■日曜ミニコミ誌 いざ、寝袋持って野宿へ/『野宿野郎』
この『野宿野郎』を初めて手にとってパラパラ読んでみたとき、まず、この冊子についてどう考えればいいのかを迷った。書店に置かれているものが大体持ち合わせているような、誰かに向けられたメッセージ性だとか、なにかを共有するといった雰囲気のようなものが『野宿野郎』にはもともと備わっていないよう気がしたのだ。とりあえず「野宿」について書かれてある。もちろん、ここで言われてる「野宿」は、家の中ではなくどこかの公園や駅で寝るアレのことだ。
「トラック野郎」は既に市民権を得ている言葉だが、その場合の「野郎」には「トラックという仕事にムチャをするほど情熱をそそぐ野郎」とか「トラックを転がす荒くれ野郎」というニュアンスが働いている気がする。「野郎」ではあるが仕事をしているので得体の知れない感じはしないのだ。
「野宿野郎」はどうか。
野宿は仕事ではないからなのか、「野宿野郎」につく「野郎」からは「投げやりな野郎」的なニュアンスのみが読み取れるような気がするのだ。得体が知れない。なにかを「投げ捨てちゃった感じ」とでも言えるのか。
『野宿野郎』の誌面約100ページ、多くの記事の中では、悪く言えば投げ捨てちゃった感じの人たち、良く言えば「俺ら、どんな風に見られたっていいからよ」と何か達観した雰囲気の人たちがとりあえず野宿をキーワードとして集まり、野宿について話している。
悪い人たちではなさそうだ。でも、やっぱり得体が知れない。それだけでは何が何だか分からないだろうから、いくつかの記事のタイトルを挙げてみよう。
「駅寝の最中にヤンキーと酒盛りした話」「野宿学会 第二回・野宿学会最高幹部会 ~野宿を広めるのだ!~」「インドの、なんとかっていう駅で寝ていたら列車に乗り遅れた話」「中央線各駅野宿の旅」……。
こんな感じである。
これらの「駅寝の最中にヤンキーと酒盛りした話」などが、あまり鼻息荒くない様子で、そしてたまに真剣に語られている。はっきり言って、大人目線で言えば「バカバカしい」の境地になどラクに到達しているのだが、それでも笑いなしでは読むことができない。だって、旅先で野宿をしていたら地元のヤンキーがやって来て酒盛りをすることになったんだぞ? 面白くないわけがないのだ。
『野宿野郎』を立ち上げた編集長のかとうちあきさんに、この不思議なミニコミについてお話を聞かせていただいた。まさか女の人が作っているものと思っていなかったので驚いた。しかも、電話の向こうから聞える声からするとかなり若い。だが、デザインにもレイアウトからも、名前とは裏腹に『野宿野郎』からはガサツな印象がしない。表紙に関しても、いっけん荒唐無稽な感じがするけれど、よく見るとなかなかに洒落ている。
かとうさん自身は高校時代から野宿をしていた(早熟である)。大学でもアウトドア系の団体で活動。いつかは旅に関するミニコミを作りたいと思っていたが、旅のミニコミはすでにいくつか発行されていたので、どうせ作るのなら今までにないものを作ろうと思ったという。
それに付け加えてこんなことを口にした。
「旅好きの人にはなんだか、オレはここへ行ったぞ、ここにも行ったぞ、ということを自慢げに話す人が多いんですよ。だから、逆にそういう態度では行かないっていうことは決めてました」。
いるいる。本当に旅ジマン族は多いのである。かとうさんの言葉通り、『野宿野郎』からは押し付けがましさは微塵も感じられない。
今までのところ野宿中に危ない目にあったことはないそうだ。旅先での楽しい出会いがあればいいとは思うが、寝ている最中に話しかけられるのは「眠いのでちょっとイヤ」。
現在は介護ヘルパーをしている。そして、休みを利用して毎月必ず野宿してるそうだ。03年に第1号を発行して、4号からなぜか一気に売り上げ、認知度が増したという。最新号は去年12月に出た第5号で、なんと1000部も刷られている。4号が既に500部ハケているので「冒険しちゃおうかなって、一気に言いっちゃいました」。次号は夏あたりを予定しているそうだ。このところ、急に暖かくなってきた。夜道を歩いてて野宿者に出くわしても、物珍しいからといって起こさないように!
最後に第5号にある、かとうさんの言葉より。
「野宿は必ずしも安全ではありません。本誌はおもいっきり野宿をすすめようとしていますが、その影響力は雨粒ほどです。しかしもしかして、これを読んで野宿に行ってくれる奇特でスバラシイ人がいて、運悪く危険な目にあったとしても本誌に責任はありません。自己責任という言葉は嫌いです。そんな時はなんでもかんでも太陽のせいにしましょう」。(宮崎)
(■B5 108ページ 500円 次号は夏あたり)
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