ビル・ゲイツを日本出版界は待っている
ゲイツよ。私はあなたの会社が嫌いである。OSはともかくアプリケーションまで支配下に置くやり方が。現にこの原稿も「一太郎」で書いているし、データベースソフトは「桐」を使い、メーラーはベッキーである。
その私が伏して、本気でひれ伏してお願いする。どうか日本のDTP環境にあなたの「サウロンの目」を向けてほしい。早い話が支配下に置いてほしいのだ。
今月の大型連休中、小社の弱体DTP環境は滅亡の危機に瀕していた。起こった問題は順に以下の通りである
1)アップルコンピュータの不可解な永眠
というか小社の歴代マックは常に不可解であり続けた。別に安物買いもしていないし純正のアプリケーションをインストールし、DTP以外のソフトは念のため入れていない。ネットにさえ接続しない念の入れようである。なのに購入当初からクラッシュが続発した挙げ句にGWで永眠である。サポートはまったく役立たず。付属のソフトでも再生せず、真ん中に死去を告げる「?」のアイコンが出続けてお仕舞いだ。
もう「君は何代目?」と聞きたくなるくらい代を重ねて死んでいる。まだ15代は数えないも徳川の代が15代で約260年続いたのに比して早世しずぎる
2)OS問題
近日永眠したマックはOS10と9がどちらも動き、9のクラシック環境で使っていた。なぜそんな面倒をしたかというと購入(動機は先代の死亡)当時すでに10が出回っていたものの9とはまったく異なる点が多く、印刷屋さんに相談したところ「10では保障できない」と脅されたからである。といって市場に9の新品はすでになく「10も動くが9で動かす」選択をせざるを得なかった。
いうまでもなく我々が10にしてくれと頼んだ覚えはない。MSのOSはDOS時代から使っていて、それはそれで不満たらたらではあるも、少なくともOSが一新されたのでアプリケーションも……という記憶はない
3)アドビ社問題
DTPはかつてアドビ社のイラストレーターとフォトショップにレイアウトソフトのクオークという組み合わせが一般的だった。ところがクオークはバカ高い上に1台限りのプロテクトがかかっていた(今は違うとのうわさも聞いたが)ので使わなかった。
別に1つのソフトを何台もにインストールしようなどと不穏な考えを持っていたわけではなく上記の如く「1台限り」のマックそのものが死にまくるので、その都度買い換えるのがバカらしいからだ。結果としてややマイナーなページメーカーを使っていた。
このページメーカーがアドビ社に吸収されて「やれやれアドビ社で統一環境を作ってくれそうだ」とMSオフィスみたいな風景を待望したけど果たされず。アドビは新レイアウトソフト「インデザイン」を発表する。
だからその時点でインデザインに切り替えればよかったとの批判には反論がある。登場時点でアドビ社はインデザインは初歩向けでプロユーズはページメーカーと棲み分けるとの方針を示していたからだ。やせても枯れても当方はプロの端くれだから切り替えなかっただけの話である。
ところがアドビ社は01年のバージョンアップを最後にページメーカーを放置し、いきなり「プロもインデザインへ」と統合を発表してしまった。小社はページメーカーである。OS9で動いている。今やインデザインの時代である。インデザインはOS10で動く。ページメーカーはOS10での動作確認をされていない。ページメーカーのデータはOS10上のインデザインで読めるらしい。「らしい」では過去の膨大なデータが読めない恐れが出てくる。事実としていくつかの不都合もある「らしい」。
ここで救いだったのはデータはすべて外付けHDに保存してあった点だ。我々も過去に学ぶから突然死の危機をはらむマック本体にデータを入れておく危険は犯さない。というか過去に犯して本体ともども死にかけた(何とか一部救出)経験からそうしていただけだけど。
ここで悩んだ。大枚はたいて最新のマックを買って最新のアドビ三兄弟を入れてもいい。その結果として過去や現在作成中のページメーカーのデータさえ読めれば。でもその保障が何もないのだ。止むを得ず、自らも他からも愚かな選択とわかっている「中古でOS9」を秋葉原で探し出してデータ救出マシンとした
4)モリサワフォント問題
「中古でOS9」でデータを正確に救い出すには多くを依存しているモリサワフォントが必要だ。だがモリサワはクオークと同じく1台限りのプロテクトがかかっている。念のため「中古でOS9」でインストールを試したが拒絶。
ネットで調べてみるとそうした妥当な理由に対してモリサワは対応してくれるらしいとわかったが何が悲しくて、どういう頭を下げてモリサワに頼まなきゃあアカンのだと嫌になる。ついでにいうとOS9対応とOS10対応では同一のモリサワフォントでも違う。同じリュウミンL-KLでもタイプが異なるのだ。むろん別売。
ここに至って「いっそゲイツに屈するか」と悪魔の選択がよぎった。どうせ最新のマックを買っても、これまで通りの早世を繰り返すのだ。アドビ三兄弟もモリサワフォントもウインドウズ対応版がある。印刷屋も少なくともPDFならばWINでもOKという。ハードの選択肢がマックより段違いに広く(無数vs1社)少し待てばすぐに値下がるウインドウズ機の方がはるかに買い得である。何よりマックOSだポストスクリプトだなどにもう悩まされずに済む!
5)WINとマックの互換性
後はこの壁だ。同じアドビ三兄弟でもデータ互換が今のところ極めて不安定である。版元にとって過去の版下は宝物であるから引き出せないと困る。そこで冒頭の願いだ。
ゲイツよ。あなたとあなたの膨大な資金力でアドビ社とモリサワと、ついでに私が願って止まない写研も買収してくれないか。写研を買ってくれるならばモリサワはあきらめるというところまで譲歩してもいい。マックに至ってはすでにMSの資本が入っているのだから吸い込んでくれ。アップル自身ももうパソコンへの情熱は失っているそうじゃないか。
何でも欲しがるゲイツ君が例外的に見落としているのが我々の生業である日本のDTP環境というのが残念でならない。ビジネスにならない? だったらゲイツ様お得意の社会貢献とみなして実行して下さい。
小社はすでに最新マックを買わず、ウインドウズ環境でDTPに踏み込もうと決意しつつある。これがいかに危険か同業者ならばお分かりだろう。でもウインドウズ環境で仕事をするのが危険という自体、他の業種ではほとんどあり得ないくないか。重ねてゲイツ氏に頼む。そうしてくれれば一太郎をワードに、ベッキーをアウトルック・エクスプレスに換えるから!(編集長)
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