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2005年9月20日 (火)

Springsteenの新作と枕草子

遅まきながら今春発売されたBruce Springsteenの新作アルバムDEVILS & DUSTを聴く。これまで聴く気になれなかったのはやはり昨年の「反ブッシュ」を鮮明にした「変化のための投票ツアー」(Vote for Change Tour)を大統領選での激戦州で行い、にもかかわらずブッシュが大勝したことが引っかかっていたからだ。単一の賛否がわかれる問題(大統領選ならばイラク戦争継続の是非)に対して人は野蛮でも断行する者を支持するのか。その前にBruceでさえピエロになってしまうのか。自分でもわからなかった。

聴かなければならないと思い返したのは05年9月の衆議院議員総選挙で自民党が圧勝したからだ。「単一の賛否がわかれる問題に対して人は野蛮でも断行する者を支持する」を日本でも如実に示された。もう対岸の火事ではいられない。

当ブログをお読みいただいている皆様はご承知であろうが私は今回の総選挙をどう考えていいか悩んでいる。あれはいったい何だったのか。

Vote for Change TourはBruceがニューヨーク・タイムズ紙やローリング・ストーン誌などで「反ブッシュ」を掲げて始まる。1975年のデビュー以来の言動を多少とも知る者はこの行動に驚いた。
まず彼はすでに大御所の位置にあって今さら政治的パフォーマンスをする必要がない。ビジネスだけでいえばむしろ損であるはずだ。実際に55歳になるこの日までBruceが政治的活動をしたこともなかった。それどころか「Bruceは実は共和党寄り」との推測さえあった。代表曲の1つである“Born In The U.S.A.”を以前の大統領選挙で共和党候補が支持者集会に使用したり、9.11テロの後に開かれたチャリティーコンサートで未発表だった新曲“My City Of Ruins”(廃墟となった私の街)を冒頭で歌い“Come on rise up”(さあ立ち上がれ!)と連呼している。

彼のデビュー以来の曲の歌詞を読んでいると、他の作詞家が決して使いそうもない言葉が多数出てくる。“union card”(労働組合員証)“D.A.”(地方検察局)“gamblin'commission”(賭博委員会)“V.A.”(退役軍人管理局)“penitentiary”(刑務所)“foreman”(工場長)などなど。そして歌詞の主人公は主に“construction”(建設会社)“refinery”(製油所)“textile”(繊維工場)などで働く、ないしは働いていた労働者で、育ったふるさとは“My City Of Ruins”の状態で職はなく、仕方なしに“getting out”してきて大都会に出てきたものの失業したり“lookin'for a job”(仕事探し)もうまくいかなかったりして“loser”(敗北者)“deep”(借金漬け)となってしまう、一生懸命だけれども寂しくて、上手くいかなくて、それでも精一杯生きようとして・・・・という人たち。

裏通りでだけ許されるヒーローやヒロインを訴えるような声質や荒っぽいけれども精力的なメロディで歌い上げると、まさに主人公たちが生活の舞台としている「現場」感が鮮やかに浮かび上がる。決して悲壮ではなくて娯楽性のある楽曲としても高い質を保っている実に珍しい、おそらくBruce以外では作り出せない独特の空間が広がる。

彼が政治活動をしてこなかった理由を次のように推測していた。自分の曲で主人公とする人の多くは彼の曲を聴いて癒される。何しろBruceがいなければ誰も主題としないのだから。おそらく彼自身もそれで十分と考えていたのであろう、と。
それが昨冬の大統領選で翻したのはなぜか。ニューヨーク・タイムズ紙には「(ブッシュ政権は)米国の価値観からあまりにかけ離れたところにある」と批判し、ローリング・ストーン誌には「誤った方向に導かれたと感じている。現政権は基本的に不誠実であり、脅したり、ごまかして米国人をイラク戦争に駆り立てた」と述べたとされる。

Bruceの曲に出てくる労働者階級や低所得者層はしばしばアメリカのつらい現実に正面から向かい合わなければならない。ベトナム戦争で“kill the yellow man”(黄色人種を殺した)経験や“my high school ”(私の高校)で“there was a lot of fights between the black and white”(黒人と白人の間で多数のケンカがあった)思い出の持ち主などが多数登場。それでも、いわば「自己責任」のような形で問題を問い返すのがBruceの世界の特長だったのだが、彼らを「イラクには大量破壊兵器がある」「ごまかし」で戦争に「駆り立てた」ことは許せない。もはや「自己責任」や癒しのレベルを超えたと考えたのだろうか。

でも彼の政治活動は敗北し翌年春にDEVILS & DUSTを出した。結論からいうとアコースティックギター中心のシンプル極まるこのアルバムに商業的成功は望めそうもない。損を承知でやった政治活動の結末を自ら付けているようである。詩も表題作以外は裏読みしない限りブッシュ政権へのあてつけは感じられない。ただただ象徴的で原点に戻ったように静かに裏通りのヒーローとヒロインを優しく拾い上げている。まるで一文無しの若手のアルバムのように。
こうした方法こそ最も有効かもしれない。泣き言も恨み節もなく象徴的にシンプルに。全部捨て去って何もないところから足下を見つめてみよう、と。

清少納言の『枕草子』は仕えていた中宮藤原定子とそれに連なる藤原伊周陣営がライバルの藤原道長-彰子陣営に決定的な差をつけられ、なおかつ味方のはずの伊周陣営にまで疑われるという四面楚歌の中で書かれた。だが内容に恨み節は一言もない。みごとなぐらいに見当たらない。政治活動に敗れた表現者は泣きもしなければ恨みもしない。ただただ真っ直ぐに曇りのない目で現実をみる。

私も立ち戻ろうと思う。小誌は「弱者・少数者の側に立つ」が編集方針だ。自民が圧勝しようがどうであろうが彼ら彼女らの生活が劇的に変わるわけではない。ヒステリックに叫ぶだけというのは止めよう。ただ私はBruceのような大御所ではないから静かにはしないつもりだ。奴らが嫌がる音がするものがあれば所構わずガンガンやってやる。

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