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2007年8月25日 (土)

『吉原 泡の園』 第31回/義理風呂は義理・人情!

 即サービスはもういいから、風呂、風呂である。
「ねえ、風呂入ろう」
 こんなにせわしない客もいないだろう。普通、いいムードになり、ゆっくりと湯を張るのだが、僕はまだ湯が満タンにもならないのに、座ると腰までも来ていない浴槽に1人で入り、
「ああー疲れがとれる」
 とせわしなく動き回っていた。きっと、
「ええー何この人、変態?」
 と思っていたことだろう。風呂から上がると
「ねえ、体洗うスポンジかしてよ」
 そういって勝手にゴシゴシ汚れた体を洗い始める。もう女の子も呆然としている。
「あ、シャンプー取って」
 あれやこれやと時間を気にして体を洗い、
「よし、ささ、ベットいこ」
 とムードもへったくれもない。
「あのー何かドリンク頼みますか?」
 女の子がそう気を使ってくるが、
「いい」
 そう返してとっととバスタオルを脱ぎ捨て、女の子のバスタオルも脱ぎ取るのだった。そうした義理に呼ばれる女の子は、まだ吉原の経験が浅い人が多い。
 浅いということは、つまりまだピル(妊娠を避けるように、女の子が飲む薬)によって、妊娠を避ける体がまだ出来ていない。だからコンドームをつける場合が多いのだ。
 そして、ボーイや幹部達の間では、義理でゴムありの子から、いかにしてゴムなしでサービスをさせるかを競うことがちょっとしたステイタスになったりもしていた。 E店社長は、社長でも義理などの時、自ら赴く。そして、その時の武勇伝を皆の前で話したりしていた。
「俺は、義理で入った子で、ゴムの子は、全員ゴムなんかつけたことはないぞ」
 非常に得意気だった。HIV上等。エイズ上等なのだ。その人は。故郷に奥さん、子供を捨ててきた人だった。きっと、個人的にそうとう苦悩し、苦労してきた人だったろうと推測できた。それが、背水の陣のような生き方をもさせているのだろうか、昔ながらの人情ヤクザの出身で、グループナンバー2の人だった。
 そんな影響で、僕もゴムなしでのサービスを受けさせるような心の持ち主になってやろう。と奮闘した。結果的には何度か成功したのだが、成功したらしたで、だから何なの?という感じではあった。
 義理風呂は遊びではない。あくまでも同じグループ内での助け合い。つまり義理、人情という言葉に基づく行為である。それは黒幕が常々言っていた。
「ええか、商売しとるもんが、その商品をしらんで、商売できるんか、そやろ。ボーイも同じや、義理風呂で商品について勉強するんや、そやろ。それで始めて商品知識もあがっていくんや、そやろ」
 それが黒幕会長の言葉だった。最後に
「そやろ」
 をいれるのも決して忘れない。きっと、説得力を増すのにそやろ、という言葉が重要なんだろう。そしてそれもY組で獲得した人心掌握の基本なのだろうか。僕はそう考えてしまうのだった。

 さて、マネジャーには遅くても1時間で帰って来い、そういわれているから、色々なサービスを省いて、出来るだけ本番をして、元をとって帰りたいところだった。所が、たまに話が長引き、マットなどをしていると、電話が鳴り、
「おい関口戻れ」
などと突然言われ、しぶしぶ帰る事になったりもするのだった。だから、行ったときにはまずは本番。これが基本だったのだ。
 ちなみに、国はソープランドでのサービスとしては、たとえばシーツにしても枕にしても、あるいは石鹸にしてもあってはならないことになっている。
 必要悪と考える人もいるが、定期検査などでは、そうした甘い考えは一切通らない。風呂の脇には、金色に輝く小さな蒸し器がある。人間が入って、首だけでるようになっている。
 特殊個室サウナ。これが日本語の正式名称である。サウナとつくくらいだから、その金色の輝く蒸し器こそが、そのサウナなのだ。
 実際に熱湯の湯気がその中を充満するだけの機能はあるが、その蒸し器にわざわざ入る客などいない。
 もっと安く、しかも立派なサウナにいったほうがいいからだ。当然である。
 さて、いろいろと義理風呂でサービスを受け、少し沈黙の時間になるといけないので、必死で何かを話そうとする。
 ただ、決して今までの生きてきた環境などは聞かないようにしていた。
 何もインタビューでもないし、どの道あまりいい思いでもあるようでもないからだ。(イッセイ遊児)

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