歌舞伎町ビル火災事件・「明星56」の現在

戦後の火災事故では5番目の死者数に上る。明星56ビル火災よりも多くの犠牲者を出した火災事故はこれまでにもあったわけだが、それらの火災事故はデパートやマンションなど規模の大きい建物で起きたものだった。
明星56ビルは4階建てで1階あたりの床面積がわずか83平方メートル前後の建物である。それにも関わらず44人もの死傷者が出たのは、避難経路が確保されておらず、避難階段にもロッカーなどが置いてあり消防活動に支障が出たからだとされている。3階、4階にいた人の生存率はわずか1割だった。翌年に東京消防庁は火災事件を放火と発表したが、犯人はいまだ確定されていない。マージャン店で、賭博に負けたことに怒り、ドアを蹴って店を出て行った人物などが目撃されているが、犯人は断定は断定されていない。また、タバコによる出火との可能性も残されている。
火災事故が起こった場所はいまどうなっているのだろうか。
JR新宿駅側を背にして、映像にもたびたび表れる「歌舞伎町一番街」のアーケードを通り100mほど歩いてその場所にたどり着いた。
ビルはすでに取り壊されており、白い衝立でさえぎられているため敷地には入ることができなかった。06年にビルは解体されていたのだ。敷地について掲示などはまったくされていない。
建物同士の間隔はほとんどなかっただろうと思われるが、明星56ビル跡と隣接する焼肉店の従業員によると焼肉店には火災時に被害はなかったという。少なくはなったが今でもたまに花がそなえられてることがあるという。隣はあの火災が起きたビルだろうと聞いてくる客がたまにいるそうだ。
衝立の隙間から敷地をのぞいてみると、惨禍の記憶を根こそぎ取り去ろうかとするような、ぽっかりとした穴が開いていた。
事件後、東京都が都内の雑居ビル2800棟に検査を行なったところ、消防法や建築基準法に反し防災設備上問題のある建物が8割以上に上った。避難経路に物を置かないなどの義務付けをする防災予防条例や消防法の一部の改正といった動きにつながる事件ともなったわけだが、明星56ビルが過去に消防違反容疑を新宿消防署に指摘されていたにも関わらず改善されていなかった事実などを考えると、法や条例の改正が現在に活かされているかというと疑問である。
被害者の多さや事件性の高さから連日のようにこの火災事故についての報道はされていたが、事件から10日後に2機の旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込んだ後は、報道は完全にそちらにシフトした。
火災事故の死者の遺族33人がビル所有会社である久留米興産や当時の店の経営者に対して損害賠償を求めていたが、被告側が計8億6800万円を払うとして、今年3月1日付で両者が和解に至っている。(宮崎)
| 固定リンク
「 あの事件を追いかけて」カテゴリの記事
- 『あの事件を追いかけて』無事、書店に並びはじめました(2010.07.30)
- 写真展「あの事件を追いかけて」終了!(2010.07.19)
- 再び告知!『あの事件を追いかけて』出版記念写真展開催(2010.07.09)
- 「あの事件を追いかけて」写真展開催!(2010.06.18)
- 「あの事件」のツイッター始めました(2010.06.03)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
この事件には2度驚きました。1回目は若い頃、新宿で遊んでいた時に通り道にしていた場所で店舗は当時のままではないけど雑居ビルがピッタリと寄り添って建ち並んでいるのを覚えていたから。当時「こんな場所で火事にでもなったら怖いね」と話したのを鮮明に覚えています。まさしくそこが火事になって死者が出たと聞き震えました。
2度目に驚いた事は、その火災で主人の会社の方が亡くなりました。しかも風俗で…です。
警察から連絡が来ても「恥ずかしい所で恥ずかしい死に方をした」と言う事で奥さんも子供さんも遺体を引き取りに来ず、結局最終的には会社の者が引き取りに行ったそうです。私も気持ちは分からなくもありませんでしたが、どんなものかと考えさせられました。
投稿: まりぃ | 2009年4月 5日 (日) 01時58分