第48回グラミー賞の感想
U2がノミネートされた5部門全部、それも最優秀アルバムと優秀楽曲の主要3部門の2つを獲得した。確かにHow To Dismantle An Atomic Bombというアルバムは買ったし、完成度も高いし、U2は好きなバンドだし、ついでにipodのCMも格好よかった。でもノミネート全勝は持ち上げすぎじゃないの?
グラミーの傾向として「実績」「安定感」「リベラル」「正統派」が重視されるがU2・・・・というより Bonoには全部ある。もはや崇高な哲学者の趣だ。01年と02年もU2はもう1つの主要部門である最優秀レコード賞を連続受賞。とても審査員に好かれやすい要素がそろっている。
とんがっていたようなイメージがあったがいつの間にかデビュー25年。ただし来日コンサートで朝の9時から客を並ばせるようなことをやっていると言行不一致と今に叩かれるぞ。
ちなみに最優秀レコード賞はGreen DayのBoulevard Of Broken Dreams。Green Dayが以前はパンクだったというと今のファンは驚き、パンク時代のファンはそうして驚く人が多数いることに驚く。「よくぞ更生しましたね」とのご褒美か。
Kanye Westは激高しているだろうよ。8部門ノミネートで3つ獲得といっても最優秀レコードと最優秀アルバムは逃した。あれだけ売れても結局「お前はRapの賞をもらっとけばいいんだ」との扱いはないだろう。きっとブッシュの陰謀だと思い詰めているに違いない。審査員席があったらダイブしそうだな。
でもそのルサンチマンが巡って彼の作品をよりエモくしているような気もするから悪くもなさそうだがいかがか。やっぱり怒るか。
Kanyeと同じく「8の3」だったMariah Carey。Kanyeと親しいMariahがKanyeとそっくりな地味目の受賞。でも満足度はKanyeと逆できっとホッとしている。何しろ解雇の憂き目まで遭っての、ほとんど奇跡の復活だったから。
MariahもU2と正反対でグラミーからは疎まれてきた。最初の全盛期のハーやフーがいけないのだね。でもそれを止めて売れなくなって開き直ってハーフーに立ち戻り、思わず目が点になるPVも作ってアルバムを売りまくったのだから。一種の肉体労働者のそれに重なりリベラルの琴線に触れたのかも。
大御所ではStevie Wonder が2部門でBruce Springsteenが1部門で受賞。対象となった曲やアルバムは両者とも原点回帰的意味合いが強かった。StevieはMTV時代のキャッチーな路線以前の戦闘的な楽曲を、しかも10年振りに発表となれば伝統と実績を重んじるグラミーで無冠とはいえない。Bruceは以前にも書いたようにブッシュとの戦いに負けて静かなアルバムを出した。リベラルが放っておかない。
いずれにせよ「歌丸師匠に座布団一枚」という感覚に実に近い。
Gwen Stefani様はお気の毒でした。やっぱり色々な意味で行き過ぎたんですね。最優秀アルバムでもおかしくなかったけれども相手が Bonoでは。フェロモンでは哲学者には勝てないということか。最優秀女性ポップボーカルパフォーマンスは彼女のためにあるような賞だと思っていたがKelly Clarksonに負けてしまった。朝日新聞の元旦紙面を飾ったのはやはり不吉な兆候だった。
でもファンは変わらぬ大爆発を今後も期待している。Madonnaは「Gwenは私を真似ている」と批判しているようだが元祖誰かさんを真似てデビューのMadonnaのいうことを気にする必要はない。というよりラジー賞に突っ走ったら本当にMadonnaの真似になるから頼むので止めて下さい。
そのKellyちゃんが最優秀ボーカルアルバムを合わせて2部門、彼女のノミネートは元々この2つだったから完勝したわけだが、批判する声もあろう。だが以前に述べたようにアルバムを聴けば彼女が受賞にふさわしい能力の持ち主であるとわかる。現にアメリカのティーンは圧倒的に支持しているではないか。ロックは元々ティーンが支えていたのである。
最優秀新人賞はCiaraとJohn Legendの一騎打ちとの下馬評通りで8部門ノミニーのJohnが優勢勝ち。怒り心頭のKanye先輩にどう報告したものか。あの「マハ・マハ」と聞こえるBlack Eyed Peasも含めてヒップホップは強かった。ただ最後の壁が破れない。
それにしても最近、というより21世紀に入ってからのグラミーはそこそこ納得はいく選考ではあるが以前の輝きを失っていると感じるのは私だけか。それは前述のような傾向から選ぶべき人やグループを見下したり排除している(といえばだいたいわかるよね)のか、アメリカのポップスが曲がり角に来ているのか。でもこの「曲がり角論」はいつの時代でもやっているから判断が難しい。日本のレコード大賞のようにならないか心配だ。
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