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2006年3月11日 (土)

ガス田開発のカードは日本にあり

東シナ海のガス田開発での日中局長級協議で中国が尖閣諸島を含む海域での共同開発を持ち出してきた。怒っている日本人は多かろう。だがキャンキャン反発するばかりでは中国の手に乗るばかりだ。私はある意味、中国は紛争時の定石を打ってきたにすぎないと考えている。

その前に尖閣諸島の領有権について私の意見を明記しておく。私は尖閣は日本の領土とのわが国の主張を支持する。理由はここであれこれ書かないが純粋に論理を比較すれば日本に若干の利があると判断するからだ。
ただし弱いのはサンフランシスコ平和条約で米国を唯一の施政権者とする信託統治制度下に尖閣は含まれ、1972年の沖縄返還で一緒に戻ってきたとアメリカに明言してもらっていない点だ。諸島のうち2島の在日米軍射爆撃場の存在を考えればいうまでもないとも押せるが、だったら明言してもらえばいい。
確かにサ条約に中華人民共和国は招かれていないから完璧ではないが相当有効な根拠になるはずだ。

さてガス田開発はそもそも日本が主張する排他的経済水域(EEZ)の日中中間線を中国が、中国の主張する沖縄トラフ説を日本が、それぞれ認めていないのが根本である。したがって日本側の前回提案は事実上日中中間線を中国に認めさせる効果があり、中国が乗れないのは明白だった。
そして今回は尖閣諸島周辺の共同開発で「EEZどころか日本の領海だぞ」との反発を承知で打ち返してきた。
民事裁判で双方が争う場合、まずこうした叩き合いから始まる。原告は100%相手に否があり、それを前提とした高額の賠償を求める。対する被告が争う場合は自分の否をゼロとして賠償は存在しないとゼロ回答する。場合によっては反訴もちらつかせる。
いわばこれと同じである。強烈な100%vsゼロ回答の応酬をまずしないともめごとの白黒のスタートは切りにくい。文頭に定石を打ってきたにすぎないと書いたのはその意味である。

以前に書いたが私は中国のガス田開発は石油メジャーが手を引いた時点で暗礁に乗り上げていると推察している。多分日本と共同開発したいというのは本音であろう。その弱みを突いたとしたら日本側の前回提案は面白かった。
だがそれに屈すると中国は中間線論を飲む形になるばかりかガス田開発がうまくいっていない事実を認める結果になりかねない。それは対日関係よりも国内問題としてヤバイのである。

中国は靖国問題で反日は揺らぎつつある共産党政権の求心力になるばかりか韓国や東南アジア、果てはアメリカまでうまくすれば味方にできると気づいた。その分だけ日本の反中中感情は強まるが、それで中国が困るのは経済だけである。
ところが中国は知っての通り「社会主義市場経済」との不可解な概念で経済成長を遂げている。「右手は左手である」というに等しいこの概念自体がナンセンスギャグである。ギャグで商売ができるかというとできるわけだ。商人はイデオロギーの云々でソロバンをはじかないから。だから「経熱」は下がらない。白人しか居住しない地域が「わが国は黒人国家である」と宣言しても商人は全然困らないのだ。

尖閣諸島の領有を中国が「台湾省に属する」と主張しているのも敵ながら上手なケンカのふっかけである。自然と台湾も領有権を主張するようになる。日中共同宣言以来の約束で日本は1つの中国を約定している以上は台湾のもの=中国のものと認めざるを得ない。
もちろん日本は自分の領土だと言い張るに決まっている。すると日台間にも不和を醸し出す「好結果」をも期待できる。
実際に2002年に台湾の李登輝前総統(当時)が尖閣諸島を「日本の領土」と発言して中国ばかりか台湾の反発をも誘った。結構使える材料なのである。

理屈だけでいえば日本の領海や領土で日中が「共同開発」してはいけないという理由もない。別に北京のど真ん中で日中「共同開発」のプロジェクトを始めてもいいように。だから共同開発提案は尖閣諸島の領土問題を棚上げにした提案とも、領有問題に日本が譲歩した結果であるともとれるのだ。少なくとも共同開発を提案をしたから中国が日本領を侵犯したとはならない。
もちろん日本の立場として日本の領海であり中国の助けも必要なく、むしろ中国に遠慮して開発を手控えてきた尖閣周辺で何が悲しくて中国と共同開発せにゃならんのだと突っぱねる。中国としてもそれでよろしい。もともと何も失っていないから。

この日中局長級協議のど突き合いは詰まるところ、できるだけ有利な条件で日本の技術力と信用創造を拝借したい中国と妙な妥協はしたくない日本のせめぎ合いである。その過程で中国は無理筋とわかっていながら尖閣を出してきた。
だったら日本も従来の中間線を引っ込めて思いっきり原則にしたがって中国に限りなく接近したピッタリ200カイリの新主張を打ち出して「上海付近でも一緒に掘ってみましょか」とやるのも面白い。どうせ中間線を元々中国は認めてないのだから。

ガス田協議は日中問題ではあるが靖国とは明らかに違って外交の駆け引きである。お互いの牌をいかに相手方によく見せかけるかが勝負である。何度も繰り返すが面白いゲームなのだ。イデオロギーをブンブン振りかざした方が負けである。
いいですか。メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルは撤退してしまった。ユノカル買収はアメリカが阻んだ。中国は八方ふさがりである可能性が大で日本の力がほしい。さあこのカードをどう切るか。妙なナショナリズムで高揚しているおバカさん。そんな情熱があったら中国をアッといわせるカードの使い方を考えようよ。
だってさ。いくらナンセンスギャグとはいえ社会主義を掲げる国が公然とユノカルを買おうとするか?大恥であろう。ということは大大恥を避けるためには大恥かいても仕方がないとの究極の選択だったのでは。

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