しろ合計特殊出生率が2を割って久しいなか「三兄弟」自体が珍しいわけでノスタルジアを呼ぶには十分だ。
大毅選手はしかる後に会見をしなければならないが、その際に「兄ちゃんに迷惑かけて……兄ちゃんゴメン」と涙ぐめば終わってしまう可能性さえある。よく考えれば内藤戦で反則を働いた張本人と教唆した、いわば共犯なのに、そんな事実関係は吹き飛んでしまうだろう。このあたりは決別して支持を失った大相撲の若貴兄弟を参考にすると推測される。
残されたポイントは2つ。一つは前回の記事で「金平某」などと軽く扱ってしまった金平桂一郎協栄ボクシングジム会長の正体である。「興毅1人」の会見でも影のように寄り添い適切なジャブ……じゃなくてアドバイスを差しはさんでいた。反則試合から「興毅1人」までの発言を改めて点検してみると世間の反応をうかがう観測気球をさまざまに打ち上げているよう読める。
しかも史郎氏との会談は密室(亀田家)でなされ、その内容は金平会長の口からしか明らかになっていない。あそこで「タイガーマスク路線で行こうや」と言い出したのは金平会長かも。何となく世間では密室での会談を緊張感に満ちたやりとりと思いこんでいるが案外と鍋をつついて謀議をこらした可能性もある。
もう1つはやはり末っ子の和毅選手である。金平会長は彼がアマチュアであるのを理由に処遇を具体的に言及していない。ここに次の伏線を感じる。和毅選手だけプロ転向後、協栄以外のジムに所属して史郎氏が陰となって寄り添えば……史郎氏は星一徹になれる。悪くても明子にはなれる。いやはや亀田はすばらしい(編集長)
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