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2006年5月23日 (火)

日本の検察取り調べはスタートレックファンもビックリ

「あなたが準備することは何もありません。ご主人の判決は、既に有罪と決まっているのです。裁判では有罪に至った過程が公開されるだけです。カーデシアの犯罪捜査システムは、宇宙域一ですから。お望みなら、傍聴することもできますよ(後略)」

スタートレックDS9の45話「疑惑の法廷」で出てくるセリフだ。「ご主人」とは地球人も属する惑星連邦の1人でカーデシアとは惑星連邦と対立する種族とされる。冒頭は地球人がカーデシア人に拘束された場面でカーデシア執政官が地球人の妻に述べた言葉である〔“Star Trek -USS Kyushu”(http://www.usskyushu.com/)より引用。引用個所の詳細はhttp://www.usskyushu.com/ds9/45.htmlに掲載されている〕。なお原題はTribunalつまり「裁判所」だ。
要するにカーデシアでは身柄拘束の時点で有罪判決は決まったも同然で「裁判では有罪に至った過程が公開されるだけ」だ。何という暗黒裁判・・・・という意味で私がたまたま見たテレビの画面を覚えていたわけではない。私はトレッキーではないので。印象に残った理由はズバリ日本の裁判制度をまざまざとさせたからだ。

まったく同じとまではいうまい。警察が身柄拘束後に「検察に送らない」判断をしたり検察が取り調べ後に「起訴しない」とする場合があるから。だが起訴されたらカーデシアとほとんど変わらない有罪率が待っている。日本の「犯罪捜査システムは、宇宙域一ですから」ね。

09年に導入予定の裁判員制度に合わせて最高検が決めた検察官の取り調べ段階を映像と音声で記録する「試み」が「一部」で始まることになった。
片方だけ待ったを100回許される将棋のルールを改正して「待ったは90回」としたら、これを改善と呼ぶのか。私は呼ばない。むしろ暗闇を暗闇と暗闇の主催者が認めたような行為である。
今回の試行は「一部の重大犯罪」に限って「自白の任意性が裁判で問題になりそうだと検察官がとらえた場合のみ」「いつ、どこを映像と音声で記録するのは検察側の判断で」行われるという。かぎカッコの部分が「待った」に当たる。スタートレックの脚本家陣に教えてやりたいような掟である。
これでも最高検にしては隠密裏に運んだ末のスーパープレーというのだから頭が痛くなる。

まず重大事件に限るとした理由がおかしい。裁判員が投入される事案だからという以外の何ものでもあるまい。微罪になればなるほど起訴独占主義下の検察官の判断は重要になる。「起訴しない」か「起訴=有罪」かの分かれ道だから。
経済事犯の場合は物証もなく自白によってのみ成立する案件が多い。従犯の場合は「認めたら起訴しないよ」とほのめかされれば白も黒と歌ってしまう。その結果が「起訴しない」だと裁判で争うことさえない。そのくせ調書は主犯の裁判の証拠に採用されよう。他の犯罪でも詐欺罪のように欺罔のあるなしは自白で補うのが効果的な場合はどうなるのか。

次に「自白の任意性が裁判で問題になりそう」な場合とは何かだ。重大事件で物証や目撃証拠が字義通りの「動かぬ証拠」になる事案では「自白の任意性」云々は大した問題ではない。多数いる街中で柳葉包丁を振り回して人を殺傷して現行犯逮捕されて包丁が押収されたといった例だ。
ということは「自白の任意性が」問われるのは街中で柳葉包丁を・・・・のような明白さに欠ける事件であろう。言い換えれば自白にかなりを頼らざるを得ない場合だ。ということは何とか自白を引き出したい場合ともいえる。ということは・・・・と「ということは」ばかりで御免なさいだが引き出そうと強引ないしは巧みに被疑者に迫って歌わせた場面となる。結論としてこの言葉は「自白が重要な事件で任意性が疑われる取り調べをした場合」とイコールとなる。
そんなものは撮影しないに決まっている。現に「いつ、どこを」「記録するのは検察側の判断」だからね。散々脅かして震え上がらせたまでは写さずに、その後の優しいダメ押しの声と被疑者の歌だけをトリミングしようよ。トリミングは秋霜烈日が持つ伝統芸だから訳もあるまい。
自白の決定版である秘密の暴露もあらかじめ仕込んでおいた「犯人しか知り得ない情報」を、つまり実は検察も犯人も知っていた情報をほのめかし、被疑者に反復させて秘密の暴露できあがりの図を「記録するのは検察側の判断」では崩せない。

そんなに信用できないのか。検察への侮辱だとの反論もあろう。だがそうはならない。本当に秋霜烈日が誇り高いならば何もかも映像と音声に残しても不都合ゼロのはずだ。撮影が被疑者を萎縮させるというならば弁護士を同席させればいい。何でそうしないの?
これがグローバルスタンダードだというならばトーンも落とすが一般に先進国とされる国々で映像と音声の撮影は当たり前だから引くわけにはいかない。あえて検察を擁護するとすれば無謬性の幻影に過度にこだわる必要はないという点だ。何もかもさらけ出した方が案外と痛くもない腹を探られるより楽になれるのではないか。

警察に適用されない件は多くの識者が述べているので「言語道断である」と書くに止める。その上で、さまざまな被疑者のあらゆる供述調書が、まるで同一人物がしゃべっているようにそっくりな記載・文体で粛々と書かれているのはなぜか、との問題提起だけはしておきたい。(編集長)

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