新型ゲーム・冬の陣
06年末、ゲームのハード機(本体)がメーカーから相次いで発表され、年末商戦は決戦の場となった。
11月11日にソニー・コンピュータエンタテイメント(SCE)から「プレイステーション3(PS3)」、12月2日には任天堂から「Wii」が発売された。11月2日にもマイクロソフト(MS)が「Xbox360」の低価格版となる「Xbox360コアシステム」(以下「Xboxコア」)の発売に乗り出しており、三つ巴の争いとなった。
MSの「Xbox360」は06年末までに全世界で1000万台以上を売り上げているが、日本では売り上げが伸びず、今回の「Xboxコア」で日本市場での掘り起こしを計る。
SCEと任天堂が席巻する家庭用ゲーム機市場にコンピュータ企業の巨人・マイクロソフトが初代「Xbox」を掲げて割って入ったのが2002年。「Xbox」を中心としたエンターテイメント事業はいまのところ赤字とはいえ、潤沢な資金を有するMSが先行する企業にとって脅威となっていることは間違いない。
さて、「プレイステーション2」に続く大成功を収めることができるか注目された「PS3」だが、発売前からSCEの混乱ぶりが伝えられていた。
量産体制が整わず日本とアメリカでは大幅な初期出荷台数の縮小を余儀なくされ、欧州にいたっては発売が延期になったほどである。
「PS3」が搭載する、次世代DVD規格であるブルーレイディスク(BD)を読み取る装置の生産が遅れているのが原因だ。
当初の計画通りであれば、日米合わせた年内出荷は400万台のはずだったが、実際には200万台程度にまで減少。発売前に希望小売価格の値下げを発表するという波乱もあった。ハードディスクの容量が20Gの低価格版は税込み6万2790円の予定だったが、「Xboxコア」の登場やユーザーからの「高い」との声を鑑みた結果、4万9980円まで値下がりした。
発売直後こそ店にPS3を買い求める客が殺到したが、それも初回出荷台数が10万台のみだったこともあるようだ。
対する任天堂の「Wii」は「遊びの原点立ち返ったゲーム機」と言われている。
「ファミコン」が90年代半ば、「プレイステーション」にハード機No.1の座を奪われた後、任天堂も「プレイステーション」の特徴である高機能路線で対抗することを目指し「ゲームキューブ」を発表。しかし結果的に敗北したという過去がある。
「Wii」では、高機能性や高いゲーム性を追求した「PS3」や「Xbox」とは別の「遊びやすさ」「親しみやすさ」を重視。岩田聡SCE社長が「家族全員が毎日当たり前のように触れるゲーム機を目指す」とコメントしていた通り、棒状のコントローラーを片手で持つという気軽さ、それでいて操作が簡単ということから老若男女が楽しめるものとなっている。
価格も2万5000円と他の2機種より低く、発売後5日間で世界販売が100万台を突破するというものすごいスタートダッシュを見せた。
年末商戦の時点では「Wii」が他に比べてリードしていると報じられているが、このまま「Wii」が今後のゲーム機の主役になっていくのかというと、そういうわけでもなさそうだ。
今でこそ「PS3」は高価格だが、1年後には数量的に市場に普及し価格が下がり始め、多くの人に手が届くようになる。そして、なんといってもハイビジョン対応の次世代DVD再生機である「PS3」はAV機器としても最高峰の機能を備え、BD-DVD再生ハードとしても期待されている側面がある。ゲーム機が「家電」に完全に追いついたのが「PS3」といえ、今後の関連デバイスの発表にも期待が集まっている。
年末商戦以後の各ゲーム機の展望はどうなのか。完全な予想などありはしないが、日々店に立ってゲーム機を販売する店員たちならば、その流れを敏感に感じ取っているはずだ。
■ゲーム担当店員の視点
家電量販店やゲーム店が林立する秋葉原を訪れた。(この取材を行ったのは1月23日ごろ)
まずは秋葉原駅横にそびえるヨドバシカメラマルチメディアAkibaに足を運ぶ。「Wii」の発売前日の夜から1500人もが行列を作った店舗である。
ゲーム機器のフロアには多くの人が集まっていた。大きなディスプレイが用意され、映画のような「PS3」のゲーム画面が写し出されているかと思えば、「Wii」の棚にも人だかりができている。
「今のところは、『Wii』が押してると言えるんじゃないでしょうか。今日の時点でも在庫はゼロです。入ってきても、そのたびに即日完売の状態ですからね。やはり幅広い層に人気がありますし、操作方法が斬新で本当の意味で新しいゲーム機というインパクトがあるようですね。」
店員さんが言うには、なんと予約の受付もできない状態であるという。
売り場には、「Wii」が売り切れ状態であることを知った客が、人気ソフト『Wiiスポーツ』のパッケージを手に取って、心なしか物欲しそうに眺めている。
他方、「PS3」には在庫があるようだ。
初期出荷が少なかった「PS3」の方が在庫があることが意外だった。それでも、今後の見通しが暗いわけでもないようだ。
「思った以上に、BD再生機として『PS3』を見ているお客様が多いんです。たしかに『PS2』発売時も、DVD再生機としての側面がありましたが、そのころはもうDVD再生機は普及していました。でも、今回のBD-DVDに関してはまだほとんど普及していない。その意味は大きいと思います。これからの展望ということになれば、決定的な影響力を持つのは人気ソフトが出るかどうか、ということになりますよ。このソフトが欲しいからこのゲーム機を買う、という判断でハード機を決めるお客様は多いですから」。
こう語る店員さん自身も、どのゲーム機を買うかはこれから発売されるソフトによって決めるという。
■『ブルードラゴン』でXbox復活!?
