村上世彰逮捕に三度タイガースを想う
村上世彰。ついに姓名ともに書いた。私の記事なぞ物の数ではないが、それでさえフルネームを書くのは汚れるとずっと「村上某」としてきた。ファーストネームを記したは彼が逮捕された記念である。東京地検特捜部も嫌いだが今回はその名を刻して長く栄誉をたたえたい。
それにしてもだ。特捜の任意での事情聴取を当初拒んだり、シンガポールにフライトしたり、聴取応諾後の出国を示唆したりと、そういうことをやると及び腰の特捜もにわかにトサカにきて一族郎党一網打尽にパクってくるとの常識を私でさえ知っているのに、東大→旧通産官僚→物言う株主(笑)のエリートコースを歩んだ某が知らなかったとわな、
しかも聴取自体ではインサイダー取引をあっさり歌っているんだから世話はない。その上に妙な記者会見まで開いてさ。ほらほらトサカがどんどん赤くなっていく。
その某に関しては後に感想を略記するとして私がつくづく感心したのは以前の記事(http://gekkankiroku.cocolog-nifty.com/edit/2006/05/post_fadc.html)に書いた阪神電鉄の「不動の経営」「進化しないという進化」がついに某の切っ先を免れたという事実である。電鉄幹部はほっと胸をなで下ろしているだろう。慶賀に堪えない。
・・・・おっとっと。あやうく「不動の経営」のレトリックにはまるところだった。某云々を除いて事実関係だけを書くと以下の通り
100年来の敵である阪急に買収されて子会社になるのが決定的になった
こっ、これって大失態だよね。「ほっと胸をなで下ろ」すどころか経営者一同切腹ものの事態なのだ。地下に眠る○○が聞いたら化けて出てきて経営陣を憑き殺してもおかしくない。
で、またもや「すごい」話だが、阪神電鉄100年有余で上記の「○○」に該当する人名がどうしても出てこない。阪急の小林一三みたいに。だからホッとしたりできるのだ。脈々と続く「進化しないという進化」経営は「まあ阪神の名前が残るならいいか」である。よくないんだって!本当は。
そもそも阪神タイガースの前身である大阪タイガースは1935年の日本職業(プロ)野球スタート時からの生き残りであるが読売の正力松太郎はいわずもがな、阪急の小林一三、死人の雁首を取るのに遺影を拝借したとの逸話もある国民新聞敏腕記者出身の鈴木龍二、「有馬記念」で有名な有馬頼寧伯爵、「田村駒」の愛称で知られる田村駒治郎など経営側にきら星のごとき名前が並ぶ中で阪神電鉄の経営者の名前は、この時代を最も深く描写している大和球士の著作にもほとんで出てこない。
戦後も大映の永田雅一など名物オーナーが情熱を注ぐ例があるが阪神には見当たらない。あったとすれば一種の日和見である。阪神電鉄は戦前の1リーグ時代、巨人よりも小林一三の阪急球団を目の敵にしていたが巨人戦が人気を博したので次第にそちらにウエートをかけた。
1949年からくすぶり出して50年に実現するセパ2リーグ制でも阪神電鉄は日和見を決め込み、味方と勘違いしていた毎日新聞を最後は裏切り・・・・といっても電鉄幹部には裏切ったという当事者意識もなかったであろうが、頭に来た毎日球団にタイガースの主力がゴッソリ引き抜かれる失態も演じている。
対する阪急HDは某と水際立ったケンカをした。まず某の阪神電鉄株買い付け価格1200円というあり得ない高価に対して800円と、これまたあり得ない安価を示した。まずはお互いに思い切り殴り合ってケンカは始めるものだ。一方で様子を見てTOBを市場価格すれすれの930円に置いた。
市場はここを叩き台に900円台後半まで阪急HDは譲り、さらに阪神の特別配当を加えれば某の顔が立つとみていたが捜査の進展をみて一転「びた一文譲らない」と来た。阪神には決してできない芸当である。
ある意味で某は「進化しないという進化」とは対極の「進化が止まらず過剰適応」で自滅したといえよう。1億9000万株(非常識)もの電鉄株を買い集め、1000億円(非常識)47%(非常識)まで買い向かい、村上ファンドが買うから株価が上がるという自作自演(非常識)をもってし、それを実勢として1200円の買い付け価格(非常識)を要求する。
しかも資金はこのゼロ金利下で2割・3割の利潤を投資家に約束(非常識)してかき集めた他人の金(非常識)である。その過程ですぐウソとわかる「私はタイガースファン」と公言(非常識)したりとごまかし、ハッタリの限りを尽くして何だかだといって仕入れ値より230円ほど高い、つまり大もうけをTOBで果たすは果たす(非常識)のである。
長々と書いた某の非常識に対して阪神電鉄の対応は「無」の一字で終わり。やっぱすごいわ。
過剰適応というのは某が5日の無意味な会見で「それ行け、やれ行け、ニッポン放送だというのを聞いてしまったと。聞いたと言われれば聞いてしまっている」と語ったのは真実だと確信するから。非常識が常識になっていた某は「聞いてしまっている」のに売ってしまった。激しく環境に適応した生命体は、それゆえに次のわずかな環境の変化で滅びるという。聞いたらインサイダーでしょうよと某は頭でわかっていた。でも、もうどうにも止まらないのだ。
逆に阪神電鉄は何かしないといけないと頭でわかっていた。でも、もうどうにも止まるのだ。相性悪すぎたね村上さん。
いずれにせよ某が経営者になっていればリストラだ経営改善だなどとできもしない題目を振りかざして電鉄社員は大混乱。挙げ句の果てに大事故を起こして横井英樹と同じく縄付きになっていただろう。どっちにせよ某は塀の内に落ちるわけで死者が出なかっただけ奇貨であったにせよ電鉄は助かった・・・・と最後にまた「不動の経営」のレトリックにはまるところだった。恐るべし「不動の経営」。(編集長)
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コメント
こんばんは。
「阪神電鉄出目金ドン亀事件解決編」読ませてもらいました。
まさに恐るべし「不動の経営」。
結局、策士、策に溺れるという結果。
しかし、今現在阪神株はどうなっているのだろうか?
続報がない。
某は経営者になることは考えていなかったでしょうね。
明星食品に某が同様のことをした結果、大株主として経営参加してしまった経緯を知りましたが・・・
「阪急の小林一三」に対する「阪神の○○」ですが、「外山脩造」ではないですか?
阪急電鉄にもいろいろあったようですね。現在進行形かな?
http://febnet.cocolog-nifty.com/column/2006/01/post_c7b6.html
投稿: タートル | 2006年6月12日 (月) 18時34分
外山脩造! 阪神電鉄の事実上の創始者で
本名の「寅太」が彼の死後作られた球団名
タイガース(=寅)に反映されたとの都市伝説がある
正岡子規の本名は升(のぼる)だから
彼の愛好したベースボールが「野ボール」つまり野球と邦訳されたとの都市伝説に似る
ちなみに大和球士説では野球の邦訳者はあくまでも中馬庚とのこと
問題はですねタートルさん
阪神電鉄の今の経営者が外山脩造を知っているかという深い疑問が私にはあるのですよ
自社の株価の動向も知らない人達ですよ
あの有名な白髭姿で化けて出たとして
「どちら様ですか」と言いかねないのでは?
投稿: 月刊「記録」編集長 | 2006年6月13日 (火) 01時29分