「姉歯物件」購入者に同情すべきか
むろん同情の余地はある。ただなあ・・・・。個々の事情もさまざまで本当に気の毒な方もいらっしゃるだろうし、基本的には被害者だから「欲の皮vs化けの皮」のせめぎ合いとまでは言わないけれど・・・・
最初に懺悔から。フリーランスで仕事をやっていた頃に首都圏郊外を拠点とする分譲住宅販売会社からPR誌の取材・執筆の仕事を受けた。
取材といってもその会社が指定する「不動産の専門家」のインタビューが中心だ。
取材対象者は同じであれば違う場合もあったが口をそろえていうのは「今が底」だった。「地価も下げ止まり建築費用も安く調達できるようになった。金利も低い。これだけの好条件がそろえば必ず住宅取得価格は上昇に転じる」というような内容である。
しかし「今が底」原稿が掲載された翌月にはさらに下がっていった。郊外は特にである。そこでその事実を踏まえて同じ取材をすると「だからこそ、今が底」という話になるのだ。
結果として読者を欺いてしまった。
この論理に問題があるのは現に地価が下がっている理由を追求せずに「下がるはずがない地価がここまで下がったから上昇に転じるはずだ」というトートロジーの変形版だった点であろう。「金利が低い」も同様で低下した理由を動機にすり替えていたわけだ。
1級建築士が耐震構造計算における強度を偽装していた問題で真っ先に思いついたのは「まさか!」であった。ただ「まさかそんなことが起こるなんて」のまさかではない。
先のような原稿を書いていた頃に私は関連してかなりの不動産・住宅建築・販売の取材をしていたが多くはかなり怪しげであった。
むろん良心的な会社もあるに違いない。でも私自身が「今が底」インタビューを書き綴っていたように手抜き工事やら劣化した資材の使用やら建築確認のすり抜け方までさまざまなうわさ話を聞いた。石綿をブンブン吹き付ける現場もみた。
だから先述のまさかは「まさかそんなことがバレるなんて」である。1人の1級建築士だけが起こした特殊な不祥事で止まっているはずがない。現場で聞いた感触では大なり小なり他にもあるはずである。
「姉歯物件」の被害に遭った人達は何故事前に十分に調べなかったのか不思議である。私が取材した頃はそうでもなかったが現在は廉価で調べてくれる建築士や団体が多数あるのだから購入前に調べるのが普通であろう。
そう思ってこの1週間ほど最近分譲住宅(戸建て・マンションとも)を購入した人に聞き取りをし始めたところ驚いたことに現在1人も事前調査をした人がいない。これが2つ目の「まさか」である。
よくいわれることだが庶民にとって住宅の購入は生涯で最も高い買い物であろう。バーゲンの安物から少しでも良い品を選ぶ時には目を血走らせ、皿のようにして漁るのに人生最高値の買い物を不見転でするは不可解の極みである。
何よりも「まさか」なのは大半がキャッシュではなくローン、しかも超長期のローンを組んで取得している点だ。30年なんてザラだ。こんなことに驚いていることに驚いている人がいることにまた驚く。
30歳の人が30年ローンを組むと60歳となる。いかな年月か。1975年から今年まで何があったで想像しよう。ソ連はその間になくなってしまった。CarpentersやOlivia Newton-Johnがアイドルだった。ホリエモンは幼児だった。都市銀行・長期信用銀行が20近くあった。東京メトロに冷房はなかった。すぐにでも固定相場制に戻れるとまだ思っていた。バブルが来て去った。日本社会党が野党第一党だった。王貞治と野村克也が現役だった。朝青龍もタイゾーも生まれていない。
30年前に30年後の今を予測するのが困難なように30年後など誰にもわからない。それをローンで約束するなど私には信じられない。というか怖くてできない。
しかも金利が低位にあるとはいえローン分がキャッシュでポンと買うよりウンと高くつくのは当然である。それで潤う輩を30年間安心させるだけである。
現在、特に東京都心部で地価上昇の分譲住宅の価格高騰がみられる。仕掛けにファンドがあるのは明らかである。奴らの自作自演に踊らされてはならない。
ここに石油で大もうけした輩が便乗しよう。原油高は買う者を苦しめたが売る者はもうけたのである。原油でもうけるタイプは金転がしぐらいしか頭に浮かぶまい。よって自らファンドになるか既存のファンドに融通する。
だから短期的には価格は上昇するし庶民は焦る。でもそれが彼らの狙い。高値と見るや売り抜けてババをつかむのは「不見転長期ローン庶民」である。そんな環境下で安い物件があること自体が本来は不自然である。欠陥があった方が論理的にはつじつまが合う。
特定市街化区域農地の宅地並課税も徐々に威力を発揮していくだろう。驚くべきことに税を払って赤字経営をしている農家は現在でも半数近くはある。ただ代替わりで相続税と分割相続と跡継ぎ不足が絡めば放棄を一斉に後押しよう。
その上で人口減少が重なるから将来的に(30年ローンは将来だろう)価格の高騰が続くはずはないのだ。何を焦るのか。
住めればいいじゃん!立って半畳寝て1畳。そういうと「お前は独身だから」と反論されそうだが私はこれまで誰一人として結婚を勧めた覚えはない。
だから勝手に結婚して勝手に子どもをつくって勝手に「一国一城の主」(笑)にならねばと気負って将来の子どもの成長を考えて広めのマンションを買うものの「主」本人の将来は大丈夫だと勝手に決め込んで30年もの支払いを約束してローン会社をもうけさせる人の気持ちはわからなくても責められる筋合いはない。
ましてや公的資金での救済など断固反対である。だったら新潟県中越地震の被災者を救ってやれよ。民間と民間の問題であって水俣病患者とチッソの時とは全然違う。誰も彼も甘えるのはいい加減にするといい。
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コメント
問題の建物すべてを補強・改築するのでなく、倒壊しても比較的周囲に影響の少ないマンションを1棟をそのまま残し、本件の責任者連中およびその家族に住んで生活していただくと良いのでは?自信をもって設計し建築し販売したのでしょうから(さもなければ、お金を受け取ることを良心が許すはずありませんしね)、自信をもって住んでいただきましょう。
「嘘つきは泥棒の始まり」と昔は親が子供に教えていたのですが、今では教えていないみたいですね。
投稿: いざりうお | 2005年11月28日 (月) 22時31分