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2005年9月17日 (土)

朝日新聞「検証 虚偽メモ問題」を検証

05年9月15日付「朝日新聞」の「検証 虚偽メモ問題」を深い想いで読んだ。
まず知らなかったことの訂正から。「総局」というから支局よりも上の位置づけだと勝手に思い込んでいたが朝日新聞は04年1月から都道府県庁所在地の支局を総局と改称している。要するに「親支局」を朝日は独自に総局と呼んでいるのであって実態は読売・毎日の「親支局」と同じ位置づけであった。

1)政治部からの「お願い」メール
政治部の政党担当デスクから与党キャップ、当番の内勤デスクを通して長野総局に当てられた「お願いメール」は確かに検証のようにあいまいさをはらんでいた。ただ総局員の印象は濃淡が出る。
「淡」は「総局長は『東京の話だからね』と(N記者に)答えた」に代表される。切迫感がないのは総局の役割が基本的には県版の作成にあるからだ。
だが「濃」もある。「政治部」が発信元になって「亀井静香元政調会長が・・・・模様です」とあれば相当な確度で政治部より細かくいえば「平河クラブ」が情報を握っていると総局員は考える。「模様」という表現は最終的な確認が取れないまま記事にする際に使用する語尾なので疑ってもおかしくないともいえるが後に「昨日夜、『亀井氏周辺』への取材で情報を把握しました」は皮肉にも決定的な印象をメールを受け取った人間に与える。当事者のうち片方を「平河クラブ」が押さえているんだという安心感だ。

2)N記者による虚偽メモの作成
少し驚いたのは「政治部出身」の「総局長が当番のデスク」だったこと。私は毎日新聞浦和(現さいたま)支局で働いた経験があるが支局長(政治部出身だった)は「デスク」の実務には携わらずデスクと三席が担当していた。県版の出稿先には地方版編集デスクがいて校閲や整理本部にもつながっていた。
しかし「検証」によると「朝日新聞では96年春から段階的に本社内の校閲部門をスリム化した。総局から出稿された地域面の記事はすべて総局の記者がチェックする体制になっている。長野総局でも校閲作業は泊まり勤務の重要な仕事の一つで、デスクが目を通して出稿した記事を印字し、執筆者がファクスで送ってきた資料などをもとに点検する」とある。これは重大な任務である。

当ブログで私はかつて泊まり勤務など重要な案件を抱えていれば交代できるはずと指摘したが「校閲作業は泊まり勤務の重要な仕事」となれば話は別だ。「午後5時までに総局に戻ることが決められていた」ら守らなければなるまいし「泊まり勤務席」まであるならば単なる事件警戒では収まらない。私の経験では「泊まり勤務席」など決まっていなかった。「デスク席のほぼ正面」ということは三席のポジションだ。

本社に上がる前の総局(支局)員とて願わくば自分の記事を本紙で扱ってほしい。だから政治部からの「お願い」はチャンスである。しかし県版の校閲作業まで総局の役割とすると一転「荷が重い」と感じても仕方がない。そこに虚が生じたのではあるまいか。「N記者との一問一答」の「校閲作業などで忙しいこともあり、ちょっと取り繕っておけばという気持ちの方が強かった」に感じるものがある。

政治部出身の総局長から「政治部のメモのこと、なんか言ってた?」と声をかけられたN記者は「はい」と答えて冒頭のメールの「模様」情報を「ほぼ裏付けられた内容だと思い込んで」「これまでの定例知事会見での発言を念頭に」「わずか10分ほどで」「虚偽メモ」を作成して「与党キャップにメールを送信、総局長と県政キャップにも同時に送った」。「総局長は問題のメモをまだ見ていなかった」段階で「さっきのメモ、書いてもいいよな」と確認、N記者は「ええ」と答えた。「N記者のメモを初めて読んだ」後の総局長も「田中知事、意外としゃべってるじゃないか」と指摘して「ええ、まあ」というN記者の発言でよしとしている。

ここに5年生記者の立場と本人および周囲の油断がある。「検証」にある「取材体制」では総局記者のうち「指導役の中堅記者」と県政キャップの次がN記者であろう。63歳の嘱託記者を除く7人のうち上から3番目で下から4番目となる。新入りの記者からみると5年生は仰ぎ見るような存在だ。総局長もかなりの信頼を寄せていたと思われる。本人もそれは無意識にわかっていたはずだ。

やはり総局長はデスクワークをすべきでない。長野総局長にその能力がなかったという意味ではなく兼務していると重みが違う。これがデスクだったら「なんか言ってた?」といわれて「あれは聞かなければいけなかったんですか?」ぐらいの会話で止まったかもしれない。後輩からは仰ぎ見られる5年生が総局長から「なんか言ってた?」と聞かれるとそうは答えにくいものだ。逆に新入りならば信用されていないし「わずか10分ほどで」「虚偽メモ」を作ること自体ができない。できてしまう程度の能力が備わっていたのが不幸であった。

