『吉原 泡の園』 第1回 「激動の現在」
これから毎週土曜日にはソープ街・吉原でボーイとして働いていた關一星(せき・いっせい)のルポ『吉原・泡の園』を掲載する。
本連載では、日本一のソープ街・吉原という場所の現在と、そこで糧を得て生活する人々を描いてゆく。
* * *
ソープ街の今を見るために吉原に舞い戻ってきた。ボーイ時代だった時から、約3年の月日が流れ、都条例も変わり、風俗店の景気はさらに悪化している。この日、本降りの雨の中取材すべくペダルをこいで吉原に来た。
23時過ぎの平日。メ―ンストリートですらポツポツとネオンの消えた店が目立つ。不景気で店が潰れ、受け取り手のいない建物に明かりがないのだ。寂しさはそれだけではない。吉原名物の呼びこみ(どうですか~お客様と叫ぶ)が都条例で禁止になったため、僕が自転車でボーイの前を通ろうとも素っ気無い。
石原都知事は東京でのオリンピックを目指し、そのための一環として風俗店激減作戦を目論んでいる。そして、吉原も今ある店を半分まで減らしたい。これは風俗業界で働く人間の間ではよく知られている。いやはや、世も末か。
気を取りなおして僕が住んでいた寮(パチンコ屋の2階と3階)に潜入してみた。
階段のところには大量の手紙が山積みされている。ほとんどが借金の督促などだ。ボーイの多くは、借金苦でここに転がり込んでくるということの証である。何気に手紙を何枚か手に取ると、僕あてに闇金業者から融資内容の手紙がそのまま放置されている。
久々に寮を覗いてみると、マネジャーと先輩Tさんがいた部屋のドアが見えた。相変わらず汚い。ドアには無数のナイフ痕が見える。
マネジャーだった人が、仕事の憂さを晴らすために、包丁や刃物類などでドアにつけた無数の傷が、未だにそのままありゾットした。それを写真に撮っていたのだが、見つかったら暴行されるかもしれない。
それにしても、よくここで生活を耐えたもんだと思いながら、カメラに収めたらすぐにそこを後にした。
僕のいた店の裏口にはゴミが捨ててあり、それを求めるホームレスも0時過ぎになると吉原に集まる。ただ、今日は大雨のため、近くの商店街のアーケードのしたで大勢のホームレスが寝ていた。雨の日は空腹を耐えるしかないのだろうか。
0時00分。雨がかなり強く降っている。一斉に店のネオンが消えた。表の小さな看板も片付けられた。不景気のせいだろうか、以前はタクシー渋滞がすごかった吉原も、それほどの渋滞にはならないし、帰るべく女のコも少ない。店もそんなに在籍のコを抱えていないのかもしれない。0時を過ぎてもまだまだ忙しかった当時の様子とはかなり違うものになっていた。
ボーイと花魁のオアシスである焼き肉屋Tも、0時を過ぎてもぞろぞろと向かうものも少なく、ここにもグローバリゼーションの波が押し寄せているのかといった所だ。
吉原で唯一元気だったのはコンビニだけだ。今までの文化、歴史、伝統がすたれ、近代的なコンビニは女のコとボーイとでごった返しにぎやかさがある。情報喫茶も0時前の時点で何軒も電気が消えている店もあったのには驚いた。飲食店は21時頃終わる、それは以前と変わらなかった。ただ、情報喫茶も休んでいる所や、潰れてなくなっている店もあり、閑古鳥が鳴いているという噂は本当だった。僕のいたR店の系列も、1店舗なくなっていた。
当時の鬼と称されたマネジャーの影もない様子で、もしかしたらもういないのかもしれないとネオンの消えたR店の正面玄関に行ってみてまたまた驚いた。
先月号の「記録」にも書いたKちゃんが、ダメダメボーイが、な、なんとR店の責任者として正面玄関横にある保健所の許可証のシールと屋号のシールの脇に貼ってあった。
一緒に寝起きしたダメボーイKちゃんが、一国一城の主、つまり社長になっていた。
今は不景気だから給料も大したことはないかもしれないが、かなり貰っている可能性もなくはない。雇われとはいえ社長なのだ。天下人なのだ。社長が法律なのだ。やりたい放題それがここのルールだ。
姉妹店の責任者を見て回った。ほとんど知っている名前だった。3年のうちに、みんな大出世したのだ。景気がよくなれば、給料は確実にすごいことになる。マネジャーだった人の名前は、どこの店にもなかった。もういないのだろうか。0時過ぎはポン引きが街の主役になる。店の主はポン引き屋に仕事を委ねて客を待つ。景気は悪くとも、あの手この手でどっこい生きている。それが吉原の住人なのだろう。それだけは今も昔も変わらない。(關一星)
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コメント
どこの世界も変わらず時間が流れている。変わらない様で変わって行く。守る事も大事だが、新しい事も大切だ。解っているが難しい。
投稿: スナフキン | 2006年10月15日 (日) 16時23分