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2005年10月13日 (木)

第73帝国議会と共謀罪

現在の特別会の審議を見ていると1937年12月から翌年3月まで開かれた帝国議会第73通常会を思い出さずにはいられない。

同議会は政府提出法案86件をことごとく成立させた。その大部分が政府原案のままの通過である。不人気であった前任の林銑十郎首相の後を襲った第1次近衛文麿首相のもとでの出来事である。
この86件のなかには後年、国民の立法権と基本的人権を根こそぎ奪ったと非難される国家総動員法が含まれていた。ところが同法によって存在理由が否定されるに等しい政党の反発は実に弱く国民の関心も低かった。なにしろ「人的物的資源」すなわち何もかもを「勅令の定るところ」つまり議会の承認を必要とせずに動員できるという内容なのに、である。かろうじて立憲民政党の斎藤隆夫と立憲政友会の牧野良三が批判した程度で、民政・政友両党ともこの頃からうわさされていた近衛による新党案に期待して他愛なく自己否定の道を選んだのである。
第73通常会で最もホットな議論となったのは電力国家管理法であった。民営の電力会社を国家の管理下に置いて、新たに発電と送電を行う「日本発送電株式会社」を設立するという案である。東邦電力を経営する松永安左エ門らは激しく抵抗し、既得権の維持を自らの基盤とした民政・政友両党も反対や修正などで強い態度で臨んだ。結局は両院協議会で妥協が成立して可決成立する。

電力国家管理法は統制経済へ傾斜する流れの中で、いわば「民から官」への「改革」だった。現在の郵政民営化関連法案とはベクトルは逆だが「改革」をうたっている点と首相が人気者である点、抵抗勢力が存在していた点などで酷似する。

そして次に書くことが重要なのだが第73通常会の最中には電力国家管理法に隠れてごく一部の反対者を除けば大した議論にさえならなかった国家総動員法が成立したことだ。今の視点から歴史をさかのぼれば国家総動員法の方が電力国家管理法などより数千倍害のある立法だったとわかる。しかし最中にはソヨとした反対論があるだけで可決成立してしまったのである。電力国家管理法も郵政民営化関連法案もカラ騒ぎとまでは言わないが喧噪にまぎれて超弩級の悪法が成立しようとしているとしたら。これは声を大にして言わねばなるまい。

その名を「共謀罪」という。放っておくと国家総動員法と同様に国民的関心を引かないままヒッソリと、しかし確実に成立して国民の基本的人権を決定的に踏みにじることになろう。

共謀罪は「表現の自由」を根底から覆して人権を徹底的に蹂躙する悪法である。反対者は1925年に成立した治安維持法との類似点を指摘している。主に共産主義者をねらい打った治安維持法は結局はマルクスとは縁もゆかりもない人々をも縛り付けた。そこには「表現の自由」を用いて「表現の自由」を封じ込める輩が暗躍する。蓑田胸喜などが代表的存在だ。そうした獅子身中の虫が現代にいるか。いるであろう。
蓑田のごとき道化を利用して共謀罪の「国際組織犯罪防止」という名目を治維法の共産主義者取り締まりと同じように形骸化させ拡大していくのは明らかだ。考えすぎとはいわせない。そうした歴史が歴としてあるのだから。治維法の「情ヲ知リテ之ニ加入シタル者」から共謀罪を連想しない方が難しい。「デートもできない警職法」どころの騒ぎではない

共謀罪とはうまいネーミングだ。多くは共謀共同正犯とだぶらせるが両者はまったく異なる。未遂罪と勘違いする向きもあろうが違う。予備罪には近いがオウム真理教徒の一斉摘発で公安が殺人予備罪を適用するような例外は見当たるが、まさに公安手法による例外である。だがこうした議論が深まる雰囲気でないのを深く憂慮する。斎藤隆夫の名演説を拝借すれば「国際組織犯罪防止」の「美名ニ隠レテ」途方もない失敗をしつつあるのだ。

私は戦前世代を嗤ってきた。自らの自由を放棄して愚かな戦争をして敗北したことを嗤った。だが彼らは「法律ノ範囲内」の自由しかなかったのに対して我らは表現の自由と基本的人権を認める憲法を手にしている。にも関わらず第73通常会の国家総動員法のようにエアポケットに入ったがごとく共謀罪の可決成立を見たならば後世からより大きな嘲笑を買うであろう。しかも我らは今の国会に斎藤隆夫に相当する人材を1人として送り込んでいない。

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  趣味の同好会やサークル活動、ネット上のML仲間やBlogリンク・グループなどがいともたやすく濡れ衣で摘発される可能性が出てくるとして与党内からも猛反発を受け、政府は、10月19日に「共謀罪」(法案名称=犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)の今国会での成立を断念しました。しかし、政府は引き続き次期国会での成立を目指すとしています。   何故に、政府及び与党の一部はかくも執拗に「共謀罪」の成立を図ろうとするのでしょうか?、又、主にどのような... [続きを読む]

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