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2007年8月11日 (土)

『吉原 泡の園』 第29回/客として、業務として行くソープ

 いつも通り懸命に命令をされるがまま働いているときのことだった。
「おい関口」
 マネジャーがいつものように僕を呼び、呼ばれたらすぐにフロント前に駆けよるのだ。
「はい」
 僕がそう返事をするのだが、いつもと何か様子が違う。
「おい関口、おまえ飛ぶなよ」(注:飛ぶ→夜逃げ、または突然いなくなり、音信不通になること)
「?」
 突然呼ばれていってみれば、わけのわからないことを言われ、しかもいつもは迫力あるマネジャーが、その時ばかりはなぜか寂しそうにいうのだ。
「はぁ」
「なあ、関口、絶対飛ぶなよ」
 そう言い、マネジャーが続けた。
「姉妹店で、客がつかない女がおる。そいつに関口が客としていってやってくれ」
 というのだった。
 そんなのお安いご用。そう思ったのも束の間。
「んで、サービス代は、きっちり給料から引かせてもらうで」
 ガガーン。雷が落ちた気分だった。
 大体、そもそも10万そこそこの給料しかもらっていないのに、さらにそこから6万5千円も引かれるのだ。
「ええー全額ですか、そりゃ無茶ですよ」
 つまりはサクラとでもいうか、客になりすますのだが、それもどうせ大金を払うならば、自分で選びたいものだ。だが、この場合、全額自己負担、しかも売れない女性の客としてである。
「今回は全額負担だが、次回からは少しは店がカバーしたる」
 マネジャーはそういう。一応は負担を軽減さしてくれているつもりなのだろうが、こちらは借金だけで頭が一杯なのだ。
 真っ青な顔をしていると
「おまえ飛ぶなよ、今月は1回でええから」
 と来るのだった。
「今から姉妹店のBとボーイの差し替えをする」
 そう言われ、所持品を全部店に置き、R店からB店に向かった。
 夜の8時くらいだ。平日だし、普通の生活をしている人ならば家族団欒でもしているだろうし、学生ならば勉強中か、ああ、僕はなんでこんな給料天引きの前貸しされた6万5千円ばかりを握り締め、こんな薄くらい吉原の裏通りを歩いているのだろうか、しかも、僕がボーイと気づかないよそのボーイからは
「お兄さん、さ、どうぞ」
 などと声までかけられるのだ。
 やはり、常連の客と見られているのだ。が、一応ボーイとして働いているものが、カモ扱いの呼びこみされることは、こんな僕でも一応は悔しいのだった。
 吉原でも悪名高いRで、ほんの新人でしかないが、それでも客でもないボーイなのに、まだどこかカモにしか見られていないことに、自分自身腹が立ったのだった。
 しかし、今はそれどころではない。ああ、大金が給料から差し引かれ、いよいよ10あるうちの5は返せる借金も、0になるなあ、という思いがあった。
 薄くらい道から、メインストリートに出て、少し行くと、ビジネスホテルがあり、その横にはコンビニが見える。その道の反対側に、B店があった。
 差し替えするくらいだから、当然店は暇なのである。
 僕が入り口をくぐると、B店の店長、マネジャーが暇そうに座っている。
「お疲れ様です」
 僕がそう言いながら、入浴料の2万5千円を払う。
「すいませんねー」
 申し訳なさそうに向こうのマネジャーが言うが、どこか口だけに聞こえる。待合室に通される。一応は客としてのもてなしを受けさしてはくれる。ほかの待合室に一般の客などもいるときは尚更である。
 おしぼりを出され、顔を拭く。
 次にドリンクのメニューなどを渡される。本来客であり客でない身なので、ドリンクなども躊躇するが、喉も渇いているので冷たい飲み物をいつも頼んでいた。
 飲みながら少し待っているとB店のボーイが来て、
「何と言うお名前でお呼びしましょうか」
 と僕の耳元で囁く。
「えーと山田でいいですよ」
 ありきたりな、適当な思いつきを言う。
「はい、今日はこの子です」
 今日の僕のあたる女の子の写真を見せてくる。
「あっ、はい」
 僕はすましてそう返事するが、内心
「当たりだーうほー」
 などと思ったりもする。それは性格的に明るいかどうかというインスピレーション的なものなのだが。
 そしてB店のボーイは待合室を出るのだ。
 R店と違い、姉妹店の待合室は、綺麗だし、置物のセンスもいいし、テレビも薄くて大きなプラズマテレビというやつで、我がR店とのあまりの違いに、
「いいなーB店のボーイは。なんだか楽しそうに仕事をしているなぁ」
 などと思ったりもしたのだった。(イッセイ遊児)

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