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2007年9月22日 (土)

『吉原 泡の園』第35回/こんなはずではなかった人生

 ヤクザといえばピストル。そう短絡的に思い浮かぶのだが、現にFさんは銃を持っていたのだそうだ。そして、銃の威力をこう話していた。
「なあ関口よ、喧嘩はやっぱり銃がねえと始まらないよ」
 愚連隊時代、暴走族との大きな喧嘩があり、その時総勢何百という人達のにらみ合いがあったそうだ。
「ま、まるで関が原の合戦ですね」
 そう思ったが言葉を飲みこんだ。そして、いよいよ大人数の敵とのぶつかり合いも避けられないという頃、1台の車がその睨み合いの中に突入してきた。
 2人の男が車から降り、懐から銃を取り出すと、上空に向かって1発発砲した。するとどうだろうか、一触即発な人々の群れが、いっせいに散り始めたのだという。それでFさんは銃の人にあたえる威力を知り、その後本物のヤクザになり、銃を持ったのだという。
 まるで、映画のような話だ。
 また、Fさんは、銃の練習や試し撃ちに、架線のかかる河原などで、その列車の音に銃声をかき消し練習していたそうだ。思わず笑ってしまいそうな話だが、いやはや、やはり現実ありきの映画のシーンなんだろうと、僕は納得していた。
 Fさんの実家は宝石屋をしていたそうだ。そして口癖は、
「金を溜めるには悪いことをしないと溜まらないよ」
 だった。中学生になる娘がいるのに、スカートをはいた花魁などが道を通ると、スカートが風にたなびく、そうすると顔を斜めにして、
「おしい」
 などとパンツが見えないことに悔しがるのだった。まったくいいおとっつあんが、と思いながらも、こんな人を許容している家族の大きさに感服していた。
 こんな風にどこか人情味的に書いてはいても、義理風呂には行かないことを許された、客を呼べないFさんにたいするマネジャーやその他姉妹店のボーイ、幹部の態度は、日に日に冷たくなるのだった。
 僕などがいびられるいびられ方も暴力的で半端ではなかったが、どこか明日に繋がる所も見え隠れしているのだ。だが、Fさんに対する冷たさには、そんなものはなく、どこか陰湿ささえも感じられるのだった。
 さて、ボーイには以下のようなタイプがあげられる。
① マネジャーのように花形スター、つまり社長クラスを目指し、金持ちを志す者
② Eちゃんのようなすき者
③ 借金地獄からのがれようと、一途な淡い夢をいだく者
④ Fさんのようにヤクザ者で、こんなことしか生業にできない者
⑤ なんとなく来た者

 ちなみに僕は3と5を足したタイプだった。もちろん、その頃からライターを密かに目指していたので、下心も少しはあった。
 そして、もうひとタイプがある。それが先輩ボーイのTさんの場合である。Tさんは坊主頭でどこかパッとしない。渾名が裸の大将であるから、想像できるだろう。女性にモテルタイプではない。
 ただ、僕に対しては、やさしいのだった。ある日を境にするまでは。マネジャーと同じ部屋で、毎日いじめられていたTさんは、やはり新人の僕が暴力的にいじめられているのを見て喜んでいた。
「ふふっ。僕と同じでイジメられてらぁ」
 そんな感じである。
 だが、自分1人いじめられていないという島国根性が、僕に優しくしてくれたのだった。
 何か文句や愚痴がある際、それを話せる人がいるのといないのとでは、かなりストレス的にも違うと思う。
 Tさんはマネジャーの悪口しか言わないのだった。
 それも本気で言っている。
 車の事故の加害者としての責任で、婚約解消し、長野から出てきた男だった。
 ホームレスのような生活も経験し、公園で寝るのが好きだったし(まあマネジャーと同じ部屋ではそうなるかもしれないが)、屋台のラーメン屋などもやっていたそうだ。
 だが、それがまた儲からないと嘆いていた。
 事故の被害者に対する賠償責任などの金を返すため、吉原に来たのだ。
 それが義理風呂やら付き合いやらで、僕と同じように返す金の工面ができなくなりつつある。同じような悩みを持っていたから、Tさんも僕に好意を抱いていたのだろう。
 仕事で失敗しても、冗談を言い合い、それでなんとか慰めあい、がんばれたのだった。
 TさんはあまりHを堪能するタイプではなく、どちらかというと淡白であった。それもそうだろう、婚約者までいたのだ。トラック事故までは。
「なあ関口、俺たち、こんなはずだったか?」
 たまに飲み屋で微笑みながらそういう彼の姿が可哀想だった。
 店ではマネジャーは誰に対しても厳しかった。ただ、義理に行く頃になると、店長は僕に優しくなり始めていた。ただ、Tさんには冷たかったのだ。
 だんだん店長の僕と自分に対する態度の違いに、Tさんもいらだちを隠せなくなってきていた。
 なんで、俺のが先輩なのに、店長は関口にやさしいんだ。そして、俺には冷たいんだ。
 人間は極限状態ではここまで変われるんだ。僕はかなりショックだった。Tさんはだんだん僕に本性剥き出しになった。だが、一歩間違えば、自分だってそうやって悪い方に変われる。廉恥心をなくすのは、もしかしたら僕だったかもしれない。そうした薄皮1枚の人間関係と、人間というものに対し、ショックを受けたのだった。(イッセイ遊児)

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