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2005年10月27日 (木)

ハンセン病訴訟と裁判所の役割

昨日に引き続きハンセン病補償法(ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律)について考える。
同法は第一条に法律を適用する主語として「ハンセン病療養所入所者等」とある。ではこの「ハンセン病療養所入所者等」とは何かというと第二条の「定義」で

・国立ハンセン病療養所
・その他の厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所

の入所者をさすとされた。
そして第十二条で「この法律に定めるもののほか、補償金の支給の手続その他の必要な事項は、厚生労働省令で定める」とある。

そこで厚生労働省は「厚生労働省告示第二百二十四号」で「第二条の規定に基づき、厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所」を定めている。同告示には「ハンセン病療養所」を5つに分類して規定しているが韓国や台湾の療養所に関する明文規定はない。といって否定してもいない。

民事裁判で争ったということは原告・被告双方に言い分があるからだ。民事の場合は法律にどのような解釈をするかが問題になる。今回の訴訟はピタリと当てはまる判例は存在しない。また民事全体の約3割を占める和解とならないまま判決に持ちこまれたということは被告が譲らなかったと考えていい。

こうなると裁判は文字通り民事訴訟法第247条の「裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する」という自由心証主義に基づいて行うしかない。韓国と台湾の訴えは極めてよく似ているが全く同じでもない。また裁判官の心証が違ってもおかしくはなく、むしろ違いが全然なければ民事訴訟法違反の可能性さえ出てくる。

確かに原告の訴えを認めた東京地裁民事38部の判断の方が退けた民事3部よりも妥当であると私も思う。韓国側の原告団の方は誠にお気の毒である。だが、だからといって違った判断が出たこと自体を批判するのはおかしい。自由心証主義が揺らいだら裁判全体の信頼性が失われるからだ。

民事裁判の数は膨大である。司法記者でさえすべてを把握しているわけでもなく懇意にしている事務官に「面白いの何かない?」などと聞いて拾っていく。記者はそれでいいが裁判官は「何かない?」などという甘い取り組みでいい訳がなく百科事典のような資料を読みまくって法廷を開いて・・・・と「オレにはとても無理だ」という作業量をこなしている。
「裁判官からは抜けない」のも常識である。刑事事件の場合だったら検察官が時折もらしてくれることがある。もっともこれはこれで大変危険ではあるが。民事・刑事ともに情報源になるのは弁護士だ。本当は裁判官が「こうするつもりだ」と漏らしてくれれば最高だが不可能に近い。ましてや今回のような大ニュースではなおさらである。それだけ裁判官は孤独に黙して最後に決断する。
例外は最高裁か。といっても最高裁の場合は裁判官から抜けるというのではなく態度でどうなるか想像がつくのである。例えば「弁論を開く」と決定すれば「高裁までの原判決を見直す」と同義である、といった具合に。

ただし判断の分かれたポイントに「立法趣旨」があるのは気になる。前述のようにハンセン病補償法は「厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所」を含み「必要な事項は、厚生労働省令で定める」。
「省令」とはこの場合、国家行政組織法に基づいて厚生労働大臣が発する権限がある命令である。それらを一般の人が知りうる状態におく行為や形式が「告示」であり、それらに旧植民地の「療養所」を触れていない、または明白に「国立療養所だった」とか「大臣が定める療養所だ」とない以上は「法の趣旨なのか」という疑いを入れる合理的な理由が生じてしまう。

省令や告示はいうまでもなく法律を越えてはいけない。それらに中国や韓国の「療養所」が含まれていないのは、そうすると法律を越えてしまう、つまり「立法趣旨」にもとると判断すれば民事3部の判断もわかる。逆に越えもしないのに大臣が告示しなかっただけだとなれば民事38部の判決でいい。ハンセン病補償法は議員立法であるから「立法趣旨」はより重いテーマとなろう。

大臣の権限でできることなのだから救済すべきだとしたら厚生労働大臣が決断すれば終わりだ。裁判もしなくてすむ。今の厚労相は尾辻秀久参議院議員だ。ホームページによると英霊顕彰運動を推進し「我が国に対する一方的な断罪と自虐的な歴史認識を是正」するのが政策だそうな。ダメだこりゃ

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