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2006年7月 7日 (金)

テポドン発射と自民党国防族の反応

 北朝鮮のミサイル発射問題の記事を読んでいて、オヤっと思った。
 7月6日付『毎日新聞』によれば、「石破茂元防衛庁長官は『強硬姿勢は、それによって起こり得るあらゆる事態を想定し、国民に犠牲を生じない態勢を整えてから行うべきだ。武力攻撃事態もあり得ることを念頭に置くなど、リスク回避策を十分に講じないと重大な結果を招きかねない』との持論を展開した」という。自民党内で強硬論が吹き荒れているなかで、である。

 おいおい、本当か!? 目を疑った。

 石破議員といえば軍事オタクとしても有名で、風呂でイージス艦を浮かべて遊んでいるという噂まで報道された人物でもある。自民党の防衛族の中心的な人物でもあり、防衛庁長官時代にはミサイル防衛システム導入のために予算増額を強硬に主張した。さらに「専守防衛」と「集団的自衛権の不行使」を真っ向から批判する「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」などにも所属していた。
 つまり、これまでは北朝鮮の脅威を利用して防衛力強化に躍起になってきた人物ともいえる。

 どうして??? と思って、ミサイル発射以降の自民党防衛族のコメントを調べてみた。すると久間章生総務会長が「(経済制裁の必要は)別にないんじゃないかと思う。実験をしたんだと思う。日本を狙ったわけでもないし」と語っているではないか。久間議員といえば、ミサイル防衛と武器輸出三原則の撤廃に力を入れていた人物なのに……。強硬論が党内で渦巻いている状況なのだから、その「上げ潮」を利用して一気に「実力行使」を主張しそうなものだが、どうも事は簡単ではないらしい。
 
 問題は、なぜこのような慎重な発言が防衛族から出されているかだろう。利権を考えたら、かえって平和の方がいいのだろうよ、とうがった見方もあろう。しかし、こういった状況で政治家が慎重姿勢を出すのは勇気がいる。多くの国民が怒りを持って事件を見つめているなか、国防に強いはずの議員がどうして弱腰なのかという批判を受ける可能性があるからだ。タカ派的な発言を続け、それが評価されてきた場合は当然反発も強まる。
 国会議員は選挙が命。選挙民からどう評価されるかは大いに気になっているはず。そう考えるとリスクを取ってまで慎重な発言をする真意は案外まじめなものではないかと思う。

「ある防衛庁幹部は『極度の緊張が続き、部隊にもやや疲れが見えている。北朝鮮との我慢比べなのかもしれない』と話していた」(『朝日新聞』7月5日)
 同記事によれば、北朝鮮のミサイル監視は5月から続いていたという。たかが2ヶ月。だが、これは演習ではない。実戦の緊張感をともなった2ヶ月である。現場の自衛隊員に疲れが見えるのは当然だろう。

 かつて私は戦場報道に憧れていた。本誌でも連載をしていただいた石川文洋さんや、沢田教一さんのベトナム戦争時代の話はえらくカッコイイ。いつか経験したいもんだな、と漠然と考えていた。しかし、そんな感想は現場にいない者の感想であることを後に知った。
 すでに国連軍が駐留して治安が回復していたコソヴォでさえ、草むらに入ったときに通訳兼ガイドから「まだ地雷の可能性がありますから気をつけてください」と真顔で言われ膝がガクガク震えた。
 空爆された建物を撮影するために立ち入り禁止の札を無視して入ったとき、「ストップ」という声とともに兵士から銃を向けられ体が固まった。おそらく彼らは銃を撃つ気などなかったはずだ。ただの威嚇。それでも日常より死が一気に目前迫ってきた感じがして、泣きたいほど怖くなったのだ。
 
 いつ来るかわからないロケットのために、打ち落とせるかわからないシステムを導入する話など、しょせんは空騒ぎ。いくらでも推進することができる。しかし実際に死を目の前にした兵士がいて、その人たちの命運を握っている実感がわいてくると軽率な判断はできなくなる。
 イラク戦争のとき、元軍人でもあったパウエル国務長官が戦争に慎重姿勢を示したとして話題になった。戦場を知っているだけに軽々に出撃命令など出せないのだろうと。もちろんネオコンとの権力争いのさなかだっただけに、そんな理由だけで慎重路線を主張したわけではあるまい。しかし現場を知る者の慎重姿勢は貴重である。
 石破議員や久間議員がパウエルと同じとは思わない。2人とも実戦経験があるわけでもない。ただ防衛庁を通じて実戦の緊迫感を知り、それゆえ慎重な発言をしているなら耳を傾ける必要がある。
 戦争の発端となるような行動を軽々に起こすべきではない。まして国の方針を決める国会議員が自身の怒りや人気取りのために対抗処置を講じるのは最悪だ。

