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2006年12月23日 (土)

『吉原 泡の園』 連載第7回 ボーイたちとの付き合いの始まり

 その当時、僕は分厚い財布を持っていた。ネクタイにYシャツ、それにズボンだと、財布をお尻のポケットに入れると目立つし、邪魔になる。店長はそんな僕の財布を見て、
「100万くらい入っているのか」
 などと聞いてきた。
「いいえ、まさか」
 などと僕がいうと、
「なら財布は持ってくるな」
 となった。ボーイはとにかく動くのが仕事だから、落としたり、邪魔になるからだそうだ。
 また、初日に分かった事だが、下っ端ボーイは、基本的に服、および靴下は黒。だそうだ。理由は簡単明快。
 幹部よりも目立つ格好、かっこいい持ち物はタブーだからだ。つまり、幼執なところがあるのだ。
 僕は財布のほかに、少し派手なめがねと、坊主頭を指摘された。
 極めつけは店長の、
「いいか、ソープランドで働けば、もしかしたら万にひとつでもおいしい思いができるかも、などとは思うなよ。花魁は商品だ。つまり、従業員が商品に手を出すとは、いけねえわな」
 などと説明だった。
 0時、一応店の看板を消し、1日の表向きの営業は終わる。
 0時になるが、何をやっていいか分からない僕は、いわれるまま動き、そしてどうにか店は閉店できた。
 0時すぎると、ボーイは上がりのお客さん待ちと、おんなの子が帰るのを待つ。まずはそれからなのだが、待っている間。マネジャーは表で誰かと電話しているし、Eさんなどは第一待合室でテレビを見ていたりする。
 店長は、僕に食費の2000円を渡し、自宅マンションに帰った。
 食費の2000円は確かにもらえる約束であった。が、もらえたことに先輩方が驚いていた。
 Tさん、Eちゃんさん、Eさん、やさしく手伝ってやれなくてごめん、といってくれた先輩。が、あがりまちのためテレビをみていた。僕も初日ながら、混ぜていただいた。
「どうイッセイ」
などと、初日の感想を聞いてくる人、同じ寮部屋になれなかったな、などと言ってくる人、むっつりしている人、いろんなタイプがボーイにもいるんだなあ、と感じていた。
 僕は英語に興味を抱いていること、そのために、英会話教室との契約をしたことをEさんに話した。するといとも簡単にあっさりと。
「あっそれ無理、そんな時間ないよ、覚えてもらうこともいっぱいあるし」
 僕の英会話教室はそこで潰えた。
 それにしてもEさんはタフな人だな、僕はそう思っていた。自分がEさんの立場で、あんなに怒鳴られたら、気が狂うだろうに。
 が、Eさんがボソッと言った。
「客の前で怒鳴ったらだめなんだ。俺も、本気で熱くなったら、もうこの店こないよ」
聞けば、Eさん、元ヤクザで、近くのマンションから通っているらしい。しかも、奥さんもいれば、一人娘の中学生もいるらしい。
 Rグループのナンバー2の人物が、ボーイとしての経験年数の長さに惚れて、スカウトされて、今のR店にきたのだという。
 客のあがり、部屋の掃除、女の子の対応など、初日で何も知らない僕は、ただ先輩の動きをみていた。
 一通り終わり、僕達ボーイとマネジャーだけが店に残っていた。
「ご苦労さんな、明日もよろしくな、んでな、今日から入ったイッセイだ、おめえ、何か言え」
と最後の立ったままの反省会のようなもので話をふられた。
「今日から働くイッセイです。先輩方の足を引っ張らぬよう、一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします」
 僕がそう言うと、マネジャーが震えるくらい喜んでくれた。
「オッメーいいとこあんじゃん」
そして
「いいか、みんな。こいつはまだ仕事はできねえが、いいとこあっからよ」
 意外な言葉に感動して僕が驚いたのだった。こうして食費2000円をいただき、その後近くの焼肉屋で、初日と言うこともあり、マネジャーがおごってくれた。僕とTさんと3人の宴。が、Tさんの顔色が悪い。
 それにマネジャーもTさんにはなんだか冷たく感じた。知らぬが仏。この世界にいると、諺の真の意味を理解することが、往々にしてあるのであった。(イッセイ遊児)

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コメント

難しいですな!!!人間は。それで仕事に影響がなければすばらしいですね。なかなか上手くわりきれないが。

投稿: スナフキン | 2007年1月 4日 (木) 15時02分

スナフキンさん、明けましておめでとうございます。
 今年一発目のコメントありがとうございます。

投稿: イッセイ遊児 | 2007年1月 6日 (土) 15時16分

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