亀田に怒った具志堅用高の真意
ライトフライ級王者となった亀田興毅選手への批判が渦巻いている。ハッキリとは書かないが、各紙とも八百長試合だといわんばかりである。
まあ、たしかにそうだろう。初回にダウン、11、12ラウンドは打たれてヘロヘロになり、どうにかクリンチで逃れたボクサーが判定で勝っちゃまずい。
一番問題とされているのが、最終12ラウンドの判定だ。パナマとフランスのジャッジが対戦相手のランダエタにポイントを付けたのに、韓国のジャッジだけが亀田選手のポイントとした。もし彼がほかの2人と同様の採点をしたら引き分けだったから、「怪しい」と勘ぐりたくもなる。
しかも亀田選手にまつわる「疑惑」はこれだけではない。
そもそも彼の階級はフライ級、前チャンプがタイトルを返上したため急遽階級を下げて挑んだ試合だった。ところが闘ったことすらないライトフライ級の順位は2位。一方、階級を1つ上げて挑戦したランダエタも実績のないライトフライ級で1位。いったい何を基準にライトフライ級の順位を決めたのだろうか? いや、そもそも亀田選手のフライ級の順位でさえ、1回も日本人と闘わずにつくりあげたのだが……
そのうえ今回の世界戦を放映したTBSはレコード大賞を大晦日から30日に移し、亀田選手の防衛戦を放映する計画まで事前に明らかにしていた。世界戦を放映するためには今回のタイトル戦で勝たなければならない。結果もわからないうちから放送予定の変更まで漏らしていいのか、と他人事ながら心配になってしまった。
あの試合内容に追加して、これだけの事実がわかれば心証真っ黒である。じつはネット上では、試合前から怪しい判定試合になると予想する向きもあった。弱い外国人とだけ当てて順位を上げ、階級の無理な変更などを見て「やるぞ」と感じていた人がいるわけだ。
さらに興味深いのは、今年6月末に元ライトフライ級王者の具志堅用高氏が『毎日新聞』の取材で亀田選手のことをボロクソにこき下ろしたことである。
「我々もとボクサーや現役選手で、彼を本当に強いと思っている人がどれだけいるだろうか」
「日本選手と戦わず、本来のフライ級はWBA、WBCとも王者が強いこともあり、1階級下げて空位の王座決定戦に出る。金をかければ、そんなに簡単に世界挑戦できるのか」
どれも強烈なコメントだ。問題は、彼が会長を務めるジムのプロモートなどを請け負い、自身が選手時代に所属していた協栄ジムの選手に、どうしてこれだけの批判を浴びせたのかである。具志堅氏のインタビュー記事が掲載された翌日、協栄ジムの会長は「具志堅氏から謝罪がない限り、今後は試合を組むなどジム同士の交流を停止する」と発言した。大手の協栄ジムがプロモートを取りやめる影響は少なくない。そんなことは具志堅氏も発言する前からわかっていたはずだ。
だが、どうしても言わずにはいられなかったのだろう。
ただ「僕は亀田君のために厳しいことを言っている」とも氏は語っているが果たしてそうか。
ここで思い出すのが、協栄ジム前会長が具志堅氏の防衛戦相手に仕掛けたとされる事件だ。あろうことか薬物を混入したオレンジを相手に与えたという。このスクープでマスコミの取材を受けた具志堅氏は、「そんな話は知らなかった。試合前のボクサーはそんな策をろうす余裕などない」というような趣旨の発言をしたように記憶する。
たしかにそうだろう。
激しい練習と減量のさなかに、毒入りオレンジを相手に渡す余裕などない。だいたい13回もの防衛に成功した具志堅氏は策をろうするまでもないほど、圧倒的な強さを誇っていた。
つまり毒入りオレンジはジム側が選手に黙って仕掛けた可能性が高い。1つの「保険」として。
ボクシングほど「一敗」の重いスポーツはない。
王座陥落、あるいは王座への挑戦失敗となると、必ずといっていいほど選手は引退を問われる。チャンピオンに負けたとしても、オリンピック風に考えれば銀メダルなのにである。
だからジムとしては「保険」がほしくなる。
こうした協栄ジムの「保険構造体質」を熟知していた具志堅氏が、協栄ジムに向けて警告を発したと考えるのはうがち過ぎだろうか?
世界戦の前から盛り上がっていた人気。後に続く兄弟の先陣としての役割。初の世界戦に2時間半もの枠をTBSに用意させた注目度。
金のなる木である亀田興毅選手を絶対に枯らせてはいけないというジムの方針こそ、彼は批判したかったのではなかろうか。
自分のまったく知らないところで「保険」がかけられ、その疑惑によって自分の戦歴が傷ついた経験を持つだけに、姑息な手段が許せなかったとも考えられる。
「強い選手とやって負けたっていいじゃないか。経験を積んで強くなる。でも、テレビの視聴率のためには、そうはいかないのだろう」と語る具志堅氏の言葉は重い。
★最新の記事は「亀田一家とマイク・タイソンの微妙な関係」です。
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