W杯日本代表が「サムライ」じゃなかったら!?
つい数日前に気づいたのだが、サッカー日本代表が「サムライ」って呼ばれていた。朝日新聞の見出しで「サムライ日本に歓声」と書かれているのを見て、「オイオイ、いつからサムライになったの」と本気で驚いてしまったのだ。
というわけで、最近、日本代表が「サムライ」だと知った少数派(たぶんね)に向けて今回の記事を発信したい。
この「サムライ化」は日本代表のキャッチフレーズに由来する。
昨年の10月1~14日に5つ候補のうち1つをネット投票し、今年1月末に「SAMURAI BLUE 2006」になったと発表した。
知ってた?
ジーコ監督もこのコピーをたいそう気に入ったようで、コピーが印刷されたブルーのボードにポルトガル語で「侍パワーこそ日本選手が素晴らしい成績を収められる力となる」(『スポーツニッポン新聞』06年1月28日)と書いたとか。
で、しつこいけど、知ってた?
まあ、この投票した時期に知っていた人は少なかったことは確かみたい。なんたって総投票数が2万4208票しかなかったのだから。ちなみに昨年のオールスターのファン投票トップはダイエーホークスの城島健司選手で70万5999票だった。2万4000票なんて数字ではオールスターへの出場はもちろんかなわない。
こうしてひっそりと行われた投票によって「SAMURAI BLUE 2006」に決定したわけだが、じつは、ここに投票した人はかなり偉かった。というのもコピー案が「SAMURAI BLUE 2006」以外、けっこう悲惨だったのよ。
第1位 「SAMURAI BLUE 2006」 10,111票
第2位 「Make the HISTORY」 4,542票
第3位 「世界を驚かせよう。」 4,248票
第4位 「頂点へ、全員で。」 3,108票
第5位 「WIN NOW!」 2,199票
どう?
もし「Make the HISTORY」がトップだったら、今、ドイツのボンで日本サッカー協会の情報発信拠点までの道しるべとして、あるいはレストランの店先で歓迎ムードを盛り上げるグッズとして、街中に「Make the HISTORY」と染め抜かれた旗がひらめいているところだったのだ。もちろん「頂点へ、全員で。」だった可能性もあるわけで、そんなことになった日にゃ、旗に書かれた文字の意味をたずねるドイツ人に恥じてしまう日本人が続出したに違いない。サッカー後進国である日本が前回準優勝のドイツで、歴史作りや優勝を声高に叫ぶのはさすがに時期尚早だろう。
逆を考えてみればいい。柔道ドイツ代表のキャンプ地周辺に「頂点へ、全員で。」と書かれた旗が山ほど掲げてあったら、どう? 腹が立つというよりはカワイイって感じでしょう。いきがっている中学生のような。
改めてサイレントマジョリティーである大衆の判断の的確さに驚いてしまった。
いまやワールドカップは巨大商業イベントである。電通の試算によれば、日本が決勝トーナメントに出場すると、4759億円もの波及効果を日本経済に与えるという。消費についても、ユニホームなどワールドカップ関連商品の「グッズ購入費」が426億円にものぼり「飲食関連費」も413億円だと。
ドイツにはいけないけれど、グッズを買ってスポーツバーで応援だとか、自宅で日本代表を応援するビールで乾杯だとか、そんな庶民の応援にもコピーは刷り込まれる。
応援グッズに大きな投資をしているキリンなどは投票結果が気になって仕方なかったに違いない。KIRIN WORLD CHALLENGE 2006のスタジアムで配布したゴム製のリング「ブルーリング」が「Make the HISTORY リング」だったらあらぬ想像を招きかねないし、日本代表応援グッズ樽生専用サーバーに「世界を驚かせよう。」と印刷するのはデザイナー泣かせで、サポーターすら欲しがらなかったかしれない。僕がキリンの社長なら社員にいっせい投票を強制していたところだ。
原油の高騰もあり、日本経済の腰折れが心配されている。こんな状態を打開するためにもワールドカップの経済効果は重要だろう。景気が良くなれば、ノンフィクションが売れると信じる私としては「SAMURAI」でよかったと心から思うのである。
ただ勝利に貢献するコピーかは少し疑問だという情報も付け加えておきたい。
広辞苑によれば、侍の語源は「さぶらう」。「目上の人のそばに控える」という意味が元にあるという。日本代表が誰のそばに「控える」気なのかは分からないが、せめて同組のブラジルに控えてほしい。クロアチアやオーストラリアなんかに控えた日には、その時点で決勝トーナメント進出は不可能(まあ、もともと順当にいけば不可能なわけだが……)。
とりあえずワールドカップの後に「SAMURAIって防戦一方なのな」とか、「やっぱりSAMURAI自決かよ」とかいう言葉だけは聞きたくない。
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