先日のロシア 第4回・「家族宣言!」
貧乏をすると病気が怖い。最近その日暮らしをはじめ、改めてそれを実感した。
5月の陽気に風邪を引いた。帰路の途中で頭痛がし始め、満員電車で寒気を抑え、家に帰って熱を測ったら平熱よりも2度近く高かった。それから3日間寝込んだが、薬代がかかる一方で休んだ分のお給料は当然ゼロである。今まで、このまま死んでしまうのではないかと思ってインフルエンザに耐えていたことはあったが、いっそこのまま死んでしまいたいと思って布団をかぶっていたのは初めてだ。体が丈夫なのをいいことに体調管理にズボラであったが、これからは気をつけよう。うがい手洗いを迎行して、朝の5時には起きて乾布摩擦をしよう。日野原先生の本も読もう。そんな風に思った。
が、その矢先である。つい先日、熱中症を起こして勤務中に倒れてしまった。太陽との勝負に、戦いの自覚もないままに負けたのである。気がつくとダンボールの上に寝かせられ、扇がれていた。情けない。「どうする?」と問われ、「やはり気分が悪いので帰ります」と答えたとき、ロシアの留学生が発した言葉を思い出した。「湿気が多いので帰ります」。帰る理由としては、ちょっと分かりにくい。彼女も、つまりは気分が悪かったのだろう。そう類推できるけれど、少々ショートカットのしすぎである。
さて、今回はロシアの新聞メディア「ВЕДОМОСТИ」(「vedomosti」訳して「報告」これまたシンプルな新聞名)5月22日付の記事から。http://www.vedomosti.ru/newsline/index.shtml?2007/05/22/430622
経済紙とあってお堅い記事が並ぶ中、病室で老齢のご婦人が横たわる画像に惹かれた。きっと先日の不健康で散々な記憶が脳に焼き付いていたのだろう。タイトルは「申告しない家族」。なにやら意味深げだ。本文は税金控除についての記事であった。冒頭をまとめると以下のようなお話。
世帯を持つ男性は、離れて暮らす妻の実母の通院代や薬品代を支払うとき、そのぶんの税金控除を受けることができない。男性側からはこんな訴えが聞こえてくる、「俺あ自分の母親も、嫁さんの母親も頭数に入れて生活しなきゃいけないんですぜ!」(台詞脚色:臼利)。
母親かあ。母親ね。……父親はどうしたの? と突っ込みたくなるが、ロシア人男性の平均寿命は59歳である。女性の平均寿命とは10歳も違う。おじいちゃんが見当たらないとまではいかなくとも、「老人」のステレオタイプは「おばあちゃん」くらいの図式は出来上がっているのかもしれない。
ロシアの税制では、一家の医療費に5万ルーブルまでの控除が許可されている。1ルーブル4円で換算すると5万ルーブルはざっと20万円。ロシア男性の平均賃金が月に1万から3万ルーブル、4~10万円ということを考えると、妥当な額なのではと思われるかもしれないが、ロシアでは健康保険で診察を受けられるのは国立の病院だけなので、民間の病院はすべて自己負担なのだ。なお、薬品も輸入に頼っているために高価なものとなり、庶民には手が届きにくい。しかしロシア人とて人間だ。病気もするし、薬も必要だ。高齢になってくれば尚更のことであろう。先に「家族」と述べたが、これは文字通り世帯を共にするものとしての「家族」だ。離れて暮らす妻の母親を扶養したい場合、何の控除も受けられないのがロシアの現状なのである。
世帯単位ではない扶養家族の申告ができるようにすると、何らかの効果も出てくるという記事内容なのであるが、そのためには、所得税の問題を解決する必要があろう。ロシアの個人所得税は一律13%、この税率は欧州で最も低い水準である。また、貧富の差を増大させない累進課税が一般的な世界で、フラット税というのも珍しい。 エリツィン時代に累進課税にしたところ、もともと税金を払うという意識に乏しい元社会主義国において、支払いは滞った。そこでプーチンが一律税を導入、一転して税収はアップした。しかしフラット税ではどうしても限界がある。税制導入後わずか6年で、福祉問題に引きずられるか否か。
しかしこの「扶養家族の申告」…「семейной декларации」と表現しているが、普通に訳せば「家族宣言」である。「家族宣言」! 「健康家族宣言」、「エコ家族宣言」、「みんなで大掃除楽しいね ハッピー家族宣言」など、日本企業もこぞって使う表現ではあるが、なんとアヤしい響きだろう。そこはかとなく共産的な匂いも漂う。いつものことだが、資本主義国の仲間入りを完璧に果たしたいのなら、このネーミングセンスを何とかしてほしい。見栄えがよければ中身がともなってくる、場合もあるから。(臼利つくし)
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