法務大臣の重み
安倍晋三新内閣で長勢甚遠衆議院議員が法務大臣に就いた。初入閣で「待望組」の1人である。
このところの法相は初入閣組が多い。二代前の南野知惠子法相などは失言以前の無能答弁を繰り返す失態を演じた。明らかに法相には不適格だった。
このように、かつて建制順トップだった法相の重みが近年とみに失われている。
ちなみに2001年の省庁再編後はトップの座を総務大臣に譲った。この変更を国家行政組織法改正案を見てゾクッとした記憶がある。総務省が序列1位になるというのは旧内務省の復活という意味かと。もっとも国家公安委員会が現在は別にあるから戦前とイコールではないのだが。
本題に戻ろう。それでも建制順2位を維持しているにも関わらず法相は軽い職に墜ちた。では法務省の権威は失墜したかというととんでもない。相変わらず検察を含み大臣は検察への指揮権を持つ。三権の一角である裁判所との連絡役を果たしている。住民基本台帳、入国管理、外局の公安調査庁など強大な権限を有する上に人権擁護法案など重要法案をも抱えている。法相には死刑執行の権限もある。
省庁再編以前の建制順ワンツーであった法務、外務はキャリアを国家公務員1種(旧上級)試験からではなく独自の試験で採用した。これも特権的地位を背景としよう。うち外務省の外交官試験は廃止されたから法務省は国1ではない試験(司法試験)でキャリアとなれる唯一の省庁となった。
また省庁の事務方(官僚)のトップは官房副長官を除けば事務次官が決まりであるが法務、外務だけは違う。外務省は事務次官の上に主要国および国連の大使職がある。
法務省は事務次官より先に最高検察庁次長→大阪高等検察長検事長→東京高等検察長検事長→検事総長という道のりがある。つまり事務次官は5番目となる。ただし人事権はあるので他の省庁における官房長みたいな地位だ。さらに退官後も弁護士として在野で有力な社会的地位を業務独占できる。
刑事裁判で検察官は事実上司法の一員といっていい。法務省は行政組織でありながら司法にもからむ強大な権限を持っている。現在も司法制度改革や前述の人権擁護法案など権限強化の方策を絶えず模索している。だからこその建制順トップだったわけだ。
法務省の源流である戦前の司法省は有力司法官僚の平沼騏一郎が大臣を文官任用令上の親任官に格上げし、裁判所を監督した。それ以来の悪くいえば事大主義は法務官僚に脈々と受け継がれている。
法務省が持つ強大な権力に配慮してか戦後の歴代内閣は法相に有力政治家を置くか、逆に参議院や民間人を据えて行政の介入と取られないようバランスを取ってきた。
田中角栄がロッキード事件後に「闇将軍」となってからは田中派からの登用が目立ち司法への介入が常に心配された。それほどの要職なのである。しばしば副総理格にさえ擬せられた。
ならば今日の軽量化は何を指すのであろうか。行政とくに内閣が法務行政にくちばしを入れないとのサインと読めば読める。だが一方では軽い法相ならば容易に官邸あるいは与党の介入を許してしまうともいえる。事実としてそうであろう。
あるいはこうとも取れる。前職の杉浦正健法相は微罪逮捕の問題に触れたり死刑を執行しなかったりと法務官僚の意図を逆なでする発言が目立ったが、それを問題視する風潮があったこと自体が法務省の絶大な権限の裏返しであると。すなわち軽量大臣だと法務官僚の意向を制約することができずに下手すればなすがままにされてしまうという危険があるのだ。
マスコミはこうした法相軽量化の危機を何も論じない。理由は不明である。まさか問題と感じていないはずもないだろうに。(編集長)
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