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2007年10月 9日 (火)

絶望社会 鎌田慧

 鎌田慧氏が週刊誌で連載したの時の編集者にお会いしたとき、「鎌田さんは現場を見て書く方ですよね」と嬉しそうに語ってくれた。

 事件が起きてからしばらくたってからの取材だったこともあり、現場そのもには何も残っていない。しかもその現場までは山を歩いて登っていかなければならなかった。
 週刊誌の取材時間は限られている。そのうえ山を登っても何もないと分かっている。すでに50歳を超えていた鎌田氏に「現場は何もありませんから取材の必要はないかもしれませんね」と編集者が提案したのもうなづける。しかし、その申し出を言下に退け、彼は黙々と山道を登っていった。その後姿に編集者は感銘を受けたという。

Kamata_2 『絶望社会 痛憤の現場を歩くⅡ』(鎌田慧 著 金曜日 発行)を読んで、フッとそんなことを思い出した。この本でも鎌田氏現場を黙々と歩き続けている。もともと『週刊金曜日』に連載されていた記事であり、注目の事件について誰よりも早く概要を伝えるといった総合週刊誌的な内容ではない。むしろ、これまでメディアで取り上げられてこなかったり、偏った報道に泣かされた弱者を訪ね、真実を拾い上げるという地道な内容である。

 この本を読んで驚いたことの1つは、興味があって比較的熱心に新聞記事を読んできた事件についても、まったく知らなかった事実が指摘されていたことだ。
 例えば立川の自衛隊官舎でビラを配って逮捕された事件については、「警視庁の公安部員が、自衛隊官舎にでかけて『被害届』の作成を代行し、公安刑事が起訴してつくりあげたものだった」と書かれている。それまで何度もビラを投函していたのに、このときだけ逮捕された理由が本書を読んでやっと理解できた。

 公判で判明したため、「鮮度」が命の新聞記事に書かれなかった真実である。しかしこの事実は重い。ビラ配りごときで逮捕し、75日も勾留するのは言論弾圧に違いない。しかし同じ弾圧でも住民が迷惑だと感じたのが発端なのと、とにかく逮捕しようと公安自ら動いたのでは圧力の度合いが違う。
 現場を歩き、こうした事実を誰かが書いていかなければ、権力者の弱い者イジメの実態はきちんと伝わらないだろう。

 しかし日本の社会は、どうしてここまで異端者と弱者をイジメ続けるのだろうか。息子をイジメによって失い、その学校の責任を追及する母親に名誉毀損で損害賠償を請求する学校のクラブの顧問や生徒たち。事故で負傷した人物を酔っ払いと勘違いして死亡させてしまった不手際を隠すため、DNAの違う別人の臓器片を証拠として申請した警察と、それを認めた司法。ラジオ体操をしなかったからと一時金を-100%と査定した上にクビを切った大手電気メーカー。
 
 しかもこの弱い者イジメに加わっている一個人は、必ずしも悪人ではないのだ。組織に逆らえなくて、あるいは自分を身を守るために加害者になっていく。その連鎖がさらなる「異端狩り」を生む。悪循環である。ただこうしたイジメは、いきなり自分の身に降りかかってくる。学校のイジメが次々とターゲットを変えていくのと同じである。

 社員が全部そろうのは夕方でネクタイどころかスーツすら着ない。出版する本は少なくとも体制的じゃない。とてもじゃないが、社会の主流派ではない。弱小出版で目立たないからおとがめもないが、いつ社会からイジメられてもおかしくない。だからこそ社会からイジメられている人の応援はしたいし、そんな姿勢で書かれた本は多くの人に読んでほしい。そう思っている。(大畑)

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コメント

ちょっとした間違い、歯車が狂うと世の中がおかしくなる。アストラも一字違いでリストラだもんな

投稿: | 2007年10月 9日 (火) 07時31分

あー、今までリストラとアストラこんなに近いことに気づきませんでした!
いや、会社の体力としてリストラが遠くないのは知っていたんですが(笑) 唯一の救いは人数が少なすぎて、リストラがなかなかきかないことです。

投稿: 大畑 | 2007年10月10日 (水) 23時44分

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