実際にソフトの力によって売り上げを大きく伸ばしてきたゲーム機がある。「Xboxコア」である。「ゲームソフト店「メディアランド」の店員さんに聞いたところ熱っぽく語ってくれた。
「やっとキラーソフトが出たって感じですよね。『ブルードラゴン』『ロストプラネット』あたりが出てきて本体も売り上げが伸びてる感じです。なぜかアキバ(秋葉原)では『Xbox』系が強いという謎の傾向があるんですけど、ここにきて本格的に伸びてきました」。
『ブルードラゴン』はあの『ドラゴンボール』を描いたマンガ家、鳥山明がキャラクターを担当した作品だ。このソフトが発売された12月7日以降、売り上げが伸びたことからも年末商戦がさらに激化したことが伺える。
ここで、いかにもゲーム担当らしい今後の展開についてのコメントを聞くことができた。
「でも、これから先、どのゲーム機に期待するとしたら、個人的には『Xboxコア』でも『PS3』でも『Wii』でもなく、『ニンテンドウDS』か、『PS2』ですよ。というのは、ソフト制作会社側が『PS3』からソフトを出すのを嫌っている傾向があるらしいということをたまに聞きますからね。『PS3』が高性能になったから、そのソフトを作る側にも相対的に今までより高い技術とコストをかけなければならなくなってしまった、というのが理由だそうです」。
その点、『ニンテンドウDS』や『PS2』では今後も『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』といった大ヒット間違いなしの超大作が発売を待たれている。新たな3機種に移行するのはまだ早計ということらしい。
何件か店を回ったが、1月23日まで「Wii」にお目にかかることができなかった。しかし、この23日にようやく「メディアランド」で中古の「Wii」を1台だけ見つけることができた。
値段を見ると、2万9800円。なんと希望価格の2万5000円より5000円近く高くなっている。買い取り価格は2万6000円前後だという。
「今のところ希少価値がありますから。他の店では中古で3万円を超えてるのも見たありますよ」。
それでも売れるというから驚いてしまう。新品にしろ中古にしろ、次に入ってくる見通しは今のことろないという。
「GAMERS」本店。この店でも当然のように「Wii」は売り切れである。「PS3」在庫アリ。「Xboxコア」も在庫アリ。
店員さんの談。
「『Wii』は入ってくるなり品切れ。運がいいときは2週で連続で入ってきますけど、その日のうちにすぐ売れちゃいますね。個人的には『Wii』派です。『PS3』は『機械』という感じがして、気軽に楽しむという感じではないですよね」。
「Xboxコア」の売れ行きは同店でも伸びているという。ここで気になったのは、人気ソフトが出る前とはいえ、なぜ「Xbox360」「Xbox360コア」は伸び悩んだのかということだ。
「初代の『Xbox』と比較して、そんなに進化してる感じがしなかったからだと思います。目新しい機能もないし、ソフトもそんなに充実してなかった。だからMSにとっては『ブルードラゴン』は『これにかけた!』っていう感じだったんじゃないですかね」。
『ブルードラゴン』がヒットし、やや遅まきながら『Xboxコア』が攻勢をかける。それが『Xboxコア』の現状であるようだ。
少し前まで、ゲームといえば子どもの遊び道具というとらえ方が一般的だったはずだが今は違う。
SCEはテレビ以上の開発コストをかけ、家電のプラットフォームとしてのゲーム機を視野に入れている。全世界で大ヒットを記録している『メタルギアソリッド』(ハードは「PS2」)に大塚製薬の『カロリーメイト』がアイテムとして登場しているように、ゲームの中に広告が入るのは今後当たり前のことになるという。MSはゲーム中の広告を収入源として視野に入れはじめ、ゲーム向け広告代理店を設置している。
飛躍的な進化を遂げる今後のゲーム業界に、そして3機種の生き残りの動向に注目! (宮崎・『記録』2月号掲載記事)
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