『吉原 泡の園』 第19回/Eさんの背中を上る鯉
■マネジャー曰く、「店は女がつくるんじゃねえ、店をつくり、盛り上げるのはボーイの仕事じゃ!」。ボーイがいて、それでいてソープは回る。イッセイの働くR店で日々蠢き、苦楽を共にしたボーイの面々を紹介する。(編集部)
* * *
Eさんは、元極道であるが、声も小さく、スラリとした体型で、40代後半くらいに思われた。意外といい男なのだ。
「俺は今までに、遊びで1億は使ったな」
暇さえあればそれを自慢するのである。またEさんは、実は推薦されてこのR店を救うべくスカウトされた優秀なソープマンなのである。
Rグループナンバー2のパンチパーマのおとなしいおっさん、O社長率いるエメ○○○○○という店がある。つくりもしっかりしていて、我がRグループの中では最も値段の高い8万円の店である。
そのO社長に引き抜かれ、R店のボーイとして、店を頼むと言われやって来たすごい男なのだった。
O社長は白い上から2番目くらいのクラスのベンツに乗っていた。僕から見れば、あのベンツを売れば、僕の未来もすぐにでも開けるくらい、アパートやらなにやらが揃うだろうなという存在だ。
靴もベルトも最高級のものを身につけ、金があるからおとなしいのか、おとなしいから金持ちになったのか、どちらでもいいがとにかく「金持ち喧嘩せず」といった男だった。
Eさんはこんな話もした。
以前チンピラだった頃、暴走族の喧嘩があり、数百人も集まったそうだ。相手の頭はドスを抜いてやる気まんまん。そんな時、Eさんが車で駆けつけ、皆の前で止めた。車には2人しか乗っていない。そのうちの1人が懐から拳銃を出した。それを上空に向け一発発砲したらみんな逃げていったという話だった。
つまり、拳銃の威力はすごいと言いたかったのだろうが、Eさんは、拳銃の扱いも話してくれた。
ドラマのシーンのようだが、もしかしたらドラマのシーンを見ていて覚えていたから話したのか分からないが、Eさんにとって銃の試し撃ちは河川敷で、しかも電車の通るときだったそうだ。
ある日、そんなEさんが
「わりぃ、関口さ、背中にこれ貼ってくんねえかな」
といい、シップを渡された。
「いいですよ」
と僕はまるで親父ほど年の離れているEさんに対し、自分の親父にでもシップを張ってやるかのつもりでいた。そして、Eさんがシャツをめくると、そこには鯉が滝を懸命に登っている刺青がドーンと登場したのだった。
「いやーっ! 親父と違う!」
そう思ったのはいうまでもない。
R店は、僕に対してだけ給料が悪かったり、あるいは飯代も出ないのではなく、Eさんに対してもそうだった。ナンバー2のO社長がじきじきにスカウトしてきて、女房、子供がいて、高いマンションに住むEさんにとって、これは笑い話では済まされない問題なのだ。
僕だって笑い話では済まなかった。なにせ、借金を抱えているのだから。が、まだ僕の場合自分だけが苦しめばいい。だがEさんの場合家族をも苦しめることになる。
R店の業績不況と店長の悪行が全ての元凶だったのだが、それにしても1億は使ったなあ、といっていたEさんが、何だか日に日にやつれていくように思えたのは、恐らく僕だけではなかったはずだ。
この店のいろいろなことを始めに教えてくれたのもEさんだった。
「英会話に行きたくて、実は入会したんですよね」
僕がそう言うとEさんは気の毒に、などというそぶりは一切見せずに、
「ああ、それ無理」
と言い、僕が仕事についていろいろ聞いていると、
「まだまだ覚えてもらうことはたくさんあるから」
と軽く言うのだ。そしてRグループ会長の黒幕の方を、
「普通のおっさんだよおっさん」
とばっさり斬ってのけたのだ。もちろん僕だけにだが、まだ会長さんにお目にかかったことがない僕はどんな人だろうと気になってEさんにたずねる。
「見た目は普通。でも現役バリバリの山○組」
ややや、山○組といったらちとヤバいんちがうん。
どうやら英会話もダメになり、借金もヤバくなるばかりの僕は、山○組で完全に肩を落とした。
でも、現役バリバリで普通のおっちゃんって、どんなんだろう。それから数日して、その答えが分かる事になる。(イッセイ遊児)
| 固定リンク
「 『吉原 泡の園』」カテゴリの記事
- 『吉原 泡の園』第77回/◆番外編◆ 楽して儲かるわけじゃない(2008.09.05)
- 『吉原 泡の園』第76回/◆番外編◆ ある女のコとの出会い(2008.08.29)
- 『吉原 泡の園』第75回/◆番外編◆ スカウト悪戦苦闘(2008.08.22)
- 『吉原 泡の園』第74回/◆番外編◆ 潜入魂に火がついた(2008.08.15)
- 『吉原 泡の園』第73回/ソープ嬢(2008.08.08)
この記事へのコメントは終了しました。


コメント