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2007年8月18日 (土)

『吉原 泡の園』 第30回/業界ではそれを“義理風呂”と呼ぶ

 しばらくすると、
「山田様、お待たせいたしました。お部屋の準備が出来ました」
 と待合室のドアが開き、ボーイが僕を呼ぶ。たまに同じ氏の場合、2人同時に立ちあがるなんてこともあるが、そんなときは意外と困るのである。
「ええっと、えー○○さんのお客様です」
 と女の子の名前などもいってやらなければならないのだ。
 僕が待合室のドアを出て、女の子とご対面になるかならないかの頃、B店のボーイは、
「本日の女の子、レイナさんです」
 などと2人の雰囲気を盛り上げる憎いことをいうのだ。そして僕は軽く会釈して近寄ると、向こうの子が腕を回してくる。
「お部屋は1階の1番奥です」
などといわれ、そのまま腕組したまま部屋に向かう。
 この儀式、つまり姉妹店のボーイを、あるいは幹部とボーイを、または幹部と幹部を客として差し替える行為を、業界では、“義理風呂”と呼ばれ恐れられていた。中でも、Rグループのように、同じグループ内で、系列のボーイを差し替えるのは業界でもご法度とまではいかないが斬新な行為でもあり、普通違うグループのボーイなどに頼むのが常らしい。
 よって、そうした意味でも、Rグループは、ほかのグループ各社から特異な目で見られていた。それに加えて元指定暴力団員が陰を握るグループなのだ。僕にはこっそりと、ほかのグループのベテランは「いじめは大丈夫?そこのグループは、言っちゃ悪いけど、少しおかしいよ」といじめの実態をうすうす知りつつ、そう心配してくれたのだった。
 マネジャーの怒鳴り声は、その人の店まで、十分届いていたのだろう。
 Rグループは、実は暴力団そのものである。というのは周知の常識だったはずだ。
 さて、部屋に入ると、まずベットに腰掛ける。女の子は、一段低い床に座り込む人が多い。
 即尺とはいっても、さすがに二言三言は何か話す。そして何となくそういう雰囲気に持っていくのがプロなのだが、いかんせんこの義理風呂という儀式は、自分がボーイとばれてはいけないのだが、普通の客としての態度がどうもとれない。
 即サービスなど、ボーイから考えれば大事な大事な商品に、そんな自分の汚れを口になど、とてもとても考えられないのだ。
 だいいち、鬼マネジャーの顔が浮かぶ。
「いいか、義理風呂は遊びじゃねえ、ボーイが義理でいくときゃあ、仕事としていくんだ。R店の代表としてなぁ、だから、後で笑われることなんて言語道断だ」
 頭から離れない。しかも、
「いいか、90分のサービス時間があるが、義理でいくときゃあ遅くとも1時間でけえってくるのが筋だ」
 なんで1時間なの、と金を捨てるかのような義理に、溜め息しか出ないのだった。だが、溜め息などしている暇もない。そんなことをしていると、あっという間に1時間たってしまうのだ。話もしていられない。即サービスなどどうでもいいから、まずは風呂に入ろう。という考えになってしまうのだった。
「あのーお仕事の途中ですか?」
 などと女の子が聞いてくる。僕の答えは決まっていた。「はい。営業マンでして、今サボりです」
 すると、
「へえーどんな営業なんですか」
 ときて、うるさいなーなんだっていいでしょう、という気持ちを押し殺し、
「集金専門です。先輩と2人で来ました」
 と答える。
「先輩もこの店に入ったのですか」
 と聞かれる。
「さぁー? 僕が先に来てしまったから」
 いつものパターンであった。また、どういうわけか、ボーイで義理として入った場合。1度たりとも即サービスを受けたことがない。
 今は謎も解けているが、恐らく僕が嘘を言っても、白いワイシャツ、黒いズボン、どこからどう見ても変な男にしか見えない僕を、きっと、
(こいつぜってーボーイだわ)
 と見抜いてたのだろう。
 マネジャーに怒鳴られてばかりの僕は、態度どころかおち○ちんまで萎縮している。
 義理で女の子の裸を見ても、全然興奮しないのだ。ああ、精神が及ぼす性機能に対する影響は大きいな、と思ったりもするが、お金がぁ、という思いもあり、元は取れずとも借りを返してもらうためには、サービスしてもらうしかない。(イッセイ遊児)

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