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2005年11月29日 (火)

首相の大相撲パフォーマンスをネチネチ分析

小泉純一郎首相が大相撲で年間勝利数、年間優勝回数、連続優勝回数で新記録を作った横綱朝青龍に内閣総理大臣杯を渡すパフォーマンスをみて感動してしまった。
「コイズミ」と聞くだけで最近では嫌悪感を抱く私が、である。何なんだとビデオを見返して時間を計ってみた。
パフォーマンスは以下のように展開される

1)土俵下から一礼して土俵中心にまで歩み寄って「表彰状」と言い出すまで・・・・7秒
2)表彰状を読み上げる時間・・・・26秒
3)表彰状の最後にある「内閣総理大臣 小泉純一郎」と言い終わってから場内の大拍手を浴びて黙っている時間・・・・6秒
4)「新記録!大記録!みごとだ!おめでとう」と笑顔で絶叫する時間・・・・4秒
5)絶叫後から賞状を渡すまで・・・・7秒
6)自ら重たい内閣総理大臣杯を抱えてよろけながらも朝青龍に渡すまで・・・・8秒

「首相動静」によるとこの日、福岡国際センターで観戦を始めたのは4時44分から。北の湖理事長と会って去るのが5時23分。通算して約40分の滞在だった。
賞状と杯を渡した時の姿はすっかり白髪となったなかで首筋あたりにわずかに残る薄い黒色と連続する類似色のスーツと目立ちはしないが一体感のある出で立ちである。

つくづく上手いものだと驚嘆した。授与に立ち会った理由として年初に朝青龍と年6場所を制覇したら行くと約束していたと首相は記者団に語った。6場所制覇は前日に確定している。もし千秋楽にまでもつれ込んだら朝青龍が優勝を逃す危険性もあった。だからこそ絶対に確実なこの日は断じて来るべきだったのだ。
1)から6)までの動作もいちいち感心する。

1)の7秒でまず観客の拍手を集める。
2)は本来の表彰の趣旨から考えれば最も大切な場面だが単調な読み上げでもある。そこに26秒かけてもニュースではカットされるか一部を映されてナレーションをかぶせられるに違いない。

そこで4)の絶叫パフォーマンスを加えた。案の定ここの部分は何度も報道された。たった4秒しかないのだから手短なニュースでもすべて映す。というかカットしようがない。
そのために重要なのが3)のポーズである。大拍手の間に「新記録!・・・・」と言ってもマイクはきれいに拾えない。だから6秒も待った。

「新記録!大記録!みごとだ!おめでとう」は変な並びである。「新記録!大記録!」は何をさしているのかわからない。冒頭で紹介したように該当する記録は3つあるからだ。
「みごとだ」との言い方は目上から目下に、上司から部下にかけるねぎらいである。ここで首相はさりげなく「新記録!大記録!」と称えている当の本人よりも自分は上位にあると民草に知らしめる。
しかしそれで終わると何やら威張っている様となるから最後に「おめでとう」と付け加えているわけだ。
さらに念の入ったことに6)の8秒がある。重い杯を持ち上げてまで渡そうとする真摯さ。軽々と受け取る力人との腕力の差を満場に示して敬意を持っているを示す神妙さ。コイズミという人物の凄さ・深さ・真面目さをちょうど1分で遺憾なく伝えきるわけだ。

サウンドバイトという言葉は元々は1990年代のクリントン大統領時代頃から主にメディア用語として使われるようになったと記憶する。映像メディアが新聞の見出しのごとく政治家の言葉の主要部分を数秒で片づけてしまう手法だ。
ところがクリントン大統領はメディア側がやっていた引用や要約を自分のものとして発信した。つまり自らが短い言葉で殺し文句を連発し始めたのだ。政治家自身が見出し以上の言葉を発しないから特にテレビメディアはそれを丸ごと使うしかない。
大宅映一が喝破したようにテレビは時間的制約がある以上、人に十分な情報を与えることはかなわず、必ず愚かにする。しかしサウンドバイトで逆手を取ると制約のなかでも数秒だけは絵と音が必要になるので、そこだけを埋めてやればメディアは大喜びというわけだ。
なかには怪しい演出と見抜く者がいても絵と音を埋める作業をしないと成立しないので流すしかない。

ただ小泉首相の場合は単なるサウンドバイトではない。衣装、ポーズ(間)、カットされる可能性のある絵での動きなどがすべてセットなのである。
殺し文句が短くわかりやすくなければならないとしたら「新記録!大記録!みごとだ!おめでとう」は前者は満たしていても後者は前述のように満たしていない。補足の言葉が10倍ぐらい必要である。その点では蕪村あたりの俳諧に近い。

首相が音楽や観劇に通じているから上手いというのは疑問である。事実レーガン元大統領は俳優やアナウンス出身でありうながらサウンドバイトにはほど遠かった。
むしろ政治の師匠である福田赳夫から学んだか。「昭和元禄」「狂乱物価」「天の声」「全治3年」「人命は地球より重い」などの名文句を得意とした彼の側近にあって言葉の繰り出し方を覚えたのかもしれない。ただし師匠は民草への直接訴求は下手だったのでそこは補った。
となると福田がかなわなかった人物である田中角栄や、その角栄を追い落とした立花隆が小泉打倒の参考になる。角栄の人気は人柄にあった。「地に塩」風のそれである。野党第一党の民主党にも自民党の首相後継候補とされる数人にもみごとなほど見当たらない。
となると立花隆みたいにネチネチ・ゴリゴリと攻め立てるといい。クリントンがそうだったようにサウンドバイトは守りには通じないから。
その能力がある政治家は菅直人衆議院議員である。首相自ら唯一の失言と認める「大したことはない」発言は彼がネチネチやって引き出した。菅氏の政敵に対する挑発は実に意地悪く芸術の域にさえある。しかし彼は今や逼塞状態にある。

実は私がこのブログでやろうとしているのもネチネチである。今の潮流とまったく合わない手法であるからやるのだ。内閣総理大臣杯を渡すパフォーマンスだけをとらえてネチネチとこんな文章を書いてやる。
どうせ誰も読んではくれまい。時代がそうなのだから。だからやるのだ。断じてね。

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