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2006年6月22日 (木)

山口・母子殺害事件最判と応報感情

1審の無期懲役判決が下った後に妻子を失った被害男性は「私がこの手で殺す」と発言し賛否両論を受けた。最高裁判決は1・2審の無期懲役判決を破棄して高裁に差し戻した。自判こそしなかったが事実上の死刑判決である。
江戸時代にも国家的公刑罰権は幕藩体制下である程度確立していたと考えていい。そこには現在は許されていない殺人(殺意をもって人を殺す)の形態があった。切捨御免と敵討ち(仇討ち)である。敵討ちは国家的公刑罰権を補完する意味合いもあったが要するに目上の親族が殺害された場合に手続きを取って(場合によっては手続きなしでも)「不倶戴天」の加害者を自ら殺害しても罪に問わないとの制度である。
敵討ちは支配階級であった武士にのみ許されていたわけではなく町娘が果たした例も記録にある。ただし封建秩序を前提にして考えると山口・母子殺害事件の被害男性は敵討ちを認められない。なぜならば妻子は目下と分類されるからだ。
よく子を殺害された親が「敵討ち」を口にすることはあるが同様の理由で江戸時代でさえ公許されていない事案ではある。
ただこの点を追究せずに単に愛する者が理不尽に殺された時に残された親族が公刑罰権の例外として「敵討ち」をしてなぜいけないのかという命題に絞って吟味すると明快な解答はいまだ出ていないというのが現実である。平たくいえば「敵討ちの何が悪いのか」だ。

それは言い換えれば応報感情を汲むべきか、汲むとしてどこまでかという問題だ。罪刑法定主義の下でも被害者の応報感情は一定の影響を司法に与える。より細かくいえば応報感情をも織り込んで量刑などは定められている。
だが応報感情は殺された相手への想いが強いほど大きくなる。したがって交通事故での業務上過失致死で愛する者を失った被害者遺族は法廷で「この業務上過失致死犯!」とは叫ばない(叫んではいけないが)。あるとすれば殺人罪で起訴された被告と同様に「この人殺し!」である。

数年前に私はある出版社の依頼で江戸時代の司法制度を調べて原稿にした。そこでは上記のような現代との違いの他に重罪主義が貫かれている。そのためか特に江戸市中(町方の場合)は江戸全体で100万人を超す人口を要していながら治安維持組織に属する人数はビックリするほど少なかった。
だが現在は法の下の平等における罪刑法定主義なので「この人殺し!」ならば皆が皆死刑とはならない。

国家的公刑罰権による統治原則から「人をなぜ殺してはならないか」を推察すると「殺されない権利を確保するため」とはならないか。つまり応報感情も含めて殺していい例外をもうけたり、さらに広げて原則として殺してもいいとまですると自分が殺せる権利を有する半面で、いつ殺されても罰せられない社会となる。これでは法治も統治もなくなるので罪と罰の処断を国家に委ねるとした、と。
だがいくら理屈を吐いても故なき理不尽で愛する者を失えば応報感情は自然とわく。死には死をという論理には十分な説得力があるので「私がこの手で殺す」と妻子を失った男性が叫んだとしても十分に理解できる。ただ、だからといって応報感情をよりストレートに裁判に持ちこむと罪刑法定主義の原則をも揺るがしかねない。非常に差配の難しい問題である。

さらにつらいのは殺人事件の場合に応報感情を持つのは被害者本人ではあり得ないという点だ。なぜならば被害者は殺されているから。すると被害者の感情を法廷で反映させるとしても被害者の親族となるのが一般的であろう。親族の思いが常に一定とは限らない。すると親族の思いの軽重が量刑などに反映されてくる恐れが出てくる。
もう1つある。今回の山口・母子殺害事件のように死刑制度の是非や応報感情の反映といった問題を考えるテーマの大半は被害者および親族があまりにも気の毒で第三者の位置にいる私でさえ「死刑でも物足りない」と憤ってしまうようなものであることだ。だが被害者やその遺族が裁判の過程に参加するかどうか、どう参加するかをルール化して実行する場合には「あまりにも気の毒」な事案ばかりとは限らない。
こうした論点は結局は専門誌や専門書でしか見出せない。マスコミもネットもまだまだである。(編集長)

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コメント

目下の人の「あだ討ち」の話は、「逆縁ながら。。。」の台詞で、桂米朝の「宿屋敵」の中で出てきますね。殺人事件も夫々で、光市の事件のようなものばかりではない。そこのところを冷静にマスコミには伝えて欲しいと思います。

投稿: nori_px | 2006年6月22日 (木) 20時40分

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