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2006年3月20日 (月)

WBCで日本決勝進出

リンカーン大統領の遺訓を守って「アメリカのアメリカによるアメリカのためのWBC」を演出した当のアメリカがリンカーン大統領のように2次リーグで暗殺されてしまったWBCの決勝は日本とキューバが争うこととなった。

韓国選手の兵役免除が発表された後で連勝中の日本戦に6対0で敗れたという結果を見るにつけ9日の「韓国の兵役免除は本当にメダル取りの動機か」で書いた兵役免除の動機付けはあったと判断ぜざるを得ない。
そうそう。9日の記事で洞察すべき大切なポイントを忘れていた。それは兵役によるトレーニングの中断が野球生命に関わるのではないかという点である。
この答えを見出すのは難しい。例えば兵役のあった戦前の日本の職業野球から探してみよう。巨人軍の沢村栄治投手は1935年から始まった職業野球草創期から豪腕でならしたが兵役で手榴弾投げを強いられて肩を壊すなどして除隊後は見る影もなく球威が衰えていたと伝わる。
半面で戦後の1954年の優勝を牽引した通算215勝投手の「フォークの神様」中日ドラゴンズの杉下茂投手は旧制商業学校時点では何と弱肩だったが入隊中の手榴弾投げなどで沢村とは逆に肩が強靱になり、除隊後は見違えるほどの球威を得ていたという。

山田泰吉という人物がかつていた。東京・赤坂に「ミカド」という社交場を作ったなどで知られる伝説の商人だが、彼の姉が私の曾祖母にあたり私が幼少時には泰吉に抱いてもらった経験もある。泰吉のエピソードは沢木耕太郎の「馬車は走る」の1編にくわしい。
その曾祖母は夫とともに中部地方で大きな料亭を経営していた。そこにはドラゴンズの選手も入り浸っていて子ども時分の私の母は杉下投手が片手でいくつものリンゴを持つ「技」を見せてもらって喜んでいた。
手の大きさは天性であって兵役でそうなるわけでもあるまいから杉下の「軍隊で名投手になった」話は本当だと思われる。
沢村、杉下両選手は同じ手榴弾投げが正反対の結果になっているのも不思議というか皮肉というか。

などなどを勘案すると兵役は必ずしも競技人生にマイナスとは限らないわけだ。現にWBC韓国代表には除隊したレギュラーもいたから致命的というほどではなさそう。やはり「兵隊なんてやなこった」が最大の動機付けと位置づけて間違いあるまい。

アメリカにとってはこれほど皮肉なことはない結果となった。自らの国技の初代チャンピオンの地位を他国・他地域に譲るだに腹立たしいのに、その場を自国で提供する羽目となった。
しかも覇権を競うは旧敵国の日本と現敵国のキューバである。キューバ代表には論理的に大リーガーは存在しない。日本代表には本来は松井秀喜(ヤンキース)や城島健司(マリナーズ)、井口資仁(ホワイトソックス)などを送り込めたにも関わらず利害が相反して不参加。最大の理由はアメリカが3月開催をゴリ押ししたからである。
つまりアメリカ最大の野球リーグのメジャーの選手が日本の主軸に連なっていたら日本優勝で終わったとしても「主軸は大リーグだったのさ」と多少は溜飲を下げる要素もあったろうに3月開催で自ら芽を摘んでしまった。わずかにイチロー(マリナーズ)と大塚晶則(パドレス)の参加では説得力は薄い。

そのイチローである。考えてみれば彼は「栄光ある不遇」を常にかこってきた。高校野球ではさしたる活躍はできなかった。オリックス球団で残した「7年連続首位打者」との記録は前人未踏どころか恐らく空前絶後の大大大大大大大大大大大大大大大大記録であるにも関わらず(「大」の字はまだ足りないくらい)適当に遇されたとはいえない。
海を渡っって所属したマリナーズでは1年目こそMVPを獲得したがレギュラーシーズンでチームも100勝をあげるブッチ切りであったのにワールドシリーズにさえ進めなかった。その後のチーム力は下降の一途で2004年には大リーグの年間最多安打記録を更新したのにMVPに及ばない。
彼の「いくらでも期待してください」「見せるのはまだこれからです」などのハードボイルドな発言は「北斗の拳」の主人公の「オレの名前を言ってみろ」のようなもので要するに「まともに認めろ」とのルサンチマンが感じられるといったら穿ちすぎか。
WBCでも本人の入れ込みようとは逆に十分な結果が出ていない。だが決勝でキューバを破る大活躍をすれば「栄光ある不遇」から脱せられるかも。
アメリカもそれを望んでいよう。大リーグのスーパースターが敵国キューバを叩きつぶせば「どうだ。アメリカ大リーグのスーパースターが本気を出せば、しょせんアマチュアのキューバなんてそんなものさ」と言い訳できるからね。その意味で「イチローのイチローによるイチローのための決勝戦」とも言えよう。準決勝の3安打はその伏線か。

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» WBC祭とイチロー効果 [らんきーブログ]
WBCは当初の予想以上にかなり盛り上がって良かったと思います。 私も含めた日本人のこういう単純なところは実は私は好きです(笑) 投手の球数制限にしても、誤審を堂々とするマイナー審判しか呼べない状況にしても、またアメリカ主導の強引なやり方にしても、おかしな点は多々あれど政治の世界と違ってスポーツの世界が面白いのは筋書き通りには行かない事もある というところが痛快です。 アメリカの思い上がりと我侭さだけが浮き彫りになったという言う事で。 キューバをぎりぎりまで参加させようとしなかったり、グル... [続きを読む]

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