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2007年10月 6日 (土)

『吉原 泡の園』 第36回/泡の園の中心で、貧困にあえぐ

 地方公務員として将来歩んでいけば何も困ることはないぞ、そう親に仕込まれた時期があった。
 消防署員、役所、郵便局などがまあ地方の一般的な、社会をあまりよく知らない人間がまずはじめに思いつく。今にして思えば、郵便局だって現在民営化して公務員ではなくなった。市民団体や、労働者運動などからすれば、公務員は贅沢しすぎ、という趣も否めない。
 吉原の人間と、公務員、まったく相反する同士である。180度違う世界で僕は生きている。まったく知らない世界を知ることになったのだ。
 吉原ボーイの苦労に、そんな公務員相手がらみのものがある。
 吉原を管轄しているのは台東区である。そして、その台東区役所に僕は出向くことになった。まず、

1 年金問題
2 国民保険問題
3 年末調整など、所得税の問題

などがそうなのだが、まず、1番手っ取り早く必要なのが保険である。
 これがないと、病院にもかかれない、確かに、浅草などには保険など関係ない潜りの医者もいた。実際マネジャーなどはそんな潜りの医者のところに行っていた。が、ヤブ医者である。そんな人にまともに診察を受けても意味がない。それにやはりどこの病院でもかかれる体制を取っておくことが、安心して働けるのである。吉原の人間は、まずそうした事に無頓着なのであった。
 そして、年金も、僕が、
「あーあ。年金はらわないと、まずいな」
 と愚痴をこぼすと、
「何おまえ、年金貰おうとしてるの」
 といって馬鹿にし、笑うのである。だが、年は誰でもとり、また金もない老後も寂しいと思ったのだ。
 役所の人間の所に、やっともらった、いや、もらえた、違う、もぎ取った休みを利用し行く。行くと、年金や国民健康保険が、今少し払えないから、どうにか手続きをとってほしい。払えないので免税などの。を頼む。
「どういったお仕事ですか」
 と女性職員。
「えー(少し間があく)よ、吉原です」
 と恥ずかしそうに僕。
「あ、はい。で、どのような職業の種類になりますか」
 と女性職員。
 僕は、ソープランドです。や特殊浴場です。と言えなかった。いうのも恥ずかしいし、言ったら言ったで、
「なら少しは給料ももらえるでしょう」
 となるからだ。
「義理風呂でもらえません」
 とはどうしても言えない。
 僕はいつも、アリバイ会社の名前を言い、掃除屋をやっていますが、売上が悪く、いつも数万しかもらえません。といってごまかしていたのである。
 区の女性職員は、それで少しは納得してくれていた。
「そうですか、では免除の申請用紙にお書きください」
 当時の僕は身体中から怪しいオーラをだしていたのだろう。
 それも無理はない。指定暴力団Yから脱退してもなお指定を受けていたNの現役会員を会長に持つのだ。怪しいオーラが出ないはずがなかった。
 区役所で楽しそうに談話する同い年くらいのカップルや同性、異性を見ると、何だかいろいろと羨ましかった。
 こんなに苦労している奴なんて、世の中にいるのかな、と、真剣にそこまで苦しんだものだった。それに加えて、自分の借金のほうは、完全に延滞するようになっていたのである。
「いまは辛抱してくれや、幹部になれば、どこよりもうちは銭をだすよってのぉ」
 会長のいつもボーイに言う言葉が思い出される。が、それでは遅いのだ。僕には、今。今すぐに金が要る。でなければ、僕は借金を返せない。マネジャーは、
「そんなもんかえすのが馬鹿や、はは」
 とまるで帰さないで当たり前や、くらいの勢いである。ああ、もうだめだ。借金は返せないだろう。
 それから、東京都弁護士会相談窓口に出向くまで、そう時間はかからなかった。
 上智大学の前にある事務所。30分4、5千円くらいの相談料を払うのである。
 店長はよく事件を起こし、お縄をまいて、警察につれてこられたから知っているといっていた。弁護士と面会し、自分の収入と支出を教え、カード枚数なども詳しく教えた。
 任意整理といい、グレーゾーンの金利を整理する方法などもある。僕もそれで行けると思っていた。
「うん、自己破産しかないね」
 弁護士は、すぐにそういった。当たり前だよ、と言わんばかりである。
「じ、自己破産」
 テレビドラマでよく聞く言葉だ。が、今の日本、これが数万人単位でいるのだ。弁護士に頼み、弁護士が請け負えば、ほぼ免責はおりる。裁判所の手続きに出向くだけである。
 何千万。何億という借金が、一瞬でなしになる魔法である。一生に一度の魔法。お勧めは出来ないのだが。(イッセイ遊児)

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