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2007年6月16日 (土)

『吉原 泡の園』 第21回/弱い者が押し潰される世界

 さて、ソープランドの店の善し悪しを左右するのは男性スタッフだと言ったが、R店のスタッフではなかったのだが、僕と入れ替わるように飛んだボーイの代わりに、EちゃんがR店に来て、R店の寮に入る、すなわち僕と同じ部屋になったのがそのEちゃんなのである。
 メガネをかけているが、それでも伺えるギョロットした目、真中分けの髪型、身長はわりと高めだが、少し変態チックな性格で、自分自身で変な顔をしているとコンプレックスを抱いているようだ。
 マネジャーからは泣き虫野郎と裏で言われていた。
 どうしてだろう、マネジャーも他の人の悪口をたまに言う。しかし、それらはみんな僕に話してくるのだった。僕には面と向かって言うのだが、それが少ししゃくでもあった。
 そして、そんな時、中嶋みゆきの詩を思い出すのだ。
「悪口を言われない人生を送る人がいる。私は悪口を言われる人生だ」というものなのだが、言われている本人は悔しいのだが結局は問題なく生き、言われない人は、一見幸せそうだが実は死んでしまったという詩である。
 僕はいつもそうだった。子供の頃からそうだった。そしてその中島みゆきの詩は僕に衝撃を与えたものの一つだった。
 同じ事を考えている人がいる。そう思えただけで少しは救われた気がしたものだった。
 さて、Eちゃんは始め僕にも心を閉ざしていた。いつも口を尖らせて、すれ違う出勤途中のどこかの女性をじっと眺めていた。
「この変態野郎」
 と僕はどこかでEちゃんを馬鹿にしていた。僕もEちゃんを言えた義理ではないのだが、あいさつしても軽く馬鹿にするかのようにフンッとされる始末だ。
 どうしてこんなに心を閉ざしたのか、後になって知ったのは、幼稚な話だが、トイレに入っていたEちゃんを当時店長の親戚の悪ガキとマネジャーでトイレのドアを壊す勢いで叩きちらし、
「E、てめえ早くでろボケ、クソがもれるだろうがてめえー」
 とEちゃんをたたき出したそうだ。もちろん、Eちゃんは涙をボロボロ流していた。本当に幼稚な話だが。
 それで、マネジャーから泣き虫と渾名されるようになってしまったのだった。
 マネジャーも店長の親戚の悪ガキというだけで、店長の面子もあり、その悪ガキには何も言うことが出来なかったらしい。
 つまりマネジャーもそれにたいしては少しは被害者だったのかもしれないが、Eちゃんは、その事件後心を閉ざしたらしい。
 マネジャーに相当金を借りたままその悪ガキは飛び、叔父さんにあたる店長も金のことは知らず、店ではおおいばりし放題である。その点はマネジャーも被害者なのかもしれないという同情の余地はあるかもしれない。

 初日、一緒に焼肉屋に行ったのが坊主頭のTさんである。当時、僕も坊主頭だった。何故か? 理由はない。でもこういう店柄、坊主にしなければいけないと僕もTさんも思ったのだろう。Tさんはもともと長野の生まれの人だった。僕よりも3歳くらい上の人だ。
 地元長野ではトラックの運転手をしていたそうだ。そして幸せな結婚も控えていた。
 そう、婚約者がいたのだ。が、仕事中大事故を起こしてしまったらしい。死亡事故まではいかないものの、大変な損害賠償を背負い、地元長野を去り、東京に逃げるように出てきたのだ。はじめ、屋台のラーメン屋やパチンコなどいろいろやってみたらしいが、すぐに飽きてしまう。やはり婚約解消が相当の心の傷になったのは想像に難くない。
 ふらりふらりでとうとう行き付いたのがここ吉原だったそうだ。
 寮ではマネジャーと同じベッドである。しかも、Tさんの部屋は僕の部屋の半分程度の四畳半くらいだ。
 昼怒られ、夜もいじめられている。それは目撃したから間違いない。ベッドの上にTさんが寝ているのだが、したから足でドッカンドッカン蹴り上げられているのだ。
 凄まじい光景だった。Tさんが、蹴られる勢いで数十センチも宙に浮くのだ。
 いじめ。リンチ。暴力。Tさんは宙に浮く姿を僕に目撃され、きっと恥ずかしかったに違いない。僕は見てはいけないものを見てしまったと悔やんでいた。
 それがめぐりめぐって僕にめぐってくるとは、そう、やさしいTさんだったが、人は変わるのだ。特にいじめを受けると、人はさらに立場の弱いもの、社会的弱者に向け、その牙をむくことで、どうにか自分をごまかすのだろう。陰湿かというとそれほど計算されたいじめでもないが、僕に対しての責任転嫁などでどうにか憂さばらしをしていたのだった。だが、僕はそれにたいして腹も立たなかったし、今でも別に仕返しをしてやりたいとも思わない。それにはおいおい理由があるのだが。(イッセイ遊児)

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