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2007年4月23日 (月)

ホームレス取材のこぼれ話②

 新宿などでは多くのボランティア団体が活動し、ホームレスの人々に食事や毛布などを提供している。しかし取材に行くと、ホームレスの人々がプレゼントをくれることも少なくない。
 ホームレスの取材を始めて、僕が最初にもらったプレゼントは貯金箱だった。猫をかたどった黄色い貯金箱は、小銭を放り込むと短い曲を流す仕掛けが付いていた。
「お金は大切にするんだよ。若いの。俺にはもう貯金箱なんて必要ないからやるよ」
 上野公園で暮らしていた男性は、そう言って僕の手に貯金箱を握らせた。
 その貯金箱は、編集部の机の上で2年近くお金を集め続けた。最後には音楽が止まらなくなり捨てることになったが、2000円近いお金を僕に残してくれた。アルミ缶で同じだけの金額を得ようと思ったら、23キロも缶を集めなくてはいけない。そう考えるといやに大金に思え、すぐに銀行に行った。
 今回、記事を掲載した沖縄出身の男性からは、ゴーヤとナーベラーを2本ずついただいた。河原で作ったとは思えないほど立派な大きさで、味も素晴らしかった。特にナーベラーは絶品。なすに近い味わいがあり、味噌炒めで食べるとごはんが進む。
 わざわざテントから脚立を持ってきて、ちょうど食べ頃の実を選んでもいでくれた彼が、どういう気持ちで故郷の野菜を育てていたのか。ナーベラーを食べ終わった後、少し考えさせられた。
「いや、ホントにうまいんだから。ゴーヤは、売ってる店もあるけれど、ナーベラーはまだまだ出回っていないから食べてみてよ」
 楽しい思い出が詰まっているわけではない故郷。それでも彼の心の根っ子には、沖縄があった。沖縄への思いについて、それほど詳しく語ってくれなかっただけに、ナーベラーとゴーヤを手渡してくれたときの笑顔が、強烈な印象として僕の中に残っている。
 荒川のほとりでは、一杯のコーヒーをご馳走になった。気を遣ってくれたのだろう。わざわざ新しい湯飲みを箱から出して、パック入りのコーヒーを注いでくれた。
「氷がないのは勘弁してくださいね」
 暑い日だったからだろう。そう言いながら、彼は湯飲みを手渡した。河原には自動販売機もなく、数時間、何も飲んでいなかった僕にとって、そのコーヒーは何よりありがたかった。
 古本屋に拾ってきた本を売って生計を立てている彼にとって、パック入りのコーヒーを買うのは、それなりの贅沢であるに違いない。そんな貴重なコーヒーを、初対面の僕に振る舞ってくれる。その気持ちに頭が下がった。
 どうして彼らがホームレスにならなければいけなかったのか。やはりわからない。いや、ホームレスを美化するつもりは毛頭ない。とんでもなく性格の悪い人や、本当に怠け者の人だって、ホームレスの中にはいる。
 だが彼らの大半は、やはり善良で大人しい人である。仕事仲間としても悪くないように感じる。いきなり職を失う原因を、性格から探しだすことは難しい。
 彼らからのプレゼントについて考えても、やはり同じ疑問が頭を駆け巡る。彼らの運命を不運と片づけたくない。でもホームレスになる明確な理由など、彼らから見つけることはできない。そんなことを考えている。(編集部)

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