イブのフレンチとイタリアンなど絶対行くな!
今年もクリスマスが迫ってきた。
じつはレストランで食事するのが唯一の趣味なのだが、この時期のイタリア料理とフランス料理のディナーだけは絶対に食べない。浮き輪のようにぶら下がる腹の肉を揺らし、とにかく長い“食べ物ウンチク”が食べてる間中しゃべり続けるから、この時期わざわざ一緒に食事してくれる女性がいないのも道理ではある。そのこと自体は非常に悔しい!
しかし、そんな個人的な事情を別にしてもクリスマスシーズンのディナーは行きたくない。
まず値段が倍近くに跳ね上がる。クリスマス特別メニューとかいうやつだ。通常5000円前後に設定されている前菜とメインが選べるプリフィックスコースがなくなり、選択肢のない1万円程度のコースしかなくなる。そのうえひどいレストランになると、2回、3回と客を入れ替えるんですぜ! 5時半~11時半の間に。いくらメニューが固定で、作るのもサーブするのも早くなるとはいえ、通常の倍の値段で席にいる時間が半分って許せなくないか!?
カップルで行って、1万円のコースを食べたとしよう。コース2人分で2万円。とりあえず乾杯だからとシャンパンが1500円×2。「せっかくのクリスマスの記憶がなくなるのも困るもんね」とか食事相手を牽制してハーフボトルのワインを頼んで5000円。それにサービスが10%。これに消費税が加わって、合計3万2340円! ボリ過ぎだろ。
で、なんでこんな状況になってしまったのかを考えてみた。
クリスマスの過ごし方の変化を敏感に捉えたのは松任谷由実。1980年12月、彼女は「恋人がサンタクロース」を発表する。このあたりからクリスマスは家族や会社の仲間と過ごすのではなく、恋人と過ごすものだという認識が広がっていくのだ。
83年の『anan』の林真理子のエッセイには「もう十何年来一人でイヴを過ごしているんだから、ずっとそうョ。イヴの日にプレゼントもらったことないし、男と二人っきりで過ごしたことなんて、一度もないもの」と書いている。当時、若者に最も人気があるエッセイストだった彼女が、ここまでイブに恋人と過ごすことこだわっていたのだから、クリスマスと恋人が83年の段階で密接に結びついていたことは間違いないだろう。
さらに83年12月の『anan』は「クリスマスの朝はルームサービスで」という特集を組んでいる。つまり83年の段階でクリスマスは恋人とホテルに泊まるのが、一部で流行り始めていたわけだ。キィー!
こうした流れを引き継ぎ、86年11月から始まったバブル経済がクリスマスの「商品価値」を押し上げていく。クリスマスにかこつければ、高額商品がどんどん売れていくのだから。88年のクリスマスには三越本店のティファニーに彼女へのプレゼントを買う列が確認されている。その年の同ブランドの売り上げはなんと40億円。90年に入ると、イタ飯(イタリア料理)・ティファニー・高級ホテルをワンセットにして彼女に差し出すのが当たり前になっていく。
80年代後半からのイタ飯ブームがクリスマスとうまく結びついたわけだ。実際、90年12月5日号の『nonno』の「欲しいプレゼント」を女の子にたずねたアンケートによれば、「イタリア料理のディナー」が第8位にランクされている。
しかも、このバブル期のクリスマスにカップルを取り込んだのはイタリア料理だけではなかった。ホテルにあるフランス料理店もクリスマスディナーを企画し、宿泊するカップルを客として取り込んでいったのである。
しかもフランス料理と下心はじつに相性がいいんだ、これが。
晩餐館などで供されることが多いことからもわかる通り、もともとフランス料理はゴージャスだ。じつは日本のフランス料理の多くは、こうしたゴージャス感だけを提供してきた。日本のワインでは甘すぎて料理酒に向かないが、本場のワインだと高すぎて使えない。ソースに絶対に必要なエシャロットが手に入らない。そんな状況でも戦後数十年にわたり、多くのホテルが冠婚葬祭用にフランス料理を提供してきたのだから。おかげで美味しいフランス料理を食べたことないという人も少なくない。
味はともかく、場を整える。あらゆる思惑が入り乱れるなか整然と食事を進行させる。こうした機能を日本のフランス料理店は持っていたのである。ホテルなだれ込むことしか頭にないカップルに、これほど適した食事はあるまい。
クリスマスのスペシャルメニューを作ることで、客が料理を選ぶ手間もなくなり、特別の料理だと勘違いさせることができるようになった。ホテルへの「助走」として扱いやすさを望む客と、大量に客をさばいて儲けたい店との思惑がここで一致する。
行けるか~! こんな時期のレストランに!!
ちなみに12月24日にどうしてもイタリアンやフレンチが食べたいなら、ランチをお薦めする。通常の料金で、しかもいつも以上にゆっくりと食べられることが多い。戦の始まるのは夜に備え、肩の力を抜いたレストランの雰囲気がけっこう心地よかったりする。(大畑)
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