『吉原 泡の園』 連載第1回 「イッセイ、吉原入り」
■ 今週からは、物書きを目指すものの借金だけが膨れ上がるどん底生活を送っていたイッセイ遊児(關一星改め)が吉原の一員となり、目を凝らし、耳を澄まして吉原ソープ街を観察した記録をお送りする。
吉原について書かれたものはあるが、底辺のボーイとして働いていた立場から書かれたものはほとんどない。これはボーイから見た実録・吉原記なのである。(編集部)
* * *
「テメェ!! どういう了見してんだー」
鬼の形相で怒鳴りちらし、誰もが見ザル、聞かザル、言わザルになる。吉原ソープランドで働く男達の話である。怒鳴りちらすのは、鬼マネージャーのKである。
総額6万5千円の高級ソープランドでの、夢のような生活も、初日からマネージャーが打ち砕く。辞めるに辞められない日々の始まりである。
その日は 今にも雨が降って来そうな天気だった。JR西船橋駅北口から近い場所にある木造二階建てのアパートの二階が、事務所兼寮になっていた。高速道路、および一般道のガードマンの仕事をやりながら借金を返済する毎日だった。 汚い男達が、小さな寮の中で生活を共にする。絶望に発狂している者、女のことばかり考えている若者、歌手を目指しているフリーター、そして僕のように借金まみれのやつ。
そこは、世の中で切り捨てられ、相手にもされない者の集団だった。
昼も夜も働く、雨の中、夏場、危険な高速道路上で。働いても働いても借金は減らない。まわりの人間は、もう希望すら捨てている連中だ。
僕はといえば、借金まみれに嫌気が差し、あることで知り合いになった吉原ソープ店のマネージャーに電話をしていた。もう、この仕事をやっていく気力を失くしたのだ。毎日がバカバカしくなっていた。
仕事先の寮は2人部屋で、一人部屋がほしいと思った。当時2002年だった頃の僕は、そんなプライバシーすら主張することも許されない身分にまで落ち、すさんだ生活を送っていた。
悲しすぎた。これでも昔は一人っ子で甘えてきた身だったので尚更だ。
世の中の、冷たさ、怖さを嫌というほど知った。働いていた人達は、そんな社会に喰い潰されることに、怒りも感じないのか、それとも、諦めの境地でいるのか、笑っている。そんな連中と同じで良いのか、嫌だ!ふつふつとこみあげる怒りが僕に、G店に電話をかけさせた。求人を尋ねると、話しを聞いても良いという。
どうせ落ちた社会に身を置くならば、最低辺を見てみたい。そんな気持ちも、僕の背中を押した。G店の紹介で、姉妹店のR店に面接を受けに行くことになった。
数日後、その男と出会った。今まで見て来たどのタイプの人間とも違うオーラが漂い、パンチパーマの頭髪は緑に輝く。
「ほー、んで、いつから働けんの」
面接中も喧嘩腰で聞いてくる。目つきが違う。面接中、その店のボーイがオレンジジュースを持ってきた。“ワル”そうだが、いい人にも見える。完全にガードマンの仕事と、借金返済と、世の中が嫌になっていた僕は。
「すぐにでも働きたいです。そうですね来週くらいから…」
もうどうにでもなれ、投身自殺するような思いで、日本一の吉原ソープで働くことになった。(イッセイ遊児)
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コメント
パンチパーマは苦手です。
投稿: スナフキン | 2006年11月25日 (土) 16時27分
スナフキンさん、パンチパーマは苦手ですか。う~ん、意外と金もかかるし、見た目もなんとなく怖くなるんですよね。ちなみに僕はスポーツ刈りです。
投稿: イッセイ | 2006年11月26日 (日) 12時23分