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2005年11月16日 (水)

後藤田正晴と旧首相官邸

私が初めて首相官邸に行ったのは新人研修の時だった。迎えてくれたのは第三次中曽根内閣で再任された後藤田正晴官房長官。今年9月に亡くなられた「カミソリ」長官である。
その官邸(以下「旧官邸」)は02年に今の首相官邸(同「現官邸」)に引っ越すまで1928年末から実に74年間使われてきた。

現官邸は2階(一部3階)建ての旧官邸に対して地上5階、地下1階建てとなり、広さは約2・5倍。磁気カードの所有者のみが首相執務室までたどり着けるという厳密なチェック体制が取られ、カードチェックも複数回行われる。身分証明カードだけで執務室までぶら下がれた旧官邸の時代は終わった。

その点で旧官邸は前述のように「ぶら下がり」で肉声を得るスペースがあった。

1階の正面出入り口から2階にある首相執務室にたどり着くには狭い階段を上がっていった。赤じゅうたんが敷き詰められた階段はまず5段あり、その後踊り場のような部分が数歩分ある。さらに12段の階段を上った左側に首相執務室があった。記者にとってはこの階段こそ首相のナマの声を聞く最大の取材場だった。
首相が執務室で記者に応対することはまずない。だからこの階段で記者は待ち伏せ、あるいは連れ立ち、ぶら下がって首相の一挙手一投足を70年以上ウオッチしてきた。いわば日本一重要な話がされた階段だといっていい。
現官邸に移っても小泉首相はテレビの効用をわきまえているので声を聞くことはできる。しかしその義務はないから首相が代われば主の肉声が聞けなくなってもおかしくはない。

どちらの官邸も首相執務室に加えて閣議室、官房長官および副長官の執務室といった、事務を取り扱う機能がある点は同じだ。だから現官邸と比べると旧官邸はどうしても狭く感じる。
まず廊下が狭い、というか細い。それが迷路のように各部屋を走り回っていて、相当熟達しないと迷ってしまうような仕組みになっている。これはテロリストなどから首相を守るためにわざとそうしたという説から、単に当時の洋風建築の模倣の結果に過ぎないという説までさまざまあったが真相は不明。
竣工当時の設計者である旧大蔵省営繕管財局が何を考えていたのか。結構調べたが決定的な資料がない。ご存じの方がいらっしゃったら是非お教え下さい。

旧官邸が首相の住まいである公邸として装いも新たに登場したのが今年4月。2・26事件など血なまぐさい事件のあった場所でもあるので幽霊が出るなどといううわさもあった。それでも解体せずに公邸としたのは70年以上にも渡る官邸としての歴史を評価したのであろう。
ただ幽霊が出る系の話はやっぱり付きまとうなあと妙に感じ入ったのが今年10月に小泉首相が公邸(旧官邸)の庭で麻薬キノコ(ヒカゲシビレタケ)を見つけたというニュースであった。おお恐い。

話を戻そう。毎日新聞の新人記者を相手に後藤田長官は「君たちはいつも労働時間短縮だとか過酷な労働を強いるべきではないなどと書いているが君たち自身はどうなんだ」という話を延々と聞かせてくれた。私は妙なことを気にする政治家だなと不思議の感に打たれた。

新聞記者は自らはメチャクチャ働きながら紙面には「労働時間短縮を」などと書くのはおかしいと言っているのだがピンと来なかった。
しかし謎はすぐに解ける。研修を終えて配属されて「なるほど」と理解した。それでも別の疑問が残った。後藤田長官は揶揄しただけだったのか新人の将来を心配しての話だったのか。
政治記者がメチャクチャ働くのは取材対象の政治家がメチャクチャ動くからでもある。その代表的存在が後藤田長官だった。私が官邸で話を聞いた時点で彼はすでに70歳を越えていたことに今さらながら気づいて驚く。
記者を東奔西走させている70代の爺さまが20代の新人記者の身体を気遣うということはあり得るのであろうか。彼は警察官僚でもあったから社会部系の記者の夜回り朝回りも十分に知っていたであろうに。
そのことを問う機会はついに訪れなかった。

警察官僚出身なのに選挙違反をやらかし、エリートなのに叩き上げの金権田中角栄の懐刀となり、タカ派の代表的存在である中曽根康弘内閣に加わりながら外交や防衛面では強いハト派指向を隠さなかった後藤田正晴。新人研修の話も二重三重の含みがあったのかも知れない。
でも似合っていたなあ。「政府首脳」である官房長官らしい雰囲気を漂わせていた。当時は毎日の新人あたりは「自民党なんてくそ食らえ」風の精神構造が強かったが研修後に「案外と格好いいものだな」との感想が出た。政治家は「二重三重の含み」があるぐらいでちょうどいい。そして背景にあった旧官邸の鬱然としたたたずまいが鏡写しに広がる。

ハイテクな現官邸とワンフレーズの首相と「チルドレン」「イエスマン」国会議員とタカ派むき出しの「ラストサムライ」のイケメン官房長官。時代は大きく変わったのだ。

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コメント

後藤田さんは特高警察の出身と聞きました。正確な話は知りませんが、尾行、盗聴、聞き込み、噂のタレ流しをする専門スタッフを抱えているとも言われていました。私自身この被害者だと思っています。とても裏と表のある方です。秘密警察は創価学会にもあると言われています。特高警察の真似じゃ恐ろしすぎる。

投稿: kame | 2008年5月19日 (月) 05時03分

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