東京大気汚染訴訟問題・トヨタ東京本社前の座り込み現場に迫る
高裁は和解金の支払額として12億を提示したが、原告側の「何十億」の要求額とは大きな隔たりがあるのが実際のところである。96年の第1次提訴から06年の第6次提訴まで原告のべ633人、11年もの歳月がかけれた大訴訟がいよいよ大詰めを迎えているのだ。
被告別に見ると、東京都は02年の第1審判決で控訴せずに約6000万円の賠償金を支払っている。国としては先月5月に安倍首相が公害対策の基金から60億を都に拠出する方針であることを示した。また、それを受けて首都高速道路公団もそれまでの「払いません」から、都が提案する医療費助成制度のための財源を一部負担する姿勢へと方針を変えた。
前置きが長くなったが、つまり22日の高裁の和解勧告まででは、自動車メーカー7社以外は原告団にそれぞれ賠償金、または負担をする姿勢を固めているのだ。
さて、大気汚染訴訟のことは知っていても、東京大気汚染訴訟公害裁判原告団(以下、原告団)が今月6月5日からトヨタ東京本社の正面玄関前で座り込みを断行していたことを知る人は少ないのではないか。
トヨタ東京本社は最寄り駅でいえば水道橋駅と飯田橋の間に位置する。その座り込みの現場に駆けつけた。
JR水道橋駅から首都高速5号線沿いに3分も歩くとトヨタ東京本社の高層ビル、そしてその正面玄関前で座り込みをする人たちおよそ30人ほどが見えてきた。座り込み行動は今年3月にも行われたが、今回はなんと「エンドレス座り込み」だという。気合いが違うのである。
トヨタ本社ビルに見せつけるようにして、「トヨタ・渡辺社長は正当な解決金を決断せよ」とデカデカと書かれたメッセージが「カンバン方式」で掲げられている。11年もの長い訴訟のうちに亡くなっていった原告メンバーたちの遺影もズラリと並べられており、怨みのオーラが本社ビルに向けて放たれているような雰囲気がある。
玄関前に座り込みを続ける人たちは通行人にビラを配ったりしているが、連日の座り込みにさすがに疲労の色が濃く浮かぶ。それもそのはずで、座り込みメンバーの何人かは3日に1日の割合で本社前に設置した青いビニールテントで夜を過ごしているのだという。さらに驚くのは原告団の弁護士も寝泊まりしているという。まさに身を投げ打っての行動だ。熱意が伝わっているのか、通行人の中には「どうすれば原告団に入れますか!?」と話しかけてくる人もいるという。
原告団事務局の大越さんに話を聞いた。
「通行人の人はけっこうビラを受け取ってくれたりします。トヨタの人はどうかって? 社員さんでなく、パートの人なんかは『ごくろうさま』と声をかけてくれたりしますよ。やっぱりトヨタに非があると分かってる部分もあるんでしょうね。社員さんは……はじめのうちは無視でしたが、日が経つにつれて会釈をしてくれる人なんかもでてきました」
原告団から渡辺社長(トヨタ)に向けて手紙を送られたそうですが、なにか反応はありましたか?
「手紙はですね、本社ビルで確かに職員さんに渡しました。交渉の中で『社長には渡してある』ということも確かに職員さんから聞いている。ただ、まだ返事はない。安倍首相は手紙を渡したその日のうちに記者会見を開いて、この訴訟についてコメントをしてくれましたが、渡辺社長については音沙汰ナシですよ。被害の実態を見ようともしない。被害の深刻さ、健康の被害、それを伝えたのに……。遺憾ですよ」
確実な裏付けはないが、手紙を受け取った渡辺社長は「心外だ」とも漏らしたという。
大越さんは続ける。
「02年の地裁判決ではつまり都民の健康よりも自動車メーカーが果たす社会的な貢献度が優先されてしまいました。しかし私たちはディーゼルガスによる汚染の因果関係なども科学的なしっかりした根拠に基づいて述べ立てているんです。社会的な貢献度はあるにせよ、それを優先してに喘息を蔓延させるようなことは、あっちゃならんでしょう。汚れた空気による三疾病である慢性気管支炎、肺気腫、喘息、これらが常態化してしまう世の中になってしまいますよ」
原告団の多くは自身が喘息などの疾病を抱えるが、大越さんはもとは病院の職員であるという。
「喘息の患者などを見ててね、こんなことはあってはいかんだろうと思いましてね……」
表情には疲労が浮かぶが、ロクな対応をしようとしないトヨタに対する怒りは深い。
高裁の和解勧告に対し、原告・被告はそれぞれどう対応していくのか。11年に渡る訴訟がいよいよ大詰めを迎えている。注目すべし!(宮崎)
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