 確かに北朝鮮のミサイル発射行為は愚かすぎる。いきなり7発も撃つなど正気の沙汰とも思えない。ただミサイルの方向を、日本というよりロシアに向けるなど、日米を刺激したくないギリギリの「理性」は感じられる(ような気がする)。そして何より日本国民はこの状況に恐怖していない。それは平和ボケというより、北朝鮮の威嚇ポーズを見抜いているからだろう。

 先日、友人から「天才バカボン」の替え歌「人災テポドン」を教えてもらった。

西から昇った爆弾が、東へ沈む。
それでいいのだ~、それでいいのだ~。
人災テポドン、テポドンドン♪

 正直、けっこう気に入っている! 不謹慎だと怒るなかれ。こうした国民の余裕はきわめて重要なのだ。政治家も沸騰した世論に押されることなく、判断を下すことができる。だからマスコミも政治家も国民を煽ってはいけない。(大畑)

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コメント

>>ただミサイルの方向を、日本というよりロシアに向けるなど、日米を刺激したくないギリギリの「理性」は感じられる(ような気がする)。そして何より日本国民はこの状況に恐怖していない。それは平和ボケというより、北朝鮮の威嚇ポーズを見抜いているからだろう。

ミサイルの方向・・・というより、着弾点がロシア寄りなのは、北朝鮮の冷静な判断による結果だと思います。(これはどこかのTV解説の受け売りですが)

第1の理由は着弾点付近の海底深度が深いこと。威嚇とは言えミサイルは実物ですから、技術解析のためにアメリカや日本に残骸を回収されては困るのです。

第2の理由はロシアの領海内であること。上記と同じ理由ですが、物理的にではなく政治的に回収しにくい場所に落としたのです。

第3の理由はこの方角に撃っているのに「日本に向けた」と抗議するのは世界各国の共感が得られないこと。(ロシアに怒られたらそれまでですがね)
テポドン2だって、このまま飛んでいけばハワイに到達するという推理は的外れではありませんが、日本海すら越えていないのでは、アメリカに向けて発射したと言って抗議するには不十分です。
政府もこの点は分かっているようで「共同宣言違反だ」「核弾頭を装備出来るミサイルの実験には抗議する」という理由で、経済制裁を実施しています。「日本に向けて撃たれたから」とは言ってませんね。

ただ、威嚇であるとは言え、特に日本海側の国民が「この状況に恐怖していない」とは言い切れないと思います。(私は恐怖していない側の人間ですが、太平洋側に住んでいるからだと思います)

現実問題として、両国の距離が近過ぎるために発射されたミサイルを迎撃する手段がない以上、また北朝鮮側の地域に住んでいる以上、7発もミサイルを発射する状況に対し恐怖を感じて当たり前です。

私は、経済制裁などの対応が早かったことを、また国連決議に持ち込もうとしていることを評価したいと思います。

どこかのTVで「これで日本の軍備が拡大される」と懸念を表する平和ボケコメンテイターがいましたが、こういう人がTVに出て発言している今の状況の方が、ミサイルより恐ろしい(笑)

投稿: ベル | 2006年7月10日 (月) 15時16分

ベル 様

的確なコメントをありがとうございます。
お返しがすっかり遅くなってすみません。
コメントを読ませていただき、
改めて自分が何を恐れているのか考えました。

おそらく感情にはしる政治家への不信が
「恐れ」になっているのだろうと思います。
強攻策の結果も視野に入れているのだろうな、と。

ユーゴの取材で学んだことが1つあります。
それが本当に怖いのは民族主義者ではなく、
民族主義者のお面を被った利益誘導型の政治家だということです。
耳障りの良いセリフで煽る政治家は、
最悪のケースを想定していない。
ただ熱狂をつくり出すのがウマイだけ。
そのため事態の悪化に対応すらできないんですね。

まあ、つまり政治家を信じられないということですか(笑)

一般国民が今回の日本政府の対応を、
どう判断してもいいと思っています。
ただ、できるならばベルさんのような冷静さがほしい。
コメントをいただいて改めて、そう感じました。
ありがとうございました。


投稿: 大畑 | 2006年7月13日 (木) 18時08分

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