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2005年9月 7日 (水)

朝日新聞「虚偽メモ」問題を推察

朝日新聞が総選挙をめぐる新党結成報道で「虚偽のメモ」があったとする不祥事の続報がなかなか出てこない。「信頼される報道のために」委員会とやらが「徹底的に点検」するというので待ちたいが現時点で不可解な点を述べる。

当ブログの8月31日の原稿で書いたが「宿直勤務のため」「切り上げ」たというのは私の体験からしてもおかしい。もしや時代が変わったのかと現在支局勤務をしている記者に聞いたところ、やはり泊まり勤務を優先させて重要な取材を打ち切ることはなく「誰かに代わってもらう」という。
泊まりは主として事件の発生に備える勤務である。おおよそ2ヶ月に1回の割合で県警記者クラブの幹事社が入れ替わる。幹事社の時には県警の広報当直から発生の一報を受けて他社に連絡する。幹事社でない場合は幹事社からの一報を受ける。その後にキャップやデスクに連絡して取材が始まるわけだが、この仕事自体は難しいわけではなく新入りでも務める。5年生でないと務まらないというわけではない。

「虚偽のメモ」を送ってしまった28歳男性記者は静岡支局を経て長野総局に来た5年生で県政を担当していたようだ。ここまでは私の予想通り。静岡-長野という総支局のわたり方は決して脱線した路線ではなくむしろエリートに近い。
メモは政治部の依頼で総局長が当の記者に取材を命じたという報道もあった。総支局長がデスクの頭越しに総支局記者を動かすというのはイレギュラーである。総支局長はふだんは現場に介在しないで対外的な役割を果たすのが常だからだ。
もし長野総局長が政治部閥であったならばエリート街道を走っていて本社に「上がる」寸前の記者に武勲を立てさせてやろうと考えたのかもしれない。もしそうならば合点がいく。と同時に当の記者が取材をためらいながらも「虚偽のメモ」を提出せざるを得なかった事情も推測できる。

高校野球が終わって総支局が一息つくべき時に起きた真夏の総選挙でそうでなくても総局員はかけずり回っていたことであろう。朝日は毎日などより人員に余裕もあろうが総選挙となればヒマではない。そこに政治部からの御用達で総局長の下賜モノとあれば疎かにはできないけど・・・・云々といった感覚か。

ただ解せないのは記事を出稿したのではなくてメモだという点だ。いちどきにパーッと記者を走らせて各方面から取材をしてメモを集めてデスクなりキャップなりが出版界でいうところのアンカーを務めるという方法は新聞でも珍しくない。となると文責はむしろ政治部の方にあるのではないか。メモをみせればデスクやキャップはああだこうだと突っ込みを入れてきて甘い取材はもちろん意図せざるでっち上げ(思い込みなど)などを看破していくのが常だ。
まして「虚偽のメモ」は本社に上がる前の記者による。プライド高き朝日政治部が総局員ごときのメモを鵜呑みにするというのはなかなか信じられない。特に今回の記事は田中康夫長野県知事と亀井静香氏の2人がいた。前者は「虚偽のメモ」で信じたとしても亀井氏に「当てる」行為を政治部本体がなぜしなかったのかが不思議でならない。

8月31日付朝日新聞社説によると「虚偽のメモ」は「政治部記者にメールで送った」という。詳細はわからないが普通は総局のデスクを通すものだ。ねつ造とまではいかなくても誤報の類は常に発生する危険が新聞社にはあるので二重三重のチェック態勢になっている。政治部の、しかも現場の記者に取材メモを直接送るというのは珍しい。
「メールで送った」に関しては別の臆測も可能だ。共同通信記者に聞いた話だが最近はデスクへの出稿もすべてメールになっていてデスクも片端からさばいていく。共同は全国の地方紙などに記事を配信するのが大きな仕事だがメール時代になって手書き時代よりも配信記事がドッと増えて地方紙デスクから「もっと絞ってほしい」という注文があるようなないような話だった。その時は「地方紙とはいえ新聞社が通信社に記事を絞れというのはナンセンスだよね」と笑い話で終わったが考えてみれば手書きからメールに代わって便利になった分だけ作業量が増加してチェック態勢をくぐり抜けている恐れがないとはいえない。
8月31日付朝日新聞社説には「こうも続いて(不祥事が)起こると、何か構造的な問題があるのではないかと感じざるをえない」ともある。今年6月まで続いた経済部の箱島信一社長(現取締役相談役)の経営優先の手法を暗示しているのか。

朝日新聞が「サヨ」であるというのは一種の芸風である。この芸風があるからこそ朝日を「サヨ」と批判して産経や週刊文春、週刊新潮などは売れるのだ。ネットをみていると朝日を極左扱いして喜んでいる人が大勢いるが芸風に乗せられているだけなのだよ諸君は。
実際には官僚的組織であり(これは大新聞にはいずれも多少いえるが)政治部と経済部という「硬派」が社長をたすきがけで務める。現に箱島社長の後任は政治部出身の秋山耿太郎氏である。本社に上がる一歩手前の総局員が政治部へのみやげになるかもしれないという取材で勇み足をした。8月31日付社説でいう「社内外での競争がもたらす重圧や焦り。朝日新聞という伝統と看板」の重みである。

以上のような経緯を考えると28歳男性記者を即刻クビにするという手法は苛酷にすぎよう。平たくいえばかわいそうだ。「こうも続いて」が指す不祥事の多くは箱島社長時代に起きているのに彼は今では日本新聞協会会長である。「セクハラを起こした」という理由で日本共産党が筆坂秀世政策委員長を解任させて議員辞職させたニュースを思い出した。せめて処分は「信頼される報道のために」委員会の報告を待ってからでもよかったのではないか。何だか人身御供にされているようである。28歳の記者を浅野内匠頭みたいに問答無用の即刻切腹にするのは気の毒である。

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