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2006年9月19日 (火)

近衛文麿と安倍晋三

「誰の意見も聞かずに決断する」と称された東条英機と小泉純一郎首相は似ている。両者の相似を指摘した人は多いが「近衛文麿と安倍晋三」はどうだろう。
まもなく小泉政権から安倍政権へと替わる。首相としての順番は近衛文麿の後が東条英機なので逆であるが戦前の近衛人気と安倍晋三氏の類似は興味ある検討対象だ。
近衛は2度首相になっている。なお2度目は総辞職後再び首相となったので、ここでは1回と数える。
まず近衛も晋三氏も名門の坊ちゃんである。近衛家は北家藤原氏の筆頭だから岸・安倍家も真っ青だが庶民から遠く離れた存在であるには変わりない。「さわやか風で若い」のが売りなのも同じ。要するにノホホンと暮らせた家柄なのに陰謀渦巻く政界に身を投じて国粋的スタンスで世間的な人気を勝ち得たのも共通する。
安倍氏が北朝鮮への遠慮からやっかいものにされてきた拉致問題をクローズアップさせてアッといわせたのと同様に近衛は日英同盟を軍事的支柱としていた時代にあえて英米が叩いたドイツに同情し「英米本位の平和主義を排す」という論文を『日本及日本人』に発表して民草の度肝を抜いた。その内容が実に興味深い。

近衛文麿は言う。「現状維持を便利とする国は平和を叫び、現状破壊を便利とする国は戦争を唱う。平和主義なる故に必ずしも正義人道に叶うに非ず、軍国主義なる故に必ずしも正義人道に反するに非ず」。どうです? ゾッとしませんか。ほぼ似たような発言を安倍晋三氏がして違和感があるか。というか一部はすでに発言済みではないか。

民族主義的、国粋的なタイプは悪くすると民草には野蛮で陰惨に映る。そこで近衛や安倍氏のようなボンボンが物好きにもメンタリティーを共有してくれるとここぞとばかりに祭り上げる。この辺は単なる暴力集団だった発生期の武士団が棟梁に貴種である清和源氏や桓武平氏をいただいた頃から変わらない。最近は指定暴力団でさえ大親分はインテリをすえる。
ただし権力を握る前の近衛と安倍氏が似ているのはどうってことでもない。問題は安倍首相誕生後に近衛的に振る舞ったらどうなるかである。
第1次近衛文麿内閣が手がけたのは1937年の国民精神総動員運動であった。「国民」の「精神」を聖戦完遂のために「総動員」しようという。まず心の問題から手がけた。安倍氏は最優先課題に教育基本法改正を挙げる。どちらも民草にはどうでもいいような話だが貴種はまず我々の「低レベル」な気持ちのありようから入りたいらしい。
続いて近衛は38年に国家総動員法を制定した。有事に「人的及物的資源ヲ統制運用スル」には「勅令ノ定ムル所ニ依」ればいい。つまり議会の承認はいらない。「人的及物的資源」以外の資源なぞ世にないわけで同法はナチスの授権法同様の事実上の憲法改正(ないしは否定)だ。安倍氏が大目標に憲法改正を掲げているのは改めて書くまでもない。

対外的には蘆溝橋事件が勃発した。この日中衝突自体は必ずしも日本側に非があると断言はできないが近衛は当初は「自分は出兵には絶対に反対だ」と閣議で発言しておきながら〔原田熊雄述『西園寺公と政局 第六巻』(岩波書店刊)29ページ〕陸軍の独走を傍観して、やったことといえば宮崎隆介という一介の弁護士を日中仲介の「密使」(宮崎証言)として派遣し、それを原田にただされたところ「宮崎よりほか人がないのだ」と告白している〔同51ページ〕。揚げ句は昭和天皇に「一体軍の作戦なりなんなりについて、何もきいてをりません。為すがままにただ見てをるより仕方がありません」と「愚痴」すらこぼしている〔同138ページ〕。
国家の大事に私的な民間人しか頼れず傍観していると天皇にグチっている首相では何もなるまい。
安倍氏もそこが心配である。彼を嫌う人は好戦的姿勢を問題視するが本質はむしろそれであおられて何らかの衝突が近隣と起こった際に公的な組織を指揮して沈静化できる人物かという点にないか。安倍氏もまた「為すがままにただ見てをるより仕方がありません」と言いそうである。近衛は西園寺公望は頼っていたようだが安倍における西園寺はせいぜい森喜朗前首相ぐらい。森氏を西園寺公と比較したら西園寺は怒るだろうが……。

二度目の組閣では暗に嫌いながらも強面の松岡洋右の進めるままに日独伊三国同盟と日ソ中立条約の締結をこれまた拱手した。ところが独ソが開戦して両条約は並び立たない意味不明となり、といってアメリカとも交渉しと八方美人の支離滅裂を極めた。
安倍さん。あなた自身が属性としてしきりと挙げるので言わしてもらうが、あなたの尊敬する祖父の岸信介も「八方岸」とあだ名されてましたよね。あなたはその八方美人のDNAも受け継いでいるでしょう!
総裁選の討論を聞いていると早くもムニャムニャの素質を発揮している。

太平洋戦争を決断したのは東条だったが、それはハル・ノートに日独伊三国同盟の死文化要求があったのが大きい。正式に結んだ軍事同盟を無造作に破棄できないのは国家の常識で故に東条はハル・ノートを最後通牒とみなすしかなかった。

確かに東条は悪い。だが彼の最悪の決断に至る道筋の過程には近衛の優柔不断があった。平時には戦闘的なファイティングポーズを気取り、それをかつぎ、それにあおられた勢力が事を構えるや八方美人に陥る。打開する公的人脈も経験も運営能力も弱い。それを隠すために時にいわずもがなの強硬論をぶって事態をさらに悪化させる。その意味で近衛は東条より悪い。
次期首相がそうでないと祈るような気持ちだが符丁は合って合って仕方ない。(編集長)

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コメント

安倍の北朝に対するポーズも、近衛の「爾後国民政府を対手とせず」と言ってしまうようなメンタリティーとの近さを感じますな。
優柔不断の反動と勇ましさの誇示ゆえの「あ、言っちゃてるよ」ってやつ。
「役者」の違いから蒋介石にホントに相手にされなくなって、手詰まり外交の陥った轍を踏みそうな予感。将軍サマ相手に。

投稿: 192.168.1.774 | 2006年9月26日 (火) 00時27分

まさか、クレヨンしんちゃんが健康問題を持ち出してくるとは・・・

時代を超えた双生児かもしれませんね

投稿: 中本営発表 | 2007年9月12日 (水) 21時41分

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» 駆け出し運命鑑定士の勝手に四柱推命館!! [安倍晋三さまの運命は?]
こんにちは。安倍晋三さまの運命鑑定をしてみました!!はたしてその運命は!?ぜひご訪問ください。ご覧いただけるとほんとにうれしいです(^^・・。もし必要なければお手数ですが削除してください。失礼いたしました。 [続きを読む]

受信: 2006年9月20日 (水) 09時40分

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