« きれいごとで「いじめ」は語れない | トップページ | スポーツの取材は怖ろしい »

2006年11月15日 (水)

バイク便に見る「搾取」の図・(&格差本について)

 本屋で新刊のコーナーを歩いてふと思ったのは、ここ2、3年で新しく出版されているもので最も目立つテーマは「格差」なのかなあ、ということだ。
 興味あるテーマだし多く出ていることもあり、見つければできる限り目を通すようにしている。格差本といっても「上」ではなく「下」について書かれたものがほとんどなのだが、内容はホントにピンキリである。
 もちろん、テーマに適した資料が論を進める上で有効な形で提示されているとか、著者の考えがハッキリしていてその内容にも学ぶべきところがたくさんある、という本もある。しかし一方で、ある程度信頼のおける機関が発表しているデータをまとめただけ、というような大学生のレポートみたいな本もある。

 本の著者があるテーマを扱うとき、ノンフィクションであれ何であれ、その著者がテーマとどのくらいの距離にいたか、ということは読者にとってやっぱり重要だ。信頼感、のようなものと言っていいかもしれない。つまり、みのもんたが投資本を書いてもどこか胡散臭さを感じる、ということだろうか。(ちょっと分かりにくいかな?)

 なんだか回りくどいことをつらつら書いてきたが、書店に出回っている格差本を眺めていてふと我に帰ると、意外と“格差を強いられている層”の至近距離から生まれた本は少ないことに気づく。多くが資料読み解き本だからである。
Bike 『搾取される若者たち ~バイク便ライダーは見た!~』(集英社新書)の著者、安部真大によると、社会学では「参与観察」と呼ばれる調査法がこの本では用いられている。(弘文堂の『社会学事典』によると、参与観察は「観察者が被観察者と同じ社会生活に参与して内側からその実態や実情をつぶさに体験しながら観察する方法」とのこと。)
 著者は現在東京大学の博士課程に在籍しているが、同時にバイク便ライダーのアルバイトも行なっている。バイト体験から「参与観察」をもって「不安定な労働生活」の構図を浮き彫りにしようというのが本書。
 読めば明らかになるのだが、どうやらバイク便の職場には実に不思議な構図が形作られているらしい。格差といえば、上の立場の者から下の立場の者への労働強化、規制、管理といった構図が一般的なものとして描かれるかもしれないが、バイク便の職場には、いつの間にかライダー自らをワーカホリック、つまり労働過多な状態に走って行かせる「何か」が漂っているという。著者は、体を壊し多くのライダーが職場を去って行くまでの過程を体験を通じて語り、ライダーをひたすらに走らせるその「何か」に迫ってゆく。
「経営→労働者」といった圧力の関係ではなく、不安定な雇用には「労働者が自ら選んでいった末」の側面があることを、本書で知らされた。また、文章の上手さと論の展開の巧みさに感心した、という点でもオススメ。(宮崎)

|

« きれいごとで「いじめ」は語れない | トップページ | スポーツの取材は怖ろしい »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122338/12692094

この記事へのトラックバック一覧です: バイク便に見る「搾取」の図・(&格差本について):

» バイク便とは [バイク便は便利]
バイク便とは、大都市内での小規模輸送形態の一つです。 バイク便という名のとおり、バイクを使って輸送します。 バイク便は、特に東京や大阪など大都市内や周辺の渋滞の多い地域で、当日中(数時間以内)という配送・配達に多く用いられます。... [続きを読む]

受信: 2006年12月 1日 (金) 00時16分

« きれいごとで「いじめ」は語れない | トップページ | スポーツの取材は怖ろしい »