堀江貴文と「光クラブ」の山崎晃嗣
「女はお金についてきます」(堀江貴文)
「女は機械だ」(山崎晃嗣)
「完全に予測の範囲内です」(堀江)
「私の合理主義からは契約は完全履行を強制されていると解すべきだ」(山崎)
すでに多くの識者が試みている堀江貴文ライブドア社長と「光クラブ」の山崎晃嗣との比較を改めて私がする必要や能力があるのかとは思った。これまた多数の識者が指摘するように両者の連想は容易で魅力的だが実のところ違いもいっぱいある。それはわかるのだがライブドアの強制捜査の報を聞いて両者の比較という誘惑が断ち切れない。
ライブドアに証券取引等監視委員会(SESC)の調査が入っていることは昨年から報じられていた。しかも異例の長さで、途中からは内偵でも何でもなく公然と調べていた。ただし何をどうしようとしているかはつかみきれないでいた。何しろライブドア自身が「何をどうし」ているのかわからない会社だから。
犯則などがあればSESCは行政処分を勧告するか、悪くても東京地検特捜部に告発するかだろうとみられていた。特捜が告発を待たずにSESCと合同でガサを突っ込むとはなあ。証拠隠滅情報などよほど切迫した内部告発などがあったのだろうか。
しかも堀江社長のヤサまでさらっているのは明らかに狙いを社長本人に定めている証左であろうよ。
報道に接する限り決算短信の虚偽公表があったとすればライブドアは大打撃である。投資家の基礎的な判断材料を偽ったとなると上場廃止ならばいい方でアメリカの巨大企業エンロンのような運命をたどらないとも限らない。
「光クラブ」の山崎晃嗣社長は堀江社長と同じく東大在学中から起業した人物であるが、山崎の場合は「嗜好、気まぐれに相当依存さる」観念的な合理主義が「馬鹿らしくなっ」て行動的で数量的な合理主義を目指し「遊金利殖・月一割五分」で出資者を募って「月三割」で貸すという商売を始めた。「確実と近代性をほこる日本ただひとつの金融会社」を謳って大成功を収める。
山崎自ら高利貸しと名乗ったせいか「光クラブ」は一般にヤミ金融とカテゴライズされているが今風にいえばファンドであろう。一方のライブドアも実態はファンドであるといって差し支えあるまい。
山崎は物価統制令と銀行法違反容疑で逮捕されるも銀行法違反はいわば形式犯で物価統制令違反も借り手の中小企業主などが大被害を訴えているわけでもない。山崎自身の弁舌もあって処分保留で釈放される。
堀江社長の場合は本人に責任が波及すると証券取引法違反だけでも有罪は免れまい。何しろ特捜が出てきちゃったからね。ただし執行猶予が付く可能性は大きい。要するに捜査で身柄を取られること自体が大打撃になるわけではなさそうだ。
問題はそうした事件を起こした会社が生き残れるかである。「光クラブ」事件で山崎は最終的な破綻が来る前に自殺した。
ライブドアも最悪は倒産するかもしれないが問題は堀江貴文という人物の「やる気」であろう。
堀江氏自身が意気盛んならばライブドアでなくても立ち直ってくる。それだけの能力はある人物だ。彼は「自分が楽しくやりたいから」お金儲けをしていると公言している。そのために株主を幸せにしている、と。
ただし本来の意味でライブドアの株主は幸せではない。分割で価値をどんどん減殺される上に無配となれば不幸な株主であろう。ただホリエモンの「劇場」を楽しむ木戸銭としてライブドア株は高くない。そういう意味での幸せはある。何だか小泉劇場に似ているな。不幸だけれども幸せってところが。
そこに官憲が手を突っ込んできた。堀江氏がいうところの「アメリカ軍によってすっかり牙を抜かれてしまった」戦後のように。その最中でアプレ・ゲールの代表とみなされた山崎は(本人は否定)やる気を失う。
堀江氏はまさか自殺するようなタマではあるまいが「もうやめた」となるかもしれない。すでにフジテレビ乗っ取りが挫折した頃から彼には以前のようなやる気が感じられなくなったのは私だけか。
「経営者って若くないと出来ない」は彼自身の言葉である。その言葉はやがてそのまま堀江氏自身に跳ね返ってくる。国家権力によって嫌も応もなく裁判闘争に費やされた時間の後の堀江氏は堀江氏の時間軸でいうところの「若い」に相当しているか。
山崎の不可解は釈放を勝ち得るまでは実に精力的であったのに、その後の身の始末が意外なほどあっけなかった点だ。我らと異なる時間に住む者の感覚は我らにははかりかねる。ライブドア崩壊などという事態を迎えたら堀江社長はソロスのように案外と慈善家にでもなったりして。それはそれで面白いけどね。
なお山崎晃嗣は三島などの作品の影響で多大に誇張・美化されているフシがある。ホリエモンも今後のあり方によっては後世の小説家がいじってくる材料になりそう。というかやっと小説の題材になるような陰影が生じてきたといった方が正確かな。松永安左エ門の言葉じゃないけど「逮捕・投獄」がないと経営者としてドラマチックとはいえない。
なお「光クラブ」関連の記事は
http://gekkankiroku.cocolog-nifty.com/edit/2006/04/post_27bd.html
http://gekkankiroku.cocolog-nifty.com/edit/2006/02/post_79ad.html
も書きました。ご笑覧下されば幸いです。(編集長)
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コメント
所詮、成長不良の資本主義、金の奴隷に過ぎない
ライブドアにしろ光クラブにしろ債権者は自分の損益を訴える資格はない。資本主義は所詮持てる者の権利を守り、新しい者の進出を阻害する為だけにある。常に自己矛盾を内包しているのに合理主義は成り立たなかった。紙幣は紙切れに過ぎないがこの紙切れには、資本主義の悪意と呪いがこめられている。
投稿: 通行人 | 2006年6月28日 (水) 23時18分