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2007年5月12日 (土)

『吉原 泡の園』 第17回/花魁がくれた消化器のキーホルダー

 さて、ボーイが始めのうちに任される仕事といえば、とにかく体力勝負なことがほとんどで、買い物にしても時間が勝負だし、掃除も体力と早さが勝負。そして1日中専門にやらされるのが、ドリンクつくりと、ドリンク運びである。
 ここでもまた超一級のマネジャーのいじめが待っているのだ。そしてこのいじめは半年くらい続くことになる。
 プルルルとインターホンが鳴り、ランプのついている部屋からかけているのが分かる。そのランプの部屋のボタンを押すと話せる仕組みだ。
「はいフロント」
 メチャクチャ怒った口調でマネジャーが出るのだ。そして何か話してあーでもない、こーでもないとないとやる場合もある。
 電話をおく。さ、来るぞー。まあ1番新人の僕が聞き、僕が作って持っていくのが筋だろうから、と毎回じっとマネジャーの発言に耳を傾けるのだが、
「%&お00!K#“21と水」
 へっ?
 これはマネジャーがテンパッて、慌てていうから分からないのではない。毎回なのだ。暇でも忙しくても、
「あのーすいません。今なんと」
 などと聞いてしまうのが新人だが。
「今いったべ、ボケ、ねむてーな」
 と机をバンバンとグーで殴り始めるのだ。
 ヒェーなんなんこの人、南無阿弥陀仏、もう聞きません、いえ聞けません。
 仕方なくはいはいと流しに向かい、うーんと唸りながら、そしてドキドキしながら恐らくこれだろう、とアイスティなどをつくるのだった。
「3号室オーダー入ります」
 といいフロント前を横切る、マネジャーの怒っている目を見ないようにと急いでいく。3号室のテーブルにドリンクとストロー、シロップとミルクを置き、また1階に戻り、
「3号室オーダー入りました」
と楽しそうに言う。そう、いかにも楽しそうにいうのがポイントだ。
 フーッ、やっとオーダー完了したか、と安心していると、
 プルルルルー
とインターホンが鳴ったりする。
「はいフロント」
 と出て顔がだんだんフグのように膨らみ始める。
「おい関口、てめえアイスティなんか持っていったんか、 ボケが、アイスコーヒーだって言ったべ」
「ひーはいはいただいま」
 と作り直してまた置いてくる。オーダーを持っていき、あまりに長い時間表に置きっぱなしのドリンクは、グラスの表面に水滴がつく。そうなったものは、回収するのだが、大体流しまで持ってきて、捨てる振りをして、ボーイがいただくのだ。
 ただでさえ飲まず食わずなのだ。どこかで水分補給もしないとまじやばい。
 
 怒られないように注意し、それでも新人のボーイはお約束のように間違いをする。
 各部屋のドアは、火事などの際の避難のために、鍵をかけてはならない決まりになっている。さすがは火事を経験している吉原の歴史。と思うが、これが事件の元なのだ。
 オーダーを持っていき、ずっと手をつけずに置いてある部屋がある。中から喘ぎ声一つない。もしや誰もいない部屋に置いてきたのかな、とそっとドアをあける。これくらいでもアウトである。それがマネジャーにでもしれたら、おそらくリンチにされるだろう。
 その日、1番奥の部屋は確か使用されていないと思いこんでいた。ドリンクを運び、ついでに奥の部屋のチェックというか、まあ確認でもしてみるか、とものすごい勢いでドアを開いた。中は暗闇だった。
「へっ、何故に暗いの」
 暗闇に目が馴れ、ベッドに人がいるのが見える。それも二人いる。女と男。合体中であった。
「うぉー、ここ、殺される」
 頭が真っ白になり、ドアを閉めればいいのに、なぜか見てしまっていた。
「ねぇぇん、ドアぁん開けないでェン」
姉さんの色っぽい声で、僕にそう言っている。お客さんが上だった。それは確かだ。腰を必死に動かしている。突然、あれの最中に、店のボーイにドアを開けられるなんてあってはならない。自分が逆の立場ならそう考えれば、どれくらいのことかがわかるだろう。
「すす、すいません」
 ドアを閉めた。が、もう遅かった。
 ため息一つ。あーどうしてこうも駄目なんだ。隣の部屋からはアンアンアンとこぼれる大音量の喘ぎ声が。これくらい大きければ、僕だって開けずにすんだのに。
 もう遅いのだ。姉さん、きっとカンカンに怒ってるだろうな、客もしかりだろう。
 あー、きっとマネジャーに報告されるぞ、もし客が金返せ、とかいったらどうしよう。
 それくらい恐ろしいことだった。当時の僕には。結局姉さんはマネジャーに言わなかったし、客もそれからもきてくれたのだ。
 後日姉さんが僕を覚えていてくれたのか、消火器のキーホルダーをくれた。
 頭の熱を消化しろと言いたいのか、とにかく、姉さんの懐深さに僕は救われた。がんばって仕事をしていれば、見ている人は見ているのだろうか、だから言わなかったのか。なぜかはわからない、が、頭の熱でも消火しろ、とでも言いたかったのか。(イッセイ遊児)

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