« ベトナム・ホーチミンを歩く(上)/バイクの洪水、食堂でフォーにトライ | トップページ | ベトナム・ホーチミンを歩く(中)/ベトナムの投資熱・証券会社を探す »

2007年9月 1日 (土)

『吉原 泡の園』 第32回/義理風呂・泣く泣く女の子を後にする

 女の子の中にはたまに、自分から自身の身の内を話してくる人もいる。
「私、初体験が中学の時なんです」
「お年玉をあげるのが嫌だから、正月は帰らない」
 とかわいい話ならばまだいいのだが、たまにディープな話もする人がいる。
「AVに出たことがあります。ごめんね、変なもん見せて」
 といい、肩にたなびく芸術的なモンモン(入れ墨)を指す人や、
「私レイプされたの」
 などだ。そんなん言われたらもう僕帰りたくなるわ、と心の中で叫ぶしかなかった。そしてたまにボーイとして義理として来ているから、僕としても色々遠慮していると、
「あ、いやいやでしょう。いやいや先輩に連れられてきたんでしょう」
 などと見当はずれな事を言ってくる人もいた。
 本当はグチョングチョンのアヘンアヘンに出来るんだぞ。と思いながらも。マネジャーに巡り巡って僕の噂が流れるのが怖く。いつも義理の時は大人しかったのだった。
 電話が鳴りもしないのに、
「あ、電話がなってる」
 と1人芝居をして、
「もしもし、ええ、はい分かりました。大至急」
 と演技して、
「ごめん、今会社の上司からで、客とトラブルがあったらしくて、だから帰るね」
 と言って服を着始めるのだ。
 女の子としては、90分のうち、60分もしないのに客を帰らせるとは、つまり後でクレームになる可能性もあるので、少し心配する。
「あのー私なにか失敗でもしましたでしょうか」
 などとけなげに聞いてくるのだ。
「いえいえ、仕事にいくので仕方ないんですよ」
 と僕はいい訳するが、もう心では、
(ああーもう一生でも君といたいよー)
 と思っているのである。が、マネジャーの顔を思うと、そんな無茶は出来ない。女の子は内線電話を取り、フロントに話す。
「お客様が急用のため帰るそうです」
 そしてフロントからOKサインがでれば、僕は廊下に出て、女の子に腕を組まれて待合室に向かうのだった。
 他の店は、基本的にこれから受ける客と、上がりの客をそれぞれ別々の待合室に通していた。
 上がり専用の待合室に入り、本当の客ならばここで冷をもらい、冷たいおしぼりで顔など拭き、アンケートなどをするのだが、いかんせん僕は義理ボーイである。
 待合室に入ると、向こうのボーイが来て、
「すいません。ありがとうございました」
 と申し訳なさそうに言う。それを見て僕はいつも思った。
(フンッ、何か申し訳なさそうに、こちとら全額負担してんだよ、どうせ遊び人だとおもっているんだろ、そんな低姿勢はよせよ、本性をみせろってんだ、クソー金かえせー)である。
ネクタイを直しながら、帰りは走ってR店に戻る。1秒でも送れないようにと、気を使ってのことだった。
「行ってきました」
 と意外と僕もテカテカと光らせた赤い顔をして戻っていく。
「この野郎」
 とマネジャーがギロっと睨む。ここではまだ大人しく言っている。が、
「てめぇR店の恥がぁ、義理ってえのはイヤイヤ行くんや、それをてめぇは嬉しそうに、ああーこらーなんやーてめぇなんぞ秒殺やどー」
 1人で急に怒り出す。
 その顔はまさに赤鬼である。僕は同じ赤でもテカテカと光らせた半ばカピカピの赤だが。
「い、いや、1時間でかえりま」
 した。まで言いきらないうちに、
「じゃかあしい。さっさと送迎者の用意じゃ、1人待合に客がおるから、日暮里まで送りじゃ」
 とぶち切れまくりなのである。
 ほかに大の大人達が何人もいても、このぶち切れマネジャーの暴走は誰も止められない。むしろ、この頃になると、始めはマネジャーも黙る店長が、僕をかばい始めてくれていた。そして、マネジャーのいじめ、いや、暴力と暴言だけは日に日にエスカレートしていくのだった。
 義理風呂は1人大体月に2、3回はいく。2回目以降はまるまる全額負担ではなくなるにせよ、あまり変わらない。それをボーイにさせるのだった。酷である。
 が、マネジャーは4回5回は当たり前のように行き、当然給料はマイナスの赤字だった。
 それでもこの人はこの世界で偉くなれば、いつか取り返せる。だが、僕のように会長にコネがなければ、体を張って態度で信用を得なければ幹部にはなれないし、なる気も毛頭なかった僕のようなボーイにとっては、義理は本当にしょうもないものでしかない。だが、ここにいる以上は郷に入れば郷に従えである。
 やる気がないものは去れ、の会長の掛け軸の言葉通り、金もないのに追い出されれば、僕には行く所がない。(イッセイ遊児)

|

« ベトナム・ホーチミンを歩く(上)/バイクの洪水、食堂でフォーにトライ | トップページ | ベトナム・ホーチミンを歩く(中)/ベトナムの投資熱・証券会社を探す »

『吉原 泡の園』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122338/16296257

この記事へのトラックバック一覧です: 『吉原 泡の園』 第32回/義理風呂・泣く泣く女の子を後にする:

« ベトナム・ホーチミンを歩く(上)/バイクの洪水、食堂でフォーにトライ | トップページ | ベトナム・ホーチミンを歩く(中)/ベトナムの投資熱・証券会社を探す »