3)虚偽メモを使った記事の掲載
「もっとも、政治部が作ろうとしていた原稿は、田中知事を党首に担いだ新党結成の動きだ」。この時点で「お願いメール」を出した時とすでに意味合いが決定的に異なっている。だが「虚偽メモ」は前提条件の変化に関わらず存在して違った意味合いを持ち始めた。
このことが「虚偽メモ」にはいったん幸いする。「記事の末尾に添えられる小さな扱いとなった」からだ。「長野県内で」という記載だけが問題となった。ところがその記事が「新しいシステム」では総局に自動的にはバックしてこないという。ここは痛かった。ここで確認しておけばメモの信頼性は見破れたし「長野県内で」を削除しただけで記事も成立したからだ。機械やシステムに頼る恐さをみる。

N記者は泊まり明けから解放されないまま翌日の勤務についた。驚いた。毎日新聞ならば当たり前でも(ゴメンね毎日)朝日もそうだったとは。明けのままの勤務はつらい。そこに「虚偽メモ」内容満載の大刷りが今度は届く。N記者は「頭が真っ白になった」が事実を打ち明けなかった。その理由として「社会面の記事と地域面の記事を執筆してヘトヘト」というのは正直なところであろう。
何度も告白するが私は駆け出しで逃亡した元二等兵記者である。泊まり勤務明けをもろともしない屈強な毎日の先輩にはかなわないと心底思った。今でも泊まりの際に電話がなる「悪夢」を見る。

とはいえ問題の本質はメールという形で総局長や総局デスクの頭越しで記事が政治部にわたったことだろう。「N記者との一問一答」の「これまでは原稿をくれと言われて自分で書いてデスクを通して送ることが多かったです。紙面に掲載される前に、本社から必ず確認のファクスなどが送られてきて、不安だったら、もう一度電話取材などをしました。事前に政治部から確認が来るとも思っていました。まさかメールひとつが(本社と)やりとりしないまま丸々使われるとは、知りませんでした」は本心で核心でもある。

それは記事ではなくメモであった。「デスクを通し」た「原稿」でない。総局長や総局デスクにも同じことはいえてメモならば「業務の範囲外」とまでは思っていないにせよ曖昧であったのは間違いあるまい。
「政治部の原稿作成の慣行で、同僚のメモの性格を細かく問い合わせることはほとんどしない」とあるがそれは政治部記者同士の場合であろう。しかも政治部自身が「亀井・田中会談の事実を確認できていなかった」「場所や会談内容までを詰めることはできなかった」わけだから総局員のメモに頼ったアンカーの責任は大きい。
私はむしろ「大刷りを見たとき、政治部がきちんと取材をして、何らかの確認をしているだろうと勝手に思っていました」とするN記者の方にシンパシーを感じる。亀井氏側に裏を取ら(取れ)ないまま総局員のメモで記事化したところに決定的な錯誤があった。その罪に比べればN記者の「虚偽メモ」作成はむしろ軽いのではなかろうか。

4)検証を終えて
「総局の若い記者たちにとって、本社編集局は『顔の見えない遠い存在』との声が検証の過程で多く聞かれました。この風通しの悪さも、背景にあったように思われます」とあるが私はそうは思わない。本社編集局が「顔の見える近い存在」であっていいわけなかろう。「顔の見えない遠い存在」とは偉大だということである。事実として「本社編集局」は特に本社に上がる前の総支局員にとって偉大であるべきだ。今回の問題は「本社編集局」が偉大でなかったから発生した。少なくともそうであれば未然に食い止められた。

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コメント

時期はずれ?のコメントとTBありがとうございます。こちらのブログに来て私が以前TBしていたことを知りました。あの時は、いっぺんにあっちこっちにTBしたものだから、こちらにしたのを覚えてませんでした。今回、ゆっくり読ませてもらいました(^_^;)
二回TBがあったので間違いかと思ったら、虚偽メモがらみの記事が二つあったようです。虚偽メモの後はNHKの放火記者ですか。今後もこういうことは起こりそうですが、NHKと朝日に集中している観があるのはなぜですかね?

投稿: 田中県政追撃コラム 発行人 | 2005年11月23日 (水) 23時45分

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 先ほど、朝日新聞の検証記事のweb版を読み終えたんですが、非常に不快感でいっぱいです。 [続きを読む]

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» 朝日「虚偽メモ事件」深層 [=田中県政追撃コラム&取材メモ=]
長野県庁を足場にして田中県政を五年も取材しているので、その体験からこの問題について他の人より語れる部分があるのではないかと思う。私が掴んだこれまで知られていない若干の新事実などを盛り込みこの問題を検証してみたい。マスコミ関係者に「あれはどうなってんだ?」...... [続きを読む]

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