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2007年6月 3日 (日)

東京のイスラム・雑居ビルのモスク/イスラムとの出会いなのである!

 ようやく池袋で雑居ビルの中にあるモスクを見つけたが、インターフォンを3度押しても何の反応もない。人が出てこないばかりか物音もしない。
 思い切って鉄のドアを引いてみると、ドアはいとも簡単に開いた。けれど、中に人はいないようだった。
 20畳くらいの部屋がひとつあり、小さなキッチンとトイレがついてるようだった。カーテンが吊るされていない窓からは午後3時にふさわしい日差しが差し込んでいて部屋の中は明るい。
 その縦長の部屋の真ん中に、タタミ半畳くらいの大きさのじゅうたんが5つ6つほど並んで敷かれている。この上で礼拝をするのだとなんとなく分かった。全体としては閑散とした部屋なのだが、入り口から最も遠い部屋の隅には大きな本棚があり、コーランと思われる分厚い本が並んでいる。

 誰もいないと思い込んで勝手に上がりこんでしまうと、奥のキッチンからひょっこり人が出てきたときにバツが悪いよな、などと思いながらしばらくボーゼンとしていたが、やはり人の気配はない。
 それでも、そうしているうちにも好奇心が這い出てきたので靴を脱いで勝手に上がり込んでしまった。こんなに無防備にカギをかけないままでいいのだろうかと思われたけれど、礼拝は1日に5回も行なわれるから、いつ人が来ても勝手にここで礼拝できるよう開放されているのかもしれなかった。やはり部屋は閑散としていて、盗まれる心配のある物といえばコーランと礼拝に使うと思われるじゅうたんくらいだった。
 しばらくウロウロしていたが、ここでおもむろに人がイスラムの人がやって来て「ああ、お前は誰だ!!」などと言われたらなんて返せばいいんだろう、と急速に臆病化してこの日は帰ることにした。

 5月の半ば、もう1度ビルの4階のドアを引いた。今度は4時半ごろに訪れた。夕方から日没にかけての時間帯ならば、4回目の礼拝の時間にうまくぶつかるはずだった。
 来るのは2度目だったが、やけに静かで不思議と通路が曲がりくねったビルで、どうも勝手に緊張してしまう。
 クリーム色の鉄のドアを引くと、フロアに人が2人座っているのが見えた。
 それぞれ日本人ではない20代くらいの若い男と60歳前後と思われる初老の男で、当然のことながらバッチリと目が合ってしまった。若い方の男はメガネをかけていて多少神経質な感じがし、初老の男は全体的に柔らかい雰囲気で泰然としたものである。5メートルくらいの距離を隔てて、2人がこっちを見ている。こっちも、2人を見ている。初老の男は薄くぽかんと口が開いたままだ。名状不明、空気凍結、どことなく間の抜けた時間帯がしばらく流れて、「あ、どうしようかな」と少しばかりアセってきたとき、後ろのドアが再び開いて、若い男が入ってきた。
 私の顔を見て、印象のいい会釈をして、何事か聞き取れないあいさつをしてさっそうと部屋の中に入っていった。ここに来るのは明らかに慣れている感じである。
 ようやく初老の、イスラム風の帽子(そんな説明ってどうかと思うが)を被った男性が、何か用ですか、という意味のことを話しかけてきたので、ビルの中にあるモスクについて興味がある旨を伝えた。すると、中の3人は、なんだそれならば早く言ってくれればいいのに、というように急速にリラックスした感じになり、どうぞ中へ入ってくださいと促してくれた。

 さて、聞きたいことは少なからずあった。モスク以外のことでも、イスラム教のこと、東京でどんな生活を送っているかということ、どんな仕事をしてるのかということ、彼らから見た東京について、などなど。
 私がカクカクした落ち着きない動作で部屋に入り、適当な場所で腰を下ろすと、なんとなく周りににモソモソと彼らがやって来て車座のようになった。
「ここのモスクについてなんですけど……」と後から来た男にたずねてみると、「あ、すいません、」と彼が言う。「先にお祈りだけ済ませてしまうので……」と言い、カバンを置いてから少しばかり厳かな動作でマットの上に立ちヒザで上がった。
 トルコから来たという彼は、ホリが深くて端正な顔だちをしている。けっこうイケメンである。どうも彼ら外国人の顔を見ると、日本人というのはノペっとした能面のような顔の人種なのだな、と思わざるを得ない。ホリが深い顔は眉から目のあたりにかけてのカーブが大きく、ちょっとした陰影ができるせいなのか全体としてミステリアスな感じがする。
 マットの上で夕方のお祈りをする彼をしばらく眺めた。真剣そのものである。まわりの空気がすっと冷えていくような感じがした。額を地面にこすりつけんばかりにして熱心に祈りを捧げている彼を見ているうちに、私の知る多くの日本人が持たないような、なにか静かなものを彼らが持っていることを、このとき肌で直接的に感じ取ることができた。■つづく(宮崎)

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