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2005年10月29日 (土)

歌は世に連れるのか(下)

本日は戦後の曲を紹介する

●青い山脈
敗戦の4年後の1949年にヒット。作詞は西条八十、作曲は服部良一で藤山一郎と奈良光枝が歌った。「りんごの歌」と並んで敗戦直後の代表的なヒット曲である。
戦争が終わって明るくなった世相を背景に、「夢」や「花」といった伸びやかなイメージが歌詞に並んでいる。なかでも注目されるのは2番の冒頭で、「古い上着」に別れを告げるという内容になっている。
歌詞に曲をかぶせると、いかにも軽やかに「古い上着」を脱ぎ捨てているという印象を受ける。戦中に「一億火の玉」などと力が入りまくっていた「古い」時代をこう簡単に脱ぎ捨てられるのかというほどに軽やかなのだ。それが日本人のいいところなのか悪いところなのか、考えさせられる。

●ハチのムサシは死んだのさ
1971年に発表されて翌年に大ヒット。作詞は内田良平、作曲は平田隆夫で、平田隆夫とセルスタ-ズが歌った。
タイトルにある「ハチのムサシ」は血気にはやる性格で、小さな身体を省みず太陽に挑戦する。結果は見るも無惨で、文字通り燃え尽きて死んでしまう。でもムサシの死に関係なく世の中は何ごともなかったかのように続いていくのだ。
この頃はかなりの数の学生が日米安全保障条約の改定に反対する学生運動を起こしていた。しかし激しい反対運動にも関わらず条約は70年に自動延長され、反対運動に参加した多くの学生は無力感に襲われる一方、さらに過激な活動に走る少数の者もあった。彼らが起こしたのが71年のよど号ハイジャック事件であり、この曲がヒットした72年のあさま山荘事件だった。
学生運動の敗北感と、一つの時代の区切りを自らつけようという主体性の両方が感じ取れる曲といえよう。

●傘がない
同じ1972年にヒットした井上陽水作詞、作曲、歌。マスコミが大きな事件や政治問題を報じているが、そんなことよりも、雨天の今日、恋人の女性に会いに行きたいのに肝心の傘がみつからないという状況を切々と嘆いている曲である。
学生運動に代表される「若者の政治の季節」が終わり、それよりも身の回りの関係を大切にしていこうという気風が大きくなってきたことを如実に物語る曲として、当時から大きな話題になった。同じようなモチーフは75年にバンバンが歌ってヒットした「いちご白書をもう一度」にも見られる。作詞、作曲はユーミンこと荒井(現姓は松任谷)由実。

●めだかの兄弟
82年末にリリースされて主に83年にヒット。作詞は荒木とよひさ、作曲は三木たかしで、「わらべ」という名の少女3人のユニットが歌った。
歌詞は、「めだかの兄弟」が将来の夢を語り合うものの、成長したらめだか以上にはなれなかったという内容。少女が歌った童謡風の曲だったこともあり、将来に大きな夢を抱けなくなった子ども達の息苦しさを代弁した歌詞だという解説もあった。
70年代末から80年代にかけては、多くの校内暴力が社会問題化し、その一因が「詰め込み教育」にあるとも指摘されていた時代だった。武田鉄矢主演のドラマ「3年B組金八先生」は、1980年に放映が開始されたが、その多くが落ちこぼれや校内、家庭内暴力をモチーフにしていた。曲がヒットした83年には、東京の中学校で暴力を振るう生徒を先生が刺すという衝撃的な事件が発生している。
こうした教育問題を背景に80年からは、それまで難化の一方だった教育を改めた「ゆとり教育カリキュラム」が始まった。今まさに議論の中心にいる「ゆとり」の原点を考えるとき、考えさせられる一曲である。

●大きな古時計
2002年にヒットした「大きな古時計」で、平井堅が歌ったアメリカの古い童謡である。
歌詞は祖父の誕生と同時に新品として家にやってきた「大きな古時計」が祖父の死後も動き続けたが、100年たって動かなくなって、それでも家に置かれて一定の存在感を保っているという内容だ。
この曲は童謡として日本でもずいぶん前から歌われていたが、ここで改めてヒットしたのはなぜでか。現代は戦後営々と築き上げてきた経済中心の繁栄が止まり、先が見えなくなっている。経済成長は今の若者の祖父の世代が主に担ってきた。彼らの多くはやがて平均寿命に達する。少し上の敗戦直後で中堅だった者はもう80代以上。祖父が残した古時計はもうすぐ止まってしまう。それを懐かしむ歌を若者が支持するのはどういう意味が込められているのか。

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