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2006年5月29日 (月)

自信を失ってコレを読むのは間違いでしょ!

Ko 好きなタイプの本じゃない。それは何となく分かるものだ。でも、大ベストセラーともなれば、やはり読んでおかなけりゃイカンかなとも思う。そんなこんなで手に取ったのが『国家の品格』(藤原正彦著/新潮新書)。
 いやいや売れているらしい。発行から7ヵ月で200万部を突破したというのだから尋常ではない。200万部達成までの時間は新書の日本最高記録だとか。景気のいい話じゃないか! この新潮社の好景気に、私は1冊貢献してしまったわけだが……。

 帯には「すべての日本人に誇りと自信を与える画期的日本人論!」とある。 言いたいことは、日本を始めとする現在の先進諸国社会は荒廃している。だから日本古来の「情緒と形の文明」を取り戻せ、と。さらに近代合理精神は限界にきているし、自由や平等や民主主義も疑え、と。
 まあ、自然への感受性を取り戻せと主張するもいいでしょう、情緒の優位性を説くのもよい。でも、それで武士道精神を取り戻せって!、あんた。
 
 すんません。無理ッス。自分、農民出身ですから。

 だって大畑だよ。大きな畑を夢見ていた小作農でしょ、この名前は! よく調べことはないが、少なくとも武士じゃない。先祖代々さかのぼっても武士道なんか触れたことないはずだ。「取り戻」そうにも経験がありませんって。

 だいたい江戸時代、都市部に住んでいたのは全体の3割足らず。そのほかは農山漁村の住民だった。そんな住民の大半が武士ではなかったことは明白。じゃあ、残り3割のすべてが武士だったかというと、武士が異常に多かった江戸でさえ半数しかいなかったらしい。てことは、多めに見積もっても全体の1割5分!

 だいたい当時の武士の多くが武士道を信奉していたかも怪しい。この本書でも卑怯な行為として取り上げている「弱い者いじめ」が武家社会で、あるいは農民に向けて行われていなかったとも思えない。
 かつての日本の高い道徳性について本書でも触れているが、まさか当時の農村社会が乱交文化だったことを知らないわけではあるまい。少なくても性に限って言えば、現在の渋谷の女子高生はかつての「道徳」を復活させているってことだ。つい数年前までは顔に「隈取り」しているヤツも多かったしね。

 で、さらに驚いたのが次の文章。
「国民は得家印に成熟しない。放っておくと、民主主義すなわち主権在民が戦争を起こす。国を潰し、ことによったら地球まで潰してしまう。
 それを防ぐために必要なものが、実はエリートなんです。真のエリートというものが、民主主義であれ何であれ、国家には絶対に必要ということです。この人たちが、暴走の危険を原理的にはらむ民主主義を抑制するのです」
 この文章を読んで上で聞きたい。
 まさかと思うが、著者の藤原正彦先生は60歳を過ぎて自身をエリートの階層に組み入れていないでしょうね。「散り際」に美しさを求め、「老害」なんぞを絶対に許さない武士道に習うならば、もう隠居してしかるべき年齢とも思うのだが。隠居しないなら、非エリート同士肩組んで、一緒に「えーじゃないか」と叫びながら踊りませんか?

 GHQが日本人の順法精神のなさに驚いたという記述を、かつて何か本で読んだ。闇市だ、物資の横流しだと、あらゆる違法がまかり通る状況に驚いたらしい。それを道徳の退廃と捉えることもできよう。しかし私はそこに日本人の力強さを感じた。占領されても唯々諾々とは従わない。自分の生活のために走り回る。法律なんかクソくらえだ、という力強さ、柔軟性こそが人間としての魅力である、と。
 張り詰めた感性、道徳観は揺さぶりに弱い。意に沿わぬからと「散り際」を求めるのは格好がよいが、死んだら跡に残された者はどうするのか。変化した世の中を受け止め、しぶとく生き残ることこそ人間に課せられた使命じゃないか?
「品格ある国家を保つ」ことで、日本人が世界を救えを言われてもね~。

 思い起こせば、わずか20年前ほどまで日本人の誇りを支えていたのは経済だった。その経済がバブル崩壊とともに崩れさり、終身雇用制などの社会システムも大きく変化した。現在、多くの人々はリストラに怯え、格差社会を恐れ、アイデンティティーのよりどころをなくしている。そんなとき、かつの日本文化を懐かしむナショナリズムが跋扈する。
 でも、そんなもん解決策になるの??? 回顧している人たちを陥れて金儲けするヤツラが喜ぶだけだと思うのだが……。

 でも、繰り返すが、この本が売れているのだ。つまりシンパシーを感じている人も多いのだろう。
 やれやれ。
Supi  どうせキワモノに人生哲学を求めるなら『スピリチュアルな人生に目覚めるために』(江原啓之著/新潮文庫)あたりの方がマシじゃない。
「すべての存在はもともと一まとまりの類魂であり、ともに神を目指して向上している仲間である」なんていいんじゃない。みんな仲間なら戦争も起きないし、エリートに国家運営を任せないでも戦争を回避できそうだぞ!

 まあ、私は江戸文化と聞くと「やれ突けそれ突け」あたりを思い出す腐れ外道なので、武士道ともスピリチュアルとも縁遠い生活をしているわけですけどね(大畑)